ネパール評論

ネパール研究会

憲法公布日合意するも,シラケ後退ムード瀰漫

制憲議会(CA)ネバン議長が7月26日,新憲法の8月16日公布を提案し,これにNC,UML,UCPN.MJF-L(MDRF-D)の主要4党が合意した。これで,8月16日新憲法公布の可能性が一気に高まった。

ところが,憲法制定は,街でも新聞でも,全く盛り上がっていない。マオイスト分派によるバンダ(ゼネスト)が7月25日にあったが,これはいつものこと,休日が1日増えただけ。一言でいえば,憲法シラケムード,どうぞご自由に,といった感じだ。

ところが,これが曲者。市民,学生らのシラケ(無関心)の拡大を良いことに,以前にも指摘したように,憲法公聴会や憲法提言募集を利用した一種の「やらせ」ないし世論操作が行われている。
 参照: 儀式かやらせの憲法公聴会

各紙報道によれば,憲法公聴会・憲法提案募集において出され,CAが最大限尊重すべきだとされる主要意見は,次のようなものである。

(1)「世俗」「世俗的」は使用せず,「宗教の自由」の用語を用いる。[これにより布教活動制限の存続の可能性がある。]これと関連して,「ヒンドゥー国家」復帰要望も強い。
(2)州の数の削減。
(3)比例制当選の最低得票率設定。

他にも様々な意見が出されているが,国家の基本構造にかかわるのは,なんといってもこれらの要望である。そして,主要4政党は,これらの意見を最大限尊重する努力をすると約束している。

一見明らかなように,これは旧体制に向かっての大幅後退である。善悪は別にして,現象的には大幅な揺り戻し。しかもそれが,制憲議会選挙や制憲議会での議論といった公明正大な方法ではなく,透明性も公平性もまるでない憲法公聴会・憲法提案募集といった形で進められつつある。

さらに,それに輪をかけているのが,不透明で怪しい,正式憲法案作成までの手続き。

■憲法草案のCA採択:6月30日
⇒ 憲法草案への国民意見聴取:7月20,21日
⇒ 「市民関係・世論聴取委員会」が「国民の意見」をまとめ,報告書をCAに提出。
⇒ CAが,「国民の意見」報告書を「政治的対話・合意形成委員会(PDCC)」に送付。
⇒ PDCCが「国民の意見」報告書を参照しつつ憲法草案を修正し,これをCAに提出。
⇒ CAがこれを受理し,それを「憲法起草委員会」へ送付。
⇒ 「憲法起草委員会」が,それを(おそらく必要な修正を加え)憲法法案としてCAに提出。
⇒ CAが,この憲法法案を三分の二の多数を持って可決。
⇒ CA議長が可決憲法法案を認証。
⇒ これを大統領が憲法として公布。

まるで大きな雲の中。そして,その雲が過去に向かって流れつつある。世論はつくられる。つくられる世論の中にいる人々は,大きな全体としての流れに気づかない。

ごく限られた人々にすぎないが,ネパールで知識人らと話していると,多かれ少なかれ論調が変化しているのに気づく。本人らは気づいていないかもしれないが。

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■ネパールを見守るヒマラヤ(7月26日夕,キルティプルより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/27 @ 14:54

カテゴリー: 憲法, 民主主義

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