ネパール評論

ネパール研究会

プラチャンダの政治センス:「連邦民主共和国同盟」結成

プラチャンダは,現在のネパールでは,ダントツの政治センスを持つ本物のカリスマである。

1.カリスマ政治家としてのプラチャンダ
首相就任後,直ちに「王様ベッド」を首相公邸に搬入させたこと,ルンビニ開発で米中要人や国連事務総長を手玉にとったこと,息子にエベレストを征服させ山頂に赤旗を立てさせたこと――これらすべてが,プラチャンダの政治センスの良さ,カリスマとしての資質をよく示している。

人民は,ネアカのプラチャンダを英雄として愛しており,その証拠に,大金・小金を湯水のごとく使おうが,息子が不倫・逃亡しようが,彼に失脚の兆しは無い。

プラチャンダ非難をしているのは,民衆ではなく,ひがみっぽい小物政治家・知識人である。民衆は,英雄が好きなのだ。

2.民族/ジャーティの政治的制御
その政治家プラチャンダは,他の誰よりも,民族/ジャーティのもつ破壊力を熟知している。人民戦争を勝利させ王制を打倒したのは,プロレタリア「階級」ではなく,被抑圧「民族/ジャーティ」である。

しかし,その一方,民族/ジャーティ帰属意識は非合理的なものであり,日常的な合理的制御は困難である。このこともプラチャンダはよく知っている。民族アイデンティティは破壊には使えても建設には使えない――この洞察をふまえ,プラチャンダはその政治的手腕により民族/ジャーティを政治的に巧妙に利用しつつ,マオイスト革命を前進させようとしているのだ。

3.両面作戦の力わざ
最近のプラチャンダの政策は,多民族(多アイデンティティ)州をにおわせることによりコングレス党と統一共産党に制憲議会選挙実施への譲歩を迫り,これが十分功を奏さないとみると,単一民族(単一アイデンティティ)州に比重を移し,両党の被抑圧民族/ジャーティ派に揺さぶりをかけるという両面作戦である。

難しい両面作戦だが,それを力わざで統合できるのが,プラチャンダのカリスマたるゆえんである。

4.戦略としての連邦共和国同盟
プラチャンダが8月13日結成し自ら議長となった「連邦共和国同盟」も,この両面作戦のなかの一戦略である。

この「同盟」結成により最も大きな衝撃を受けているのが統一共産党。ライ副議長は離党し,ジャナジャーティ(少数民族)のための新党結成を予定。他にも,離党を考えている単一民族(単一アイデンティティ)州主義者は少なくない。あるいは,離党ではなく,残留し,単一民族州のための党内闘争を強化していこうと考えている幹部も少なくない。(ekantipur,16-17 Aug)

そうしたなか,最も注目されるのが,バイダCPN-M議長だ。もし彼が「連邦共和国同盟」に参加することになれば,プラチャンダ議長の完勝ということになる。

プラチャンダは,単一民族(アイデンティティ)州など,実現不可能であることをよく知っている。よくわかった上で,その強力なエネルギーを政敵の破壊に利用しようとしているのだ。

こんな恐ろしく危険なことを平然と仕掛けることができるのは,彼が偉大な政治的カリスマだからである。

(参照)Anurag Acharya, “In the name of peace and constitution,” Nepali Times, 16 Aug.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/17 @ 14:49