ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

菜の花とレイプフラワーとトリコフル

1.タライの菜の花
タライの1~2月は,菜の花満開。広い田畑が,一面見渡す限り,黄色の菜の花で埋め尽くされている。

朝は濃い霧がかかり,地平線の彼方から大きな,大きな太陽がゆっくりと昇ってくる。昼間は,ぽかぽか春の真っ盛り。霞たなびく黄色の大海原を,頭に小篭を乗せた村人らが行きかう。夕には,のんびり草をはみ続ける牛たちの向こうに,赤い大きな太陽が沈んでいく。
150216b■朝日(ルンビニ)

150216c■菜の花(ルンビニ)

2.原風景としての「菜の花♫」
このタライの悠然たる風景は,古き良き時代の私の村の春の日々を思い起こさせる。私の村も,春になると彼方の山の端まで菜の花畑が広がり,蝶々が飛び交い,小川にはメダカが群れ,時間はゆっくり,ゆっくり流れていた。

 朧月夜 (詞)高野辰之,(曲)岡野貞一,文部省唱歌
 菜の花畠に 入日薄れ
 見わたす山の端 霞ふかし。
 春風そよふく 空を見れば
 夕月かかりて にほひ淡し

1学年1学級24人の村の小さな小学校で,春になり菜の花が咲くころになると,この童謡をよく歌った。これこそ,まさしく私の忘れえぬ原体験。菜の花を見るたびに,そしてまた,この歌を聴くたびに,うずくような懐かしさにとらわれずにはいられない。

150216d菜の花(ルンビニ)

3.レイプフラワー
ところが,タライの菜の花畑のことをあるところで話していたら,菜の花は,英語では「レイプ(rape, rape flower)」と呼ぶのだと教えられた。エェッ,まさか? そんな,それはあんまりだ! 

そんなはずはないと願い,帰宅し辞書を見たら,たしかに「レイプ(rape)」だった。ヒドイ! ちなみに,「朧月夜」の英訳(http://lyricstranslate.com/en/oborozukiyo)は――

  The Hazy Moon
  The light red sun is setting beyond the field of rape blossoms.
  Thick fogs spread over the distant mountains
  The soft winds blow over my head.
  The hazy twilight moon hangs in the faint color.

気を取り直し,語源を見ると,厳密には別の言葉であった。
 (1)カブ ⇒ ナタネ
 (2)強奪 ⇒ 女性の獲得,女性への性暴力・強姦

しかし,たとえ語源が別であっても,レイプはレイプ。いま現在,「レイプ」と聞いて「強姦」をイメージするな,といわれてもそれは無理。「レイプ」には忌まわしい含意がまとわりついている。ギリシャ語やラテン語を語源とする言葉をもつ人々には,意味の切り替えが出来るのかもしれないが,日本人の私には,どうしてもできない。菜の花は,「レイプ」とは無縁の,「やさしさ」と「浪漫」にふんわりと包まれた「のどかさ」の象徴でなければならない。

4.トリコフル
では,ネパール語はどうか? 菜の花に相当するのは,トリフラ(तोरिफुला )ないしトリコ・フル(तोरीको फूल),つまり「トリ(アブラナ,カラシナ)の花」。

辞書には,見た限りでは,これ以上の説明はない。サンスクリットか何かの語源をさかのぼれば,いわれがわかるかもしれないが,この方面には疎く,私には困難。また,「トリの花」をみて,ネパールの人々がどのような感情を抱くかは,それこそ民族ごとに調査してみなければわからず,これもすぐには難しい。

ただ,それでも,「トリの花」をみてネパールの人々が抱く感情と,「トリの花」を「菜の花」とみて日本人が抱く感情とでは,相当に異なるのではないか,ということだけは十分に推測することができる。

150216e■麦と菜の花(ルンビニ)

5.旅の醍醐味
同じものを見ても,文化により,見方が大きく異なる。難しくもあり,面白くもある。このことを実地体験してみるだけでも,旅はしてみるだけの価値はある。

150216a■夕日(マドゥマッラ,ジャパ郡ダマック)

【補足訂正(2015年2月18日)】 「トリコフル」については,ウプレティ美樹さんから,ひどく殴られたり頭をぶつけたりしたとき「トリコフル」が見えたという,と教えていただいた。ありがとうございました。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/18 @ 14:20