ネパール評論

ネパール研究会

「使える英語」とカタカナ英語:リスキリングのリスク(3)

3.社会的弱者を襲うカタカナ語・ローマ字略語洪水
ところが,現実には,教育におけるオーラル実用英語偏重教育は,その勢いを増すばかりだ。が,いかに笛吹けど,内田も指摘するように,学生らの英語力は落ちるばかりだ。

そこで,私が忖度するに,政官財の有力者らが取ることになった策が,カタカナ語・ローマ字略語での代用。彼らは,自分たちはペラペラ,スラスラ完全マスターしていると自画自賛の英語を,下々のためにカタカナ語やローマ字略語で表現してやることにより,「これくらいならお前らにも分かるだろう」と親切めかして一方的に押し付けてきているのだ。

政官財有力者らのカタカナ語・ローマ字略語多用は,社会的弱者支配のための便利ではあるが,お手軽にして稚拙な道具となっている,と見ざるをえないであろう。

以下,参考までに,ごくごく一部のみを列挙(岸田首相については,上記参照)。

コンサイスカタカナ語辞典』2020。約58,500語収録
行政カタカナ用語集』2008。「分かったようで分からない」カタカナ用語1500語収録
厚生省「カタカナ語使用の適正化について」1997                             [列挙されているカタカナ語とローマ字略語] ニーズ,コンセプト,リスク,プロジェクトチーム,ワーキンググループ,フォローアップ,スキーム,アカウンタビリティー,ビジョン,コーディネート,カンファレンス,フリーアクセス,メディカルチェック,ライフサポートアドバイザー,リターナブル,ホスピタルフィー,ドクターズフィー,モデル事業,ドナー,レシピエント,ケアプラン,ケアマネジメント,ケアマネージャー,スクラップアンドビルド,バイオセーフティー,プライマリ・ケア,バリアフリー,ノーマライゼーション,ホームヘルパー,デイサービス,ショートステイ,ケアハウス,新ゴールドプラン,サテライト型デイサービス,マニフェスト,プルーデントマン・ルール,ADL,食品GLP 
デジタル庁HP(2023)                                        [使用されているカタカナ語とローマ字略語の一部]プレスルーム,トピック,マイナンバー,マイナンバーカード,データダッシュボード,サイトポリシー,プライバシーポリシー,ウェブアクセシビリティ,コピーライトポリシー,データダッシュボード,パンデミック,VRSチーム,オープンデータセット,変換コンバータ,日英デジタルパートナーシップ,オンラインイベント,SPYxFAMILY,セキュリティ,QRコード,ダウンロードページ,イメージ,チャットポット,カテゴリ,e-Tax,オンラインバンキング,コールセンター,簡単ステップ,ワンストップサービス,GビズID,ガバメントソリューションサービス,サービスデザイン

これはヒドイ。行政関係用語集ですら,2008年時点で,「分かったようで分からない」カタカナ用語を1500語も収録している。植民地英語より惨めではないか!

日本語は,造語能力に長けた言語だから,たいていの外国語は日本語への移し換えが可能だ。内田も力説するように,そうすることによってこそ,日本語・日本文化は,より豊かになっていくにちがいない。

いまこそ明治の先達に学ぶべき秋だ。

【参照1】
1 内田樹「AI時代の英語教育について」2019,『サル化する世界』2020所収
2 内田樹「日本の外国文学が亡びるとき」2008
3 内田樹「イノベーションは、共同体のアーカイブから浮かび上がってくる:複雑化の教育論」,インタビュー2022/05/18
4 内田樹,英文和訳関係ツイート,2016/03/16
5 柳父 章『翻訳語成立事情』岩波新書,1982
6 谷川昌幸「書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』」1 2 3 4 5 6 7 8
7 谷川昌幸「愛国者必読: 施光恒『英語化は愚民化』
8 谷川昌幸「安倍首相の国連演説とカタカナ英語の綾

【参照2】(2023/03/15)
杉田聡氏は,「略語は英語の頭文字語よりローマ字書き日本語で──JPCZはNKKSに」(論座2023/03/15)と提唱されているが,ローマ字書き日本語の略語の方が何倍も判りにくいことは明白。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/03/05 @ 09:46