ネパール評論

ネパール研究会

英国人画家,デモ参加容疑で逮捕(2)

釈放
政治活動容疑で逮捕された英国人画家マーティン・トラバース氏(41歳)が,16日午後,釈放された。「取り調べの結果,政治活動をしていないことがはっきりしたので,この旅行者を英国大使館に引き渡した」(カトマンズ警察DSPプラジト・KC)。(*1)

15日逮捕時の状況
(1)トラバース氏の説明
リパブリカ紙(*1)によれば,トラバース氏は次のように説明した。15日,ダルバールマルグからパタンに行こうとしていたら音楽が聞こえたので,行ってみた。「そこで演奏をしている写真を撮っていると,ピケ隊の何人かに引き入れられ,座らされ,頭にバンダナ(ハチマキ?)をつけられた。」そのバンダナに何が書いてあるかは,まったく知らなかった。

これまで,この種の活動に参加したことはないし,この日の抗議行動の目的も知らなかった。ネパールには震災救援のために来たのであり,政治活動はしていない。「私だけでなく,旅行者はだれでも,催事に参加するのなら,その意味を理解しておくべきだ。」(*1)

(2)内務省の説明
AP記事(*2)によれば,トラバース氏は,「われらのアイデンティティを認めよ」とシュプレヒコールを上げているデモ隊のメンバーと同じ赤のハチマキをしていた。警察は,その写真を撮り,トラバース氏を逮捕した。またリパブリカ紙は,こう書いている。「治安当局は,写真や他の画像[ビデオなど?]を使い,旅行者の政治活動を監視しており,もし参加がわかれば,厳しい措置をとる,と内務省は述べている。」(*1)

不可解な説明
これらの説明は,トラバース氏の側のものも治安当局の側のものも,実に不可解だ。トラバース氏が,マデシ・ジャナジャーティ同盟の抗議活動のことを何も知らなかったとは全く信じられないし,写真など証拠をもつ警察が逮捕後あっさりと「無実」が証明されたと説明するのも変な話だ。

監視社会ネパール
これまで幾度も指摘してきたように,ネパール,とくにカトマンズは,いまでは世界有数の監視社会となっている(*4,5)。街中いたるところに監視カメラがあり,ちゃんと作動している。デモやピケなど,あらゆる出来事が,一部始終,カメラで監視されているはずだ。

トラバース氏の行動も,治安当局は,はっきり見ていたに違いない。そのうえで逮捕して一日勾留,翌日,呼び出しに応じるという条件を付けたうえで,「政治活動とは知らなかった」ということにして,英国大使館に身柄を引き渡した。

このような逮捕・勾留・釈放に関するメディア報道は極めて不自然だが,それだけに,かえってそこに込められているメッセージははっきりしている。すなわち,ネパール治安当局は外国人の行動を監視しており,いつでも逮捕できるということを,メディアを通して外国人に知らしめるということである。

 160518■外国人らしき人も多数みられる(Madhesi Youth FB, 17 May)

*1 KAMAL PARIYAR, “BRITON NOT ‘POLITICALLY INVOLVED’ IN SIT-IN, RELEASED,” Republica, 17 May 2016
*2 “Detention of Briton sparks concerns over Nepal’s democracy,” AP=Himalayan, May 17, 2016
*3 “Briton detained in Nepal released after anti-government protest arrest,” Belfast Telegraph, 17/05/2016
*4 監視カメラ設置,先進国ネパールから学ぶな
*5 前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/05/18 @ 13:50