ネパール評論

ネパール研究会

キリスト教とネパール政治(1)

ネパールでは2017-18年,地方(町村),州,連邦の3レベルの選挙が実施された。これにより,2015年憲法の定める地方政府,州政府,連邦政府が成立,人民戦争後新体制が名実ともに正式発足した。

選挙では,新生「ネパール共産党(統一共産党・マオイストセンター連合)」が大勝し政権を担うことになり注目されているが,ここでもう一つ,見落としてはならないのがキリスト教と新体制との関係である。

宗教と政治の関係は,ネパールでは”微妙な”テーマであり,特にキリスト教については取扱注意,報道は多くはないが,いくつか散見される資料を手掛かりに,ネパールにおけるキリスト教と政治の関係の現状の一端を見ておくことにする。

1.「キリスト教徒急増」問題の複雑さと危険性
世界各国のキリスト教系メディアでは,ネパールは「キリスト教徒急増の国」として注目され,繰り返し紹介されている。それは,いわば現代ネパールの枕詞。

ネパールのキリスト教徒は,全人口に対し1991年0.2%,2001年0.5%,2011年1.4%と増加してきたとされているが,実際にはそれ以上で,現在3~7%,あるいは2~3百万人ともいわれている(正確な教徒数は不明)。日本は1%(2012年)だから,少なめに見積もってもネパールではすでに日本以上にキリスト教徒比率が高くなっていることは確かだ。

ネパールでキリスト教に改宗しているのは,ダリットなど,いわゆる「低カースト」の人々や,タマン,タルーなど差別されてきたとされる諸民族の人々が中心と見られている。そのため,キリスト教改宗問題は,カースト間闘争,貧富階級間闘争,民族闘争の様相をも多かれ少なかれ帯びざるを得ない。

さらに,ネパールのキリスト教会は,西洋やアジアの富裕な先進諸国の教会に物心両面で支援されていると見られているので,ネパールにおける改宗は外交問題でもある。たとえば,憲法の「布教禁止」規定の撤廃をあからさまに要求したスパークス駐ネ英国大使の2014年の発言は,キリスト教国の露骨な内政干渉の典型として,ネパールではいまもって繰り返し非難攻撃されている(改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント)。キリスト教は,ネパール・ナショナリスト,とりわけヒンドゥー・ナショナリストにとっては,不倶戴天の敵なのだ。

キリスト教布教は,このようにネパールでは,複雑で,微妙で,難しく,危険きわまりない問題である。今後,布教がさらに進めば,問題は一層深刻化するであろう。

【参照】キリスト教会ネットサイトも急増している。下掲はそれらのうちのいくつか。
  
 ■Turahi News / Churches Network Nepal

   
 ■Good News Media / Mission in Church / Assumption Church

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/03/25 @ 16:43

カテゴリー: 宗教, 憲法

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