ネパール評論

ネパール研究会

憲法修正,103議員が24案提出

昨年9月20日公布施行されたばかりのネパール新憲法に対し,すでに政府与党自身が修正案を出しているが,これに不満のコングレスなど十数党の103議員が1月8日,24の修正案を出した。その中には与党のはずのマオイスト議員も含まれている。主な修正提案は,国家諸機関への社会諸集団の比例参加強化と,包摂参加のための選挙区割改変。条文でいうと,第42条と第84条。

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第42条 社会的公正への権利
(1)女性,ダリット,先住民,少数民族,先住少数民族,マデシ,タルー,少数派諸集団,障害者,周縁諸集団,イスラム教徒,後進諸集団,ジェンダー的性的少数派,青年,労働者,被抑圧諸集団および後進地域市民,ならびに経済的に貧困なカス・アーリアは,包摂原理に則り国家諸機関に雇用される権利を持つ。
[以下,(2)~(5)でさらに詳細に補足追加。]
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目がチカチカ,頭がクラクラ。ものすごい規定だが,修正案はこれでも不十分だ,もっと詳しく網羅的に,もっと具体的に,もっと「公正」に諸集団の権利保障を書き込め,と要求している。

むろん歴史的に見るなら,このような社会諸集団の包摂要求が出される理由はよくわかるし,またそうした「過激」な要求によってはじめて積年の不公平が大きく是正されてきたことも事実であり,その意義を認めるにやぶさかではない。

しかし,それはそうとしても,このような要求を憲法に事細かく書き込み,それを根拠にもろもろの社会集団が「権利のための闘争」を始めたら,どうなるか? 収拾がつかなくなるのではないか?

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第84条 代議院の構成
(1)代議院は,次の275議員から構成される。
 (a)[小選挙区選出165議員。]
 (b)[全国1区比例制選出110議員。]
(2)[立候補者は,政党ごとに,比例原則に則り社会諸集団から選出。]
(3)~(9)[略]
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この第84条は,社会諸集団の議会への包摂比例代表をこまごまと規定するもので,先述の第42条についてと同じ評価,同じ批判ができる。しかも政治的には,選挙区割や各政党の社会集団への候補者割当に直結するので,より生臭く,平和的な解決は絶望的に困難といわざるをえない。

以上のように,現行憲法もすでに十分に「過激」な包摂民主主義だが,1月8日提出の主な修正案は,現行憲法も政府与党提出修正案も不十分,もっと包摂民主主義に忠実たれ,と要求するものである。

いまネパールでは,与野党が入り乱れて,包摂参加の過激化を競い合っている。設計主義的包摂民主主義の原理主義化! もし政治が「可能性の術」だとするなら,本来の意味での「政治(ステーツマンシップ)」が,そこではあまりにも軽視されているといわざるをえないだろう。

160110
 ■UNDPによる設計主義的ネパール再構築扇動(谷川「連邦制とネパールの国家再構築」2010)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/10 @ 10:04

カテゴリー: 選挙, 憲法, 民族, 民主主義

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