ネパール評論

ネパール研究会

党内民主化は進むか?

谷川昌幸(C)
デブ・ラジ・ダハール氏の論文――
 
Dev Raj Dahal, The Strengths and Weakness of Party Functioning in Nepal: A Proposal for the Engagement of Party Members (FES Nepal Office, Nov.18, 2009)
 
によれば,ネパールの主要政党は,党内民主化の要求の高まりに押され,党改革を進めつつあるという。
 
(1)マオイスト
マオイストは,2010年1月20日開催予定の全国大会のため,「幹部行動規範」を準備している。それによれば,中央委員会(CC)委員は――
 ・役得を求めない
 ・革命のプロとして行動せよ
 ・NGOに関与しない
 ・汚職等に手を出さない
 ・職場から離れたところに住居を借りない
 ・全財産を党に提供する
 ・子供を留学させない,私学にも入れない
 ・肉体労働を月1日おこなう,ただし中央役職者は2ヶ月に1日とする
なかなか立派な「行動規範」であり,革命的実行を期待したい。
 
マオイストは,党体制を戦時型から平時型へ,集権制から集団指導制へ移行させ,排他的イデオロギー政党から大衆の支持を求める全方向型政党への構造改革を進めているという。
 
(2)コングレス党
コングレスは,党首が党役員の半分を指名し,かつ拒否権を握っていた。この党首権限は,2009年11月の党大会で大幅に制限され,現在では次のようになっている。
 ・中央委員会委員(85人)の75%は選挙で選出
 ・党首は,女性,ダリット,先住民,マデシ,ムスリムの中から,21人のCC委員を指名
 
(3)UML
UMLでは党是の「人民複数政党制民主主義」の見直しをめぐって議論されている。しかし,党内議論が盛んになった反面,派閥政治の傾向も強くなってきている。
 
(4)社会的公正のために
ダハール氏によると,ネパールは3種類(3世代)の人権をすべて受容し,「社会民主主義」となった。
 
各政党の立場は異なるが,少なくとも政治の多元性,人権,自由な言論,独立の司法,自由選挙は受け入れられている。
 
残る問題は,社会的公正(social justice)をいかにして実現していくかであり,これには市民教育(civic education),特に政党民主化が必要であるという。
 
以上の議論は,少々楽観的とも思えるし,短い論文なので分かりにくいところもあるが,混沌たるネパール政治がダハール氏のいうような方向に向かっていくことを願っている。

Written by Tanigawa

2009/12/16 @ 12:11

カテゴリー: 民主主義