ネパール評論

ネパール研究会

Archive for 12月 2018

ゴビンダ医師のハンスト闘争(12)

1.民主的専制とサティヤグラハ:ネパールから学ぶ
2.ゴビンダ医師ハンスト略年表
3.マテマ委員会報告
4.医学教育令制定と医学教育問題調査委員会報告(以上前出)

5.オリ共産党政権成立とその医学教育政策
(1)医学教育政策後退とゴビンダ医師の抵抗
2018年2月15日,オリ共産党政権が発足した。ゴビンダ・KC医師の要求する医学教育改革については,コングレス党前政権も積極的とは言えなかったが,それでも前年秋,ゴビンダ医師の要求をほぼのみ「医学教育令2074(2017)年」を制定した。ところが,同政令発布直後の総選挙で大勝し政権を奪取した共産党(NCP)は,ゴビンダ医師の要求するような医学教育改革には強硬に反対してきた。ゴビンダ医師の改革要求闘争は,オリ政権発足により,これまでの成果ですら根こそぎ反故にされかねない状況となった。

事実,オリ政府は,「医学教育令2074年」の施行にも,それを法律として制定することにも否定的であった。また,医学教育問題調査委員会(MEPC)報告の公表や,そこで勧告されている腐敗・権力乱用責任者処罰にも着手しようとはしなかった(*1)。

これに対しゴビンダ医師は,改革要求が容れられなければハンストに入る,と繰り返しオリ政府に警告した。そして,このゴビンダ医師の不屈の戦いに,市民・学生・保健医療関係者らの支持も拡大し,政府はついにシンハダーバー(政庁地区)南西角交通要所のマイティガル・マンダラでの集会を禁止する強権発動に出た(集会参加者一斉逮捕は6月30日開始)。政府が力で医学教育改革を抑え込もうとしていたことは明らかである。

■マイティガル・マンダラ(赤丸印,Google)

しかしながら,それでもゴビンダ医師への支持拡大は止められず,「医学教育令2074年」の次の期限(7月4日)までに何らかの具体策をとらざるを得ない状況に,オリ政府は追い詰められていった。この間の経過の概略は以下の通り。

5月3日,ゴビンダ医師は,「次の議会で医学教育法が制定されることを期待している」とのべ,もし同法制定をはじめとする医学教育改革が実現されなければハンストに入る宣言した。主な改革要求:
・「医学教育法」の制定
 ・医学教育問題調査委員会報告で処分勧告された43人の処分実施
 ・規定以上の授業料を取る医大の処分
 ・マイティガル・マンダラでの集会禁止の撤回

これに対し,オリ内閣は5月9日,「医学教育令2074年」の継続を議会可決はしたが,それ以上の改革には手を付けようとはしなかった。そこでゴビンダ医師は6月7日,従来の改革要求に医療関係者脅迫禁止法の制定など新たな要求をいくつか加えた「6項目要求」を政府に突き付け,要求が容れられなければハンストに入る,と改めて宣言した。

ところが,議会で三分の二以上の絶対多数を握るオリ政権は,またもやゴビンダ医師の要求を無視した。オリ首相は,デウバ内閣がゴビンダ医師の諸要求をほぼ受け入れ制定した既存の「医学教育令2074年」を法律として継承発展させるのではなく,その精神に反する新たな“医学教育法”の制定(旧医学教育法への事実上の復帰)を目論んでいた。ゴビンダ医師は,こう非難している。

「この政府の方針は認められない。われわれは,一般の人々に利用可能な高度な医療と,妥当な負担で可能な高度医学教育を実現するために闘っているのだ。(*2)」

ことここに至って,ゴビンダ医師は,オリ政府には医学教育改革への意思なし,と判断せざるをえなくなった。そして,ついに6月29日,北西部カルナリ州のジュムラにおいて,彼は無期限ハンストに入ることになったのである。第15回目のハンストである(*2)。

