ネパール評論

ネパール研究会

改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ

アメリカ国務省が8月10日,「宗教の自由報告2015」を発表した。その中には,ネパールに関する重要な報告も含まれている。
 ▼“International Religious Freedom Report for 2015,” Bureau of Democracy, Human Rights and Labor, U.S. Department of State.

   160812■「報告」公告(米大使館FB)

この「報告」が,ネパールについて特に問題にしているのが,宗教に関する憲法規定。表現は抑制されているが,内容的には驚くべき事実が,そこには記述されている。核心部分は以下の通り。

「憲法起草過程を通して,米国大使,公使および大使館員は,刑事罰の恐れなき改宗の権利を含む完全な宗教的自由を憲法で保障するよう,ネパール政府高官らに対し,繰り返し強く要請した。米大使と大使館員は,ヒンドゥー教,仏教,イスラム教およびキリスト教の指導者らとも会い,憲法草案に対する彼らの考えを尋ねた。

また大使館員は,カトマンズや他の地域の少数派宗教の地域代表らとも会い,キリスト教徒やイスラム教徒が直面している諸問題につき,話し合った。そこでは,キリスト教徒が改宗を強要しているとするメディアや地域社会による糾弾,キリスト教徒やイスラム教徒の墓地取得が困難なこと,改宗禁止強行実施への懸念,そしてヒンドゥー教国家主義者によりキリスト教諸集団の社会的調和が乱される恐れ,につき議論した。」

ネパール憲法には,たしかに,この「報告」が指摘するような諸問題があることは事実だ。それはそうだが,だからといって独立国家の憲法問題につき,外国が大使や大使館員を動員し,もろに圧力をかけるのはいかがなものか? 内政干渉ではないか?

「報告」は,イスラム教や他の少数派宗教にも言及しているが,全体としてみると,アメリカが政府として,キリスト教のために,布教の権利や改宗の自由をネパールに対して要求している,という印象を禁じえない。

イギリス大使は,自ら改宗の権利の憲法保障を要求し,大問題になると,さっさと辞任し,帰国した。アメリカは,この「報告」が問題にされたら,どうするのだろう?

【参照】
(1)改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント
(2)「改宗の権利」勧告英大使,辞任
(3)宗教問題への「不介入」,独大使
(4)”Statement on the Promulgation of Nepal’s Constitution” (By John Kirby, Department of State Spokesperson, September 22, 2015)
 The United States congratulates the people of Nepal on their steadfast commitment to democracy. The promulgation of the constitution is an important milestone in Nepal’s democratic journey. The government must continue efforts to accommodate the views of all Nepalis and ensure that the constitution embraces measures consistent with globally accepted norms and principles, including gender equality, religious freedom, and the right to citizenship. ……(http://nepal.usembassy.gov/pr-09-22-2015.html)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/08/12 @ 08:55

カテゴリー: 宗教, 憲法

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