ネパール評論

ネパール研究会

国語としてのネパール語の位置

カナクマニ・デグジト氏が,「ネパール語の位置(ネパール語の役割)」と題した興味深い記事を『ネパリ・タイムズ』(4月7-13日号)に書いている。専門外の私には少々わかりにくい文章だが,論旨はおおよそ次のようなことだろう。(厳密には原文をご覧ください。)

ネパール語は,ネパールの国語(国家語・国民語)であり,ネパールの人々の便利な共通語(リンガフランカ)だが,その反面,それがネパールで用いられてきた他の多くの言語の衰退を招いたこともまた事実である。

歴史的にみて,ネワール語かマイティリ語あるいはヒンディ語にもチャンスはあったが,結局,国家統一した「カス」の人々の言語たるネパール語がネパールの国語・共通語になった。

特に1960年代以降,カトマンズの中央権力が国家統治のためネパール語を国語として普及させていった。また,知識人らも,ネパール語を多様な人々の住むネパール社会に適するように発展させていった。

ネパール語普及には,ゴルカ兵も大きく寄与した。ゴルカ兵は任地でネパール語を共通語として使用して習熟し,退役帰国後は,ネパール語訳『ラーマーヤナ』を持ち帰るなどして,非ネパール語地域にネパール語を広めた。

さらにもう一つ,ネパール語それ自体がきわめてダイナミックな言語だったことも,その普及に大きく寄与した。ネパール語は,複雑な思考や感情を簡潔な文章で表現できるし,擬音語(オノマトペ)も豊富だ。ネパール語は,この優れたダイナミズムにより,ネパールの他の言語とも結びつき,ネパールの国語・共通語となることができたのだ。

その結果,ネパールには,他の南アジア諸国に見られるような,英語対自国語といった言語対立・言語格差(English vs. Vernacular devide)はない。その反面,国語としてのネパール語を持つがため,外部世界との関係では島国的となるきらいがあり,今後,それが問題となるであろう。

以上がカナクマニ・デグジト氏の記事のおおよその論旨だとすると,彼はかなりのネパール語ナショナリストと見てよいであろう。しかし,国語としてのネパール語のおかげで,少なくともネパール国内には英語使用者と非使用者の間の言語に起因する深刻な対立や格差はないというのは,事実であろうか? とても,そのようには思えないのだが。


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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/04/15 @ 15:26

カテゴリー: 言語, 文化

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