ネパール評論

ネパール研究会

ネパール人労働者の対日輸出

輸出(export)」とはあまりにも即物的だが,これは私自身の用語ではなく,リパブリカ紙記事「ネパール人労働者対日輸出に向け,政府は努力」(a)のもの。

記事によれば,ネパール政府は,日本を,ネパール人労働者にとって「最も儲かる国(the most lucrative destinations)」の一つに加えた。政府が儲かるというのだから儲かるのだろうが,実際に儲かるのは労働者本人というよりはむしろ,政府や業者。しかし,このような人間の輸出で金儲けをして,本当によいのだろうか? あるいはまた,日本も安価な人間の輸入を必要としており,それで儲けるわけだが,これは国として本当に名誉なことであろうか?

ネパール政府筋によれば,老齢化大国・日本が求めているのは,「半熟練(semi-skilled)労働者」。JITCO(国際研修協力機構)経由で日本企業や事業主に雇用される。外国労働推進局ラグー・カフレ局長は,「日本政府の担当官によれば,ネパール人が日本で働くのに,言葉は障害とはならない。ネパール政府が少し準備さえすれば,この事業の実施は可能である」と語っている。ただし,日本政府からは,研修労働期間満了後,ネパール人労働者は日本に居残るな,ときつく言われており,それを日本政府に保証するのが難題だという(a)。

ネパールの海外出稼ぎは多い。毎日,1700~2000人の青年労働者が,マレーシアや湾岸諸国に向け出国しているという。まさか(!)と思われるかもしれないが,空港に行けば,ウソでも誇張でもないことが,すぐわかる。飛行機はおろか,列車にすら乗ったことのなさそうな青年たちが,長蛇の列をなし,搭乗を待っている。「人材」という言葉がある,たしかに彼ら青年たちは,便利で安上がりな雇用人間「材」であり,また仲介取引で儲けるための人間「財」でもあり,だからこそ,こうして輸出され,輸入されるのだ。

そのネパール「人材」が,本格的に日本に輸入され始める。日本では,安倍政権の円安(日本たたき売り)政策により,中国や東南アジアの労働コストが急上昇した。その結果,まだ相対的に割安のネパール人労働者が,日本の企業や事業者にとって魅力的となってきた。したがってこれから先,ネパール人労働者の輸入が大幅に増加すると見て,まず間違いはあるまい。

しかもその際,必要とされるのは,文句を言わず3K業務を担う単純労働者。「半熟練労働者」とは,要するに,そういうことだ。しかも,日本語能力も事実上不問となるらしい。これからやってくるのは,そうした満足な事前準備・事前学習なしのネパール人労働者なのだ。

彼らを輸入する日本。それは世界に冠たる排外的閉鎖社会であり,人種差別が最も激しい国の一つだ。そこに大量のネパール人単純労働者がやってくれば,いったい何が起こるか? 考えたくもないが,目をふさいでいることは許されないだろう。

150113b(JITCO HP)
150113a(JITCO HP)

[参照]
(a)”Govt Working To Export Nepali Workers To Japan,” Republica,2015-01-12
(b)谷川「研修生仲介業ガイドラインの改定,ネパール労働省
(c)関連記事:JITCO研修労働実習生

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/13 @ 15:02

カテゴリー: 経済, 人権

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