ネパール評論

ネパール研究会

老老介護,事始め(12):ネパール憲法の高齢者権利保障

現行「2015年ネパール憲法」は,市民(国民)一般への権利保障に加え,特に高齢者に関する条を別に設け,「高齢者の権利」を保障している。

第41条 高齢市民の権利
高齢市民は,国家による特別の保護(बिशोष संरक्षण)と社会保障(सामाजिक सुरक्षा)を受ける権利を有する。

2015年憲法では,他に第18条(平等権)において,高齢市民の保護・能力向上・地位改善のための特別法の制定を認め,第259条(国家包摂委員会の機能,義務および権限)では国家包摂委員会に高齢市民の権利や福祉を守るための調査研究の権限を付与している。

四半世紀前の「1990年憲法」をみると,高齢者の権利を定めた独立の条はない。高齢者は,女性,子供,障害者らと同様,保護の必要な社会諸集団の一つとされ,第11条(平等権)で高齢者のための特別法の制定を認めているにすぎない。また第26条(国家の政策)では,高齢者の社会保障を定めているが,これは政策目標であり,いわゆる「プログラム規定」である。

「2007年暫定憲法」になると,女性と子供にそれぞれ独立の条が割り当てられ,「第20条 女性の権利」,「第22条 子供の権利」とされたが,高齢者にはまだ独立の条はなかった。それでも,「第18条 雇用と社会保障に関する権利」において,高齢者は女性,障害者らとともに,社会保障への権利が認められた。高齢者のための特別法が認められているのは,1990年憲法と同様。

そして,2015年憲法になって初めて,高齢者の権利が独立の条として規定されることになった。この1990年憲法から2015年憲法に至る四半世紀の憲法規定の変化は,ネパールにおける高齢者問題の表面化・深刻化を如実に物語っているといえよう。

■老人ホームのFB(カトマンズ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/05/18 @ 15:15

カテゴリー: ネパール, 健康, 憲法, 人権

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