ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

マデシ州を認めると主権喪失,チトラ・KC副首相

マンデル無任所大臣の印私服兵派遣発言(11月2日)CP・マイナリ副首相の印タライ併合発言(11月7日)が印政府の激怒を買ったばかりだというのに,今度はチトラ・バハドゥル・KC副首相が,11月13日のテレビ・インタビューで,同趣旨の発言をした。インド紙「The Hindu」が大きく報道している。

チトラ・KC副首相は,国民人民戦線から出ている。副首相は6人もいるとはいえ,発言はヒラ大臣よりも格段に重い。マンデル大臣,マイナリ副首相に続く3人目,しかもマデシ問題の本質を突く,あけすけの本音発言だ。これは重大。以下,発言要旨。

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憲法規定の州区画を改め,タライだけの州をつくると,ネパールは主権を失うことになる。「南部のタライ平原・丘陵地・山地の三地域は,相互に依存しており,そこに手を付けるべきではない。」

「マデシ諸党が東部のジャパ,モラン,スンサリ,西部のカイラリとカンチャンプルを彼らの州に組み入れよと要求している理由が,一点の疑問もないほど明白になった。いま,ネパールは,ネ印国境封鎖のため,苦難に直面している。・・・・このことこそ,タライを他の地域から分離することが,この国にとって破滅的となることを,何よりもよく物語っている。」

「ネパール人民は,その希望に沿って憲法を公布したため,経済封鎖をもって処罰されている。」マデシ問題は,ネパールの内政問題であり,外国の助けは不要だ。
  * “Nepal to lose sovereighty if Terai is separated: Deputy PM,” The Hindu, 14 Nov. 2015
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  151116■国民人民戦線

タライのマデシやタルーが,長年にわたり,カトマンズの封建王政ないしパルバテ・ヒンドゥー高位カースト寡頭政により支配・搾取されてきたことは,疑う余地のない歴史的事実。この封建支配体制は,マオイスト人民戦争により打倒され,包摂民主主義を理念とする人民主権の連邦共和国が成立した。マデシやタルーは,これにより伝統的な支配・搾取から解放されると期待した。

ところが,彼らによると,新体制は,王制を否定したものの,カトマンズ中心の諸勢力がタライを支配し抑圧する構造はそのまま温存し,それを新憲法に書き込んだ。すなわち,タライを分断し,タライの自治を否定し,タライをカトマンズ中心の支配諸勢力に隷従させ続けることにした。

タライは,タライだけで1州ないし2州を要求しているのに,カトマンズ諸勢力はタライを縦にいくつかに分断し,北側の丘陵地と組み合わせ,そうすることによってタライを丘陵地諸勢力に隷属させ続けようとしている,というのだ。

このタライ住民の主張には,相当の根拠がある。伝統的上位カーストは,タライ諸民族に自治権を与えることを恐れている。タライ諸民族中心の州ができると,州ごとインドに接近し,カトマンズ中央権力のコントロールが効かなくなる。

チトラ・KC副首相の危惧する通りだ。ネパール国家主権は危うくなる。国家主権,国民主権を重視するなら,タライ州は危険であり,認められない。これに対し,民族自治を重視するなら,タライ州は認められねばならない。

この二律背反は,ネパール憲法そのものに内在する矛盾だ。国民の統一と主権を訴えるカトマンズ政府側も,民族州の自治を求めるマデシやタルーも,同じくらいの正当性をもって憲法に訴えることができる。これは難しい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/16 @ 21:30