■BBCのハンスト報道(ゴビンダ教授連帯FB)

*1 “Dr Govinda KC serves 15-day ultimation, warns of another hunger strike,” Onlinekabar, 3 May 2018
*2 “Dr KC to start 15th fast unto death from today, in Jumla,” Republica, 29 Jun 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/12/29 at 16:21

師走の西播磨

兵庫県南西部,西播磨の龍野と赤穂に12月10日,行ってきた。宝塚からだと,中国道・山陽道経由で2時間強ほど。

高速道を降り海岸沿いの一般道に入ると,瀬戸内海には無数の小島が浮かび,くねくね入り組んだ小さな湾の奥には古い港が見られる。

陸側には,お椀を伏せたような独特の形をした小山が連なっている。ほとんどが落葉樹で,師走中旬というのに,ほぼ全山がまだ茶や黄色に彩られている。ところどころに,ウルシであろうか,真っ赤に紅葉した灌木も見られる。紅葉盛りや新緑の頃は,さぞかし華やかなことであろう。

龍野は,山際のこじんまりした城下町。月曜は,三木露風生家,矢野勘治記念館など,ほとんど休館で見学できなかったが,外からだけでも醤油醸造所など伝統的な落ち着いた町並みが十分楽しめた。

赤穂も城下町で,広大な城址が残っている。温泉のある赤穂御崎からは,瀬戸内海の景観,とくに夕日が見事だ。


 ■龍野城/旧地名図


 ■醤油醸造所(龍野)/はんこ屋さん

■室津港


 ■赤穂城址前/塩販売看板


 ■早朝の瀬戸内海(赤穂御崎より)


 ■夕陽の瀬戸内海(赤穂御崎より)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/12/16 at 11:30

カテゴリー: 自然, 文化, 旅行

Tagged with , ,

師走の丹後の村

わが「負動産」の片付けに,丹後の村に行ってきた。師走というのに異常に暖かく,まだ秋盛りのよう。付近の村は,2018年豪雪のせいか,荒廃が一段と進んだようだ。懐かしい山村風景が冬を越すたびに失われていく。


 ■紅葉の村/鉄橋を渡る気動車

 
 ■河原のススキと村/土蔵

■カヤ屋根の古民家


 ■カキとカン(空カンは鳥獣除け?)


 ■ゴールポスト?/廃屋

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/12/08 at 15:45

カテゴリー: 社会, 自然

Tagged with ,

晩秋の丹波

数年前,兵庫県宝塚市に引っ越してきたが,兵庫県のことは,まだよく分からない。

兵庫県は,瀬戸内の淡路島から日本海側の城崎付近まで想像以上に広く多様性に富むが,それだけにかえって県としての統一性,県アイデンティティに欠ける。県内自治体の姫路,神戸,芦屋,宝塚などはそれぞれ全国的に著名だが,兵庫県となると「?」というのが,新入県民としての偽らざる印象だ。

これではならじと,11月下旬,丹波バス日帰りツアーに参加した。紅葉の洞光寺,高源寺,円通寺を参拝し,「松茸ごはん」をいただくという企画。平日なのに,満席だった。

紅葉の方は,温暖な気候のせいか,いまいちだったが,大きな格式のある民家(たぶん農家)があちこちで目に付いた。この地方は農村として栄えてきたのだろう。


 ■円通寺/付近の民家


 ■洞光寺前の民家の蔵

■洞光寺前で黒豆収穫

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/12/07 at 14:54

カテゴリー: 自然, 農業, 旅行

Tagged with ,

ゴビンダ医師のハンスト闘争(11)

(3)ガウリMEPC委員長の医大ビジネス批判
MEPC委員長のガウリ・カルキ(Gauri Bahadur Karki)は,法律家として様々な委員会に参加し,汚職責任追及を中心に重要な役割を果たしてきた。特に特別裁判所裁判長(2009年3月~2012年12月)であったときは,有力政治家,高級官僚,警察幹部,軍幹部らの汚職解明に取り組み,責任を厳しく追及してきたことで知られている(*1)。

