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ネパール憲法AI探訪(18): 国旗の図像学(5)
4.神秘の「3」と「3角形」
ネパールは,1990年以降の2回の人民運動(民主革命)により専制君主制を連邦民主共和制に変え,国歌も変えてしまったのに,国旗だけは変えなかった。なぜか?
理由はいくつか考えられるが,最も根本的なのは,ネパール国旗それ自体の持つ特異な魅力と,それに象徴される独立国家ネパールへの誇りであろう。ネパール国民は,立場を超え,3角形国旗の神秘的シンボリズムに魅了され,それを掲げることに誇りを感じてきたのだ。
(1)数「3」の神秘
ネパール国旗の根幹をなすのは,「3」と「3角形」。古来,この数と図形は,他には無い特別な意味を持つものと考えられてきた。ここでは,まず数「3」から見ていくことにしよう。
数の「3」は,敬愛する『新明解国語辞典』によると,「2より1つだけ多い数」とのこと。あれあれ,それだけ! たしかにそうには違いないが,これでは実質的な語釈にはなっていない。親切・明解な辞典だが,「3」については,語釈に手を付け「神秘」の深みに引き込まれるのを恐れたのかもしれない。ことさほどに,「3」は神秘的な数なのだ。
この「3」という数は,いうまでもなく1,2の次に来る正の自然数。これは,ごく素朴に考えるならば,まず初めに「1」が現れ,次にそれとは別の「2」が現れ――あるいは,それに別の何かが加わって「2」となり――,そして最後に,これら「1」と「2」が総合されて「3」となる,ということである。
この「1」,「2」,「3」の組み合わせや,「3」特別視の事例は,古今東西,無数にある。たとえば――
・キリスト教:三位一体(父・子・精霊)
・ヒンドゥー教:三神一体(ブラフマ・ヴィシュヌ・シヴァ)
・仏教:三宝(仏・法・僧),釈迦三尊
・中国:三才(天・地・人)
・日本:三貴神(アマテラス・スサノオ・ツクヨミ)
・プラトン:魂3分説(理性・気概・欲望)
・ヘーゲル・正反合(定立・反定立・総合)
・時間:過去・現在・未来,朝・昼・夜
・空間:縦・横・高さ
・自然:物質三態(個体・液体・気体),光3原色(赤・緑・青)
・統治:3権(立法・行政・司法),3審制
・社会:三が日,三々九度,3本の矢,三役,日本三景
以上は,「3」特別視のほんの一部にすぎないが,これらを見ただけでも,「3」が,古来,いたるところで神秘的にして神聖な数と見られてきたことは,明らかである。
(2)3角形の神秘
この「3」を最も直截的に図形化したのが,3点を3直線で結ぶ「3角形」であり,これも,古来,いたるところで神秘的にして神聖な図形として使用されてきた。たとえば――
・エジプト:ギザの三大ピラミッド
・古代ギリシャ:ピタゴラスの3角形
・ユダヤ教:ダビデの星(二重3角形)
・キリスト教:三位一体象徴としての様々な3角形図形
・ヒンドゥー教:寺院の3角旗,スリヤントラ(9個の3角形)
・フランス:ナポレオンの3角形,ルーブル美術館ピラミッド
・日本:神社3柱鳥居,寺院3角破風,「麻の葉」模様
たしかに,「三角形について不思議なことは山ほどある」(細谷治夫『三角形の七不思議』講談社,2013,p.3)。
(3)象徴としての3角旗へ
「3」や「3角形」にこのような神秘的な魅力があるとすれば,個人や集団などを象徴する旗として3角旗が多用されるようになったのも当然といえる。たとえば――
・南アジア:ヒンドゥー教寺院や仏教寺院の3角旗,植民地化以前の諸王国の3角形国旗
・ヨーロッパ:騎士や船舶が3角旗(ペナン,ペナント)多用
・中国:春節3角旗,墓参用3角形白紙・白布
・日本:寺院の3角旗,葬儀での三角形白紙・白布
・現代:野球などのペナントレースで争奪される3角旗(ペナント)
*参照:井本英一「三角表象の前史(1)」大阪外大論集,No.7;須田武郎『騎士団』新紀元社,2007
【本頁,AI不使用】
谷川昌幸(C)
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