ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

戦争犯罪免責と移転土地登記:ネパール与党の「9項目合意」

マオイスト(UCPN-M)が5月5日,CPN-UMLと「9項目合意」を締結し,マオイスト=UML連立によるオリ政権継続を確認した。

1.「9項目合意」の概要
「9項目合意」にはオリ首相(UML)とプラチャンダ議長(UCPN-M)が署名した。各紙報道によれば,主な合意事項は次の通り。
 ・国民的合意を形成し憲法を施行していく。
 ・人民戦争犠牲者の救済。
 ・「移行期正義」および「真実和解委員会」に関する諸規定を改め,人民戦争関係訴訟を終わらせる。
 ・人民戦争中に移転した土地の登記。
 ・以上の事項が遵守されれば,マオイストはオリ政権支持。
 ・[予算案が成立したら,首相職をプラチャンダ議長に禅譲。(紳士協定とも言われているが,真偽不明。)]

2.戦争犯罪免責と移転土地登記
この「9項目合意」は,装飾的な部分を除けば,核心部分は人民戦争中の人権侵害や反人道的行為の免責と,人民戦争中に移転(強奪?)された土地の登記ということになろう。ちなみに,人民戦争中の死者2万人弱,土地移転5000件以上。

これらの死者や土地移転に関係する人々は,人民戦争中の体制側にもマオイスト側にもいた。それらの人々のうち,この合意により利益をえられそうな人々が,合意締結に動き,締結後はその実行を求めているのではないかと思われる。

しかし,犠牲者,被害者の側からすれば,戦争犯罪免責や移転土地登記は,とうてい受け入れられるようなことではない。そこで彼らは,首相官邸前などで抗議活動を始める一方,最高裁にも「9項目合意」違法の訴えを出した。これらの反対闘争は,今後,さらに激化しそうである。

3.人権諸団体の反対声明
この「9項目合意」については,人権諸団体も厳しく批判し反対する声明を出し,撤回運動を始めた。たとえば,「人権監視(HRW)」と「アムネスティ・インターナショナル(AI)」と「国際法律家委員会(ICJ)」は,連名で,「9項目合意は移行期正義を損なう」(*)と題する声明を発表した。そこでは,このようなことが指摘されている。

「与党間のこの政治取引は,移行期正義手続きの信頼性を著しく損なうものだ。」(ICJアジア太平洋局サム・ザリフィ局長)

「ネパールの与党は,犠牲者の真実・正義・賠償への権利を取引材料とすべきではない。」(AI南アジア事務局チャンパ・パテル局長)

「与党は,紛争期の人権侵害の責任者たちを免責する政治取引をしたが,これは適正な救済を受けるべき被害者の権利を侵害し,ネパールの国際法上の義務を無視する非情な行為である。」(HRW南アジア局ブラッド・アダムズ局長)

 160513

[参照]
*1 HRW, ICJ & AI, “Nepal: 9-Point Deal Undermines Transitional Justice,” May 12 & 13.
*2 “CPN-UML, UCPN-M ink 9-pt agreement,” Himalayan, May 06.
*3 “Rights bodies concerned over 9-point agreement,” Himalayan, May 13.
*4 “Conflict victims, rights activists stage protest in Baluwatar,” Himalayan, May 11.
*5 “Writ against UML-Maoist deal,” Nepali Times, May 9.
*10 “SC moved against nine-point pact,” Himalayan, May 10
*11 “UCPN-M working to amend laws as per nine-point agreement,” Himalayan, May 10.

Written by Tanigawa

2016/05/13 @ 21:00