ガウリ・カルキは,2月4日のMEPC報告書提出後,委員長の職を退いたようだが(退任日不明),医学教育問題については,その後も厳しい批判を続けている。医学教育の現状認識についてはゴビンダ医師と基本的には同じであり,いわば「共闘」関係にあるので(実際に両者の関係がどうなのかは不明だが),以下,2018年7月16日付『セトパティ』記事(*12)に基づき,彼の発言要旨を紹介する。

医大経営は金密輸より儲かる。
「金密輸には危険が伴う。投資が必要だし,密輸の金を没収されるリスクもある。ところが,医科大学では,投資なしでも金儲けができる。たとえインフラ不備であっても,政治家に少し金を握らせて医大提携開設認可を取得し,次にネパール医学委員会(NMC)を買収して入学学生定員枠を取得すれば,それだけで,以後,何十億ルピーも掻き集めることが出来る。」

買収は割に合う。
「授業料が1人500万ルピーだとすれば,医大は学生を50人多く入学させれば,それだけで収入が2億5千万ルピー増えることになる。誰でも買収できるのは,それゆえである。」
「医大が何十億ルピーも掻き集められるのは,高度な教育も,有能な教授雇用も,不可欠の設備機器購入も,病院の良好な運営も必要としないからである。その結果,政治家や役人を買収する金は,ふんだんにあることになる。医療分野の腐敗の根本原因は,ここにある。」

NMC汚職
「NMC(ネパール医学委員会)の医大調査には5~7人が行けば十分なのに,18~20人の全スタッフが出向く。調査ではなく,金儲けのために他ならない。」
「こうした不正行為が明らかになったのは,ゴビンダ・KC医師が不正行為廃絶闘争を始めて以降のことである。」

政治家は外国病院に行くな。
「政治家は,ネパール国民を国内開設医大のなすがままにまかせ,自分たちだけ外国に行って治療を受けるべきではない。」

■ガウリ氏ツイッターより

*1 “Gauri says goodbye to SC,” Kathmandu Post, 13 Dec 2012
*2 ”Probe panel summons 20 ex NMC officials for investigation,” Republica, August 4, 2017
*3 “Medical education ordinance sent to president,” educatenepal.com, 2017-10-24
*4 “President enacts Medical Education Ordinance,” Onlinekhabar, Nov 10, 2017
*5 “Probe Commission summons TU, KU officials,” Republica, November 13, 2017
*6 “Medical education probe panel summons officials,” Himalayan, 13 Nov 2017
*7 “No action yet against 43 officials fingered by medical probe panel,” Republica, 1 Jun 2018
*8 “MEC holds first meeting, office to be set up at MoE,” Himalayan, February 06, 2018
*9 “Probe committee suggests reforms in medical education,” Himalayan, February 06, 2018
*10 “Corruption in med education: Govt mum on probe report,” Kathmandu Post, Feb 8, 2018
*11 “MEPC report and the issue of reform in the medical education section,” Review Nepal, 18 Feb 2018
*12 Prashanna Pokharel,“Medical colleges earn more easily: Probe Commission chair Prashanna Pokharel,” Setopati, 16 Jul 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/12/03 at 07:06

カテゴリー: 健康, 教育

Tagged with , , ,

ゴビンダ医師のハンスト闘争(10)

(2)MEPC報告書の提出
デウバ首相による「医学教育令」制定の3か月弱後,首相任期終了(2018年2月15日)直前の2018年2月4日,「医学教育問題調査委員会(Medical Education Probe Committee [MEPC])が調査報告書をデウバ首相に提出した。

MEPCは,ゴビンダ医師らの要求によりプラチャンダ首相(MC)が2017年4月17日に設置した委員会であり,紛らわしいがMNC(ネパール医学委員会)とは別の組織。

