ネパール評論

ネパール研究会

新憲法の制定公布,7月中旬の予定

1.4党合意と新憲法制定手続き
議会主要4党が6月8日,新憲法の基本構造について合意に達し,文書「16項目合意」に署名した。

署名したのは与党のコングレス(NC)と統一共産党(UML),野党のマオイスト(UCPN-M)とマデシ人民権利フォーラム(MJF-L)。この合意形成により,反政府30党連合は分裂し,合意4党が制憲議会議席の8割以上を占めることになった。完全なコンセンサスではないまでも,それに近く,たとえ投票となっても,新憲法を成立させるに十分な議席数である。新憲法制定の手続と予定日程は,以下の通り。(6月8~12日付ネパール各紙参照)

6月8日:4党「16項目合意」
6月9日:制憲議会が,「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC,バブラム・バタライ委員長)」に憲法懸案事項に関する審議と合意形成を付託。
6月11日:CPDCCが制憲議会に報告書を提出。
6月12日:制憲議会が,CPDCC報告書を賛成多数で承認し(反対RPP-N,退席MJR-N,TMLP,サドバーバナ),憲法起草委員会(KP・シタウラ委員長)に送付。憲法起草委員会は,CPDCC報告書に基づき,15日以内に,憲法案を起草。
6月下旬:憲法起草委員会が,憲法草案を制憲議会に提出の予定。
7月16日までに新憲法の制定・公布の予定

2.「16項目合意」の要点
憲法起草の指針となる「16項目合意」の要点は,以下の通り(Kathmandu Post, 9 Jun)。

(1)ネパール連邦民主共和国は,8州からなる。州は,アイデンティティ(エスニシティ/コミュニティ,言語,文化,地理,歴史)と地域の能力(経済力,インフラ,自然資源,行政効率)により区画する。

(2)州名は,州議会において2/3の多数により決定。

(3)州の区画は,連邦委員会(任期6か月)が原案を作成し,それに基づき立法議会において2/3の多数により決定する。

(4)議会は,連邦立法議会(下院)と上院の2院制。州議会は1院制。

(5)下院の議員定数は275。うち165は小選挙区制選出。110は比例制選出。

(6)上院の議員定数は45。うち40は各州から5ずつ選出。5は,内閣の推薦に基づき大統領が指名。

(7)多党制を採り,議会の多数派政党または多数派を代表する議員が,首相となる。

(8)立憲大統領。連邦議会と州議会から構成される選挙人団が,立憲大統領を選出する。
 (UCPNは,この立憲大統領制について留保するが,憲法制定手続を進めることには同意。)

(9)新憲法制定後,新たに成立する立法議会において,2007年暫定憲法に基づき,大統領,副大統領,首相,議長および副議長を選出する。

(10)次の下院議員選挙が実施されるまでは,新たに成立する立法議会が,2007年暫定憲法に基づき,首相の選挙,信任または不信任の投票,および組閣を行う。大統領,首相等に対する弾劾も2007年暫定憲法により行う。

(11)独立の公平で効率的な司法制度の確立。

(12)最高裁は正式記録裁判所であり,憲法の最終解釈権を持つ。

(13)憲法裁判所の設置。憲法裁判所は,中央と州,州と州および州と地方自治体の間の紛争,ならびに下院,上院および州の選挙に関する紛争を管轄し,それらに関する最終審となる。最高裁長官が裁判長。設置期間は新憲法の公布から10年間。

(14)司法会議は2007年暫定憲法の規定に基づき設置。

(15)憲法制定は,連邦制,統治形態,選挙制度および司法制度に関するこの基本合意の精神に基づき,進められる。

(16)地方自治体選挙を早急に実施する。

[署名]
 NC: S・コイララ (首相)
 UML: KPS・オーリ
 UCPN-M: PK・ダハール
 MJF-L: BK・ガッチャダル

150612■制憲議会

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/12 @ 20:25

カテゴリー: 議会, 憲法

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