ネパール評論

ネパール研究会

ネパール憲法AI探訪(31): 国歌(7)

5.ネパールの国旗・国歌使用細則
   [(1)法令の規定]
   [(2)映画館での国歌演奏]

(3)寺院での国歌演奏
オリ内閣は,映画館だけでなく,パシュパティ寺院でも国歌を流させることにした。

パシュパティ寺院では,2007年から,ランプの灯火を振り神を称える伝統的な祭事「アラティ」を催行してきた。ところが,Y・バタライが文化観光航空大臣に就任すると早々,PADT(パシュパティ地域開発トラスト)に対し,2019年8月30日から,毎夕のアラティ祭事の前に国歌を境内に流すよう命令したのである。

さすが唯物主義政党! 神以前に国家! 徹底している。が,分かりやすいだけに,反発も激しく,批判が殺到した。たとえば,先にも紹介したネパリ・タイムズの名物コラムでThe Ass氏も,こう揶揄したおしている(Ass=愚者,ロバ,尻)。 

「パシュパティの夕方祭事で国歌が流されることになったのは,誠に喜ばしいことだ。これは,絶対に,火葬のときにも行われるべきだ。颯爽たるネパール国歌を火葬の前に演奏することにより,亡くなってしまった大切な人に愛国の送別を贈ることができ,これによって死者も死後のいつの日にか再生できるに違いない。もちろん,死者も,最後にもう一度,国歌演奏を聴くため立ち上がるべきことはいうまでもない。」(Anti-national anthem,2019/09/13/)

こうした批判殺到を受け,10年前からアラティ祭事を担当挙行してきたガンガ・アラティ・ファミリーは,国歌演奏を9月9日から停止してしまった。

これに対し,PADTは,ガンガ・アラティ・ファミリーに出頭を求めたが,ファミリーはこれに応じなかった。そこで,PADTは,ファミリーとの契約を打ち切り,PADTが自ら国歌演奏をすることにしたという。

その後,パシュパティ寺院での国歌演奏がどうなったのか,よくわからない。今もアラティ前に国歌が流され,その都度,サドゥーも参拝者も,死者も猿も,規定通り起立し直立不動,国歌を謹聴しているのであろうか?

【参照】
*1 National anthem resonates at Pashupatinath aarati, Republica,2019/09/02
*2 National anthem at Pashupatinath opposed,Himalayan,2019/09/09
*3 Bhrikuti Rai, As tourism minister orders national anthem at Pashupati, some ask when and where else it should be played at Decision to make national anthem mandatory at temples and cinema halls meets with criticism, Kathmandu Post,2019/09/01
*4 PADT to take action for not playing national anthem before arati at Pashupati, Setopati,2019/09/10
*5 Amish Raj Mulmi, A few more suggestions to become better Nepali nationalists, Kathmandu Post,2019/09/20

 240623 ■アラティ(Youtube)

■パシュパティナート(2009)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2024/06/23 @ 17:02