医学教育問題調査委員会(MEPC)
設置目的・権限:医科・歯科大学の開設,授業料,学生数,教職員配置などの調査,および「ネパール医学委員会(Nepal Medical Council)」の運営状況調査。
委員長:ガウリ・B・カルキ(元特別裁判所裁判長[注])。
委 員:ウペンドラ・デブコタ(医師),スルヤ・P・ガウタム(教育省事務次長),ほか数名。
[注]最高裁判所―上訴裁判所(16)―郡裁判所(75)
最高裁判所―(他の裁判所)特別裁判所/行政裁判所/労働裁判所
(ただし連邦制移行に伴い,裁判所組織も改変中。)

このMEPCが2017年8月3日,ネパール医学委員会(NMC)の元委員らを召喚し,医科大学受入学生不正増員容疑で聴取することを決めた。召喚されたのは,アニル・K・ジャー元委員長,AE・アンサリ元副委員長を含む元委員ら20名(*2)。

さらにまたMEPCは,職権乱用調査委員会(CIAA)の専門職員8名も,カトマンズ大学医学部大学院入試に不正関与した容疑で召喚した。

そして11月に入り,医学教育令が制定されると,その直後の11月12日,MEPCはトリブバン大学(TU)とカトマンズ大学(KU)の幹部の召喚を決めた。TU幹部はカトマンズ・ナショナル医科大学設立に不正関与した容疑であり,KU幹部は医大授業料不正値上げの容疑。

召喚された大学幹部
TU:ヒラ・B・マハルジャン元学長,ティルタ・R・カニヤ学長,スダ・トリパティ名誉総長(Rector),ディリ・ウプレティ教務職員(Registrar),およびカトマンズ・ナショナル医科大学インフラ監査担当のカルビル・N・シャルマ教授ら他の教職員6名。
KU:ラムカンタ・マカジュ学長ほか。

さらにこの日,MEPCは,前回の召喚に応じなかったNMC調査委員のシャシ・シャルマ医師も再召喚した。

このようにMEPCが召喚し聴取してきたのは,主にネパール学界,政官界の著名有力者たちであり,ここからだけでもネパールにおける医学教育問題の根深さ,解決の難しさがよく見て取れる(*5,6)。

MEPCは,こうした召喚・聴取に基づき2018年2月4日,デウバ首相に報告書を提出した。その概要は以下の通り。

MEPC報告書概要
・医学分野の改革につき調査し,それに基づき改革を実行せよ。
・医学生たるに必要な能力の確保・維持。
・医科大学学生定員は,NMCが割り当てる。
・学生数過多,授業料過大徴収,教育水準不足の医科大学に対する処分。
・大学,保健省,教育省,NMC各代表からなる委員会を設置し,医大を年2回以上調査。
・不正関与の教職員等43名の適正な処罰。処罰被対象者は,召喚されたTU学長らであり,在職者は免職。また,医学教育に不当介入したCIAAロックマン・カルキ委員長についても適正な処分を行う。
・連邦医大を設置し,その下に各州3校までの提携医大設置を可能とする。
・医学教育令が実際に施行されるまで,提携医大の学生数は提携元大学が定める。
・医科大学の大学暦の統一。

このような内容の報告書を作成したMEPCは,それをデウバ首相に提出しようとしたが,当初,首相は受け取りを拒んだ。これに対し,ガウリ・カルキMEPC委員長が受け取らないなら郵便で送りつけると迫ったので,仕方なくデウバ首相は2018年2月4日,報告書を受け取り,担当の教育省に回した。ただし,報告書を受け取ったものの,首相はそれを公表せずコメントも一切拒否した。保健医療改革への消極姿勢が如実に表れている(*7,8,9,10,11)。

▼カトマンズ・ナショナル医科大学(同校FBより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/12/01 at 15:17

カテゴリー: 健康, 教育

Tagged with ,