ゴミのネパール
ネパールのゴミ問題はさんざん議論されてきたが、改善どころか、悪化する一方だ。カトマンズもひどいが、むしろ郊外や村の方が悲惨だ。ネパールへは、ゴミ見学に行く覚悟なくして、旅行はできない。ヒマラヤや寺院より先に、まずゴミだ。
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ネパールのゴミ問題は、廃棄物の質の変化によるところが大きい。かつてのゴミは、丹後のわが村でもそうだったが、大部分が自然素材であり、空き地や川に投棄しても、しばらくすると自然に分解され、土に戻った。むしろゴミ捨て場の方が土地が肥えていて植物はよく育ち、またミミズもたくさんいたので、魚釣り用のミミズはたいていゴミ捨て場で採っていたものだ。だからネパールでも、投棄物が自然素材である限り、ゴミはたいして問題にはならなかった。
ところが近代化とともに、いつまでも分解しない人造物が激増し、ネパールのゴミ問題は一気に深刻化した。とにかくゴミ、ゴミ、ゴミ。ヒマラヤも寺院も、街も村もゴミだらけ。
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特にかわいそうなのが、聖牛。いたるところでビニール・ゴミを食べている。あの聖牛たちはどうなるのだろう。天寿を全うするとは、とうてい思えない。聖牛にビニール・ゴミを食わせるとは、なんたるバチ当たり。いずれ天罰が下るに違いない。
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とにかくネパールには、悪臭ただようなか、腐敗物とともにビニール袋を食べる悲惨な聖牛を見ても失神しない強心臓の人以外は、来るべきではない。あるいは、ゴミの山を前景にヒマラヤを望み、ビニール・ゴミをかき分け花々を愛で、ゴミとともに神仏に祈る――そう達観した人だけが、ネパールを存分に楽しむことができる。さすが仏陀生誕地、まるで沼の蓮花のような国ではないか。
■バグマティ河原のゴミと高層住宅/バグマティ河原のゴミとカラス
【参照】
▼世界遺産を流れる川がゴミ処理場状態
▼ゴミと糞尿のポストモダン都市カトマンズ
▼ゴミと聖牛
▼火に入る聖牛の捨身救世
▼神聖な場所がごみの山──世界遺産ダルバール広場で何が起きているのか?(ニューズウィーク日本版2022/06/13)【追加2022/06/14】
▼Cleaning up high places, Nepali Times, 2022/07/17 【追加2022/08/03】
谷川昌幸(C)
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