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ネパール憲法AI探訪(19): 国旗の図像学(6)
5.ネパールの3角形国旗
(1)ヒンドゥー教の3角旗
ネパールの3角形国旗が「3」や「3角形」の神秘的魅力をバックにしていることは明らかだが,より具体的・直接的には,いうまでもなく,それはヒンドゥー教の3角図形や3角旗の伝統を正統に継承するものに他ならない。
たとえば,古典「バガヴァッド・ギーター」(マハーバーラタ)の周知の場面を描いたこの水彩画(1830年頃制作,大英博物館所蔵)。
■Gouache painting on paper, part of an album of seventy paintings of Indian deities
ここでは,馬車に乗ったアルジュナに御者を務めるクリシュナが教えを説いているが,その馬車の上には2棹の3角旗がはためいている。クリシュナ側の旗に描かれているのは神猿ハヌマーンだが,アルジュナ側の旗には,そのものずばり「太陽」と「月」が描かれている。
「太陽」と「月」の配置が上と下,逆ではあるが,それを除けば,このバガヴァッド・ギータ画の二重3角旗は,現在のネパール国旗と瓜二つではないか!
「バガヴァッド・ギーター」は古典中の古典だし,クリシュナとアルジュナも人気の高い神々である。むろん,この大英博物館所蔵画そのものは1830年頃の作だが,このような場面を描いた絵そのものは昔から他にもたくさんあったであろうし,また,それらに描かれた二重3角旗もネパール各地にあったにちがいない。
たとえば,いまでもネパール各地の寺院には,金属製の二重3角旗(Dhoja)が掲げられている。いつからか判然とはしないが,相当古いものが多いことは確かだ。(撮影寺院名失念。同様の旗はパシュパティナートなど他にも多数ある。)
■カトマンズ(2013/11&2015/07)
■バクタプル
■ブンガマティ(2013/11)
ネパールが「国家の旗」として国旗を定めたのは,18世紀末に国家統一されて以降のことだが,二重3角旗そのものは,ネパール各地の寺院に古くからあり,その地域の目印ないし象徴となっていたにちがいない。もしそうだとすると,ネパール古来の二重3角旗を継承するネパール国旗は,世界最古の歴史を有する国旗の一つということになるであろう。
【本頁,AI不使用】
谷川昌幸(C)
ネパール憲法AI探訪(18): 国旗の図像学(5)
4.神秘の「3」と「3角形」
ネパールは,1990年以降の2回の人民運動(民主革命)により専制君主制を連邦民主共和制に変え,国歌も変えてしまったのに,国旗だけは変えなかった。なぜか?
理由はいくつか考えられるが,最も根本的なのは,ネパール国旗それ自体の持つ特異な魅力と,それに象徴される独立国家ネパールへの誇りであろう。ネパール国民は,立場を超え,3角形国旗の神秘的シンボリズムに魅了され,それを掲げることに誇りを感じてきたのだ。
(1)数「3」の神秘
ネパール国旗の根幹をなすのは,「3」と「3角形」。古来,この数と図形は,他には無い特別な意味を持つものと考えられてきた。ここでは,まず数「3」から見ていくことにしよう。
数の「3」は,敬愛する『新明解国語辞典』によると,「2より1つだけ多い数」とのこと。あれあれ,それだけ! たしかにそうには違いないが,これでは実質的な語釈にはなっていない。親切・明解な辞典だが,「3」については,語釈に手を付け「神秘」の深みに引き込まれるのを恐れたのかもしれない。ことさほどに,「3」は神秘的な数なのだ。
この「3」という数は,いうまでもなく1,2の次に来る正の自然数。これは,ごく素朴に考えるならば,まず初めに「1」が現れ,次にそれとは別の「2」が現れ――あるいは,それに別の何かが加わって「2」となり――,そして最後に,これら「1」と「2」が総合されて「3」となる,ということである。
この「1」,「2」,「3」の組み合わせや,「3」特別視の事例は,古今東西,無数にある。たとえば――
・キリスト教:三位一体(父・子・精霊)
・ヒンドゥー教:三神一体(ブラフマ・ヴィシュヌ・シヴァ)
・仏教:三宝(仏・法・僧),釈迦三尊
・中国:三才(天・地・人)
・日本:三貴神(アマテラス・スサノオ・ツクヨミ)
・プラトン:魂3分説(理性・気概・欲望)
・ヘーゲル・正反合(定立・反定立・総合)
・時間:過去・現在・未来,朝・昼・夜
・空間:縦・横・高さ
・自然:物質三態(個体・液体・気体),光3原色(赤・緑・青)
・統治:3権(立法・行政・司法),3審制
・社会:三が日,三々九度,3本の矢,三役,日本三景
以上は,「3」特別視のほんの一部にすぎないが,これらを見ただけでも,「3」が,古来,いたるところで神秘的にして神聖な数と見られてきたことは,明らかである。
(2)3角形の神秘
この「3」を最も直截的に図形化したのが,3点を3直線で結ぶ「3角形」であり,これも,古来,いたるところで神秘的にして神聖な図形として使用されてきた。たとえば――
・エジプト:ギザの三大ピラミッド
・古代ギリシャ:ピタゴラスの3角形
・ユダヤ教:ダビデの星(二重3角形)
・キリスト教:三位一体象徴としての様々な3角形図形
・ヒンドゥー教:寺院の3角旗,スリヤントラ(9個の3角形)
・フランス:ナポレオンの3角形,ルーブル美術館ピラミッド
・日本:神社3柱鳥居,寺院3角破風,「麻の葉」模様
たしかに,「三角形について不思議なことは山ほどある」(細谷治夫『三角形の七不思議』講談社,2013,p.3)。
(3)象徴としての3角旗へ
「3」や「3角形」にこのような神秘的な魅力があるとすれば,個人や集団などを象徴する旗として3角旗が多用されるようになったのも当然といえる。たとえば――
・南アジア:ヒンドゥー教寺院や仏教寺院の3角旗,植民地化以前の諸王国の3角形国旗
・ヨーロッパ:騎士や船舶が3角旗(ペナン,ペナント)多用
・中国:春節3角旗,墓参用3角形白紙・白布
・日本:寺院の3角旗,葬儀での三角形白紙・白布
・現代:野球などのペナントレースで争奪される3角旗(ペナント)
*参照:井本英一「三角表象の前史(1)」大阪外大論集,No.7;須田武郎『騎士団』新紀元社,2007
【本頁,AI不使用】
谷川昌幸(C)
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