ネパール評論

ネパール研究会

投票用紙の分離印刷,最高裁命令

国会議員/州会議員選挙の前期投票日(11月26日)まであとわずかだというのに,投票用紙の書式をどうするかで,もめている。

選管は,投票用紙は小選挙区用1枚,比例制用1枚の2枚とすることにし,準備を進めてきた。投票用紙の上部が国会用,下部が州会用。ところが,これでは小政党に不利だし有権者も混乱するという批判が高まり,10月8日にはRJP-Nが,国会用と州会用とに分けそれぞれ2枚印刷することを求める訴えを最高裁に出した。

この訴えに対し,最高裁は10月18日,比例制用はすでに印刷に入っているとして投票用紙分離仮命令の請求は棄却したが,投票用紙分離の必要性は認め,選管に対し小選挙区用の準備進捗状況の報告を命令した。

この最高裁命令は,報道通りだとすると,あいまいで不明確。そのため選管は,分離印刷仮命令請求が棄却されたので,それ以外の部分も法的拘束力をもつものではないと考え,既定方針通り比例制用1枚,小選挙区用1枚を印刷することにした。

この選管の動きに対し,RJP-Nは,それは法廷侮辱にあたるとする訴えを出した。これを受け最高裁は10月25日,小選挙区投票用紙は国会用と州会用の2枚に分け印刷すべきだと判事した。

しかし,選管は10月27日,やり直していては間に合わないとして,既定方針通り印刷して選挙を実施することを決め,最高裁には後日それにつき弁明することにした。

以上がこの件の概要だが,いつものこととはいえ,この件にも報道からだけではよく分からないところがある。投票直前になって,なぜ投票用紙の書式で,これほどもめるのであろうか?

一つの要因は,選挙直前に決まった共産党系諸党の選挙協力への警戒がある。この選挙協力がうまくいけば,UML=マオイスト連合は大勝する可能性大だ。しかも,選挙後,共産党系諸党は大同団結し一つの「共産党」を立ち上げる構想もある。選挙優勢とみてか,最高裁命令を理由とする選挙延期には,UMLもマオイストも絶対反対を唱えている。

もう一つは,これと関連するが,インドの影。UML=マオイスト連合が大勝すれば,選挙後,強力な共産党政権が成立する。これまでの経緯からして,この共産党新政権は親中政策をとる可能性が高い。これは,インドとしては避けたいところだ。むろん,インド政府が表立って何か言っているわけではないが,インド・メディアの方は選挙延期をさかんに書き立てている。インドとしては親中派政権の誕生を阻止したいと考えているとみるのが,やはり自然であろう。

▼投票用紙分離決定(10月30日追加)
選管は10月27日,小選挙区用投票用紙を国会用と州会用に分け,それぞれ1枚ずつ印刷することを決めた。(上記報道と一部矛盾するが,諸機関への配慮と混乱の結果,分離印刷決定発表が遅れたらしい。)前期選挙は,予定通り11月26日に実施される。選管も,最高裁命令を無視することは,さすがに出来なかったらしい。切羽詰まっても,やればできる――いかにもネパールらしい。

■8月4日バラトプル市再選挙用投票用紙(選管HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/29 @ 19:14

カテゴリー: 選挙, 政党

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