ネパール評論

ネパール研究会

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セピア色のネパール(14): バクタプルはトロリーバスで

バクタプルへは1985年,トロリーバスで行った。乗車は,たしかマイティガル付近。幸い車内には入れたが,例の如くオンボロ,ギュウギュウ詰め。降りたのは,バクタプル旧市街の小川の向かい側で,たぶんスルヤビナヤク。

トロリーバスを降りると,一面の菜の花畑の向こうに,バクタプルの小じんまりしたレンガ造りの街が一望できた。まるで,おとぎの国。

トロリーバスは,古都そのもののバクタプルはいうまでもなく,まだ古都の面影を色濃く残していたカトマンズにも,よく似合う乗り物であった。

が,残念なことに,中国援助で1975年に導入されたトロリーバスは,適切な維持管理が出来ず,2009年に全廃されてしまった。

 ■カトマンズ盆地のトロリーバス1985年(Google,”nepal trolley bus,”2023/02/13)
■バクタプル行トロリーバス乗車(1985)
 ■バクタプル行トロリーバス車窓より(1985)
 ■バス停付近から望むバクタプル(1985)

もともとカトマンズ盆地は,それほど広くないうえに,歴史的に貴重な文化財や街並みが多く残されており,人びとの移動手段としてはトロリーバスや路面電車の方が適していた。

ところが,盆地の古都・京都が,地形も文化も考慮せず,市街に張り巡らされていた路面電車を全廃してしまったように(私鉄・京福電鉄だけが短区間とはいえ健気に孤高の孤塁を守っている),ネパールもトロリーバスを廃止,道路を新設・拡張し,車社会へと驀進することになった。その結果,盆地はバイクや車であふれかえり,排気ガスがよどむと,氷雪の霊峰ヒマラヤは霞み,街の散策にはマスクさえ必要になってきた。

このような車社会化のカトマンズや京都と対照的なのが,欧州の古都。多くが,路面電車やトロリーバスを,必要な改良・改革は大胆に取り入れつつも,なお運行し続けている。その結果,無機質な「近現代的」車道の拡張・新設は抑制できるので,欧州の古都の多くは今なお伝統的雰囲気を保ち,より文化的にして人間的である。(参照:欧州ウィーン

 ■ミラノの路面電車1(2017)
 ■ミラノの路面電車2(2017)
 ■トリノの路面電車(2017)
 ■トリノのトロリーバス(2017)

カトマンズ,京都などの古都が,街の非人間化をもたらすバイクや車を規制し,路面電車・トロリーバスなど,より人間的にして文化的な乗り物の導入へと向かうことを願っている。

参照】(2023/02/25追加)
「このままの形で維持していくことは非常に難しい…. そんな厳しい路線をJRから引き継ぎ、黒字化させた例がある。富山市の富山港線だ。地元主体でLRT化し、利用者数を1.5倍超にまで伸ばした。….改革を主導した森雅志・前富山市長に聞いた。」河合達郎「廃止に向かうローカル線を黒字転換」JBpress,2023.2.25

参照2】(2023/02/27追加)
Sushila Budathoki, Why is the air in Bhaktapur so bad? Brick kilns, heavy highway traffic and prevailing winds make air quality the dirtiest in Kathmandu Valley, Nepali Times, February 24, 2023

【参照3】(2023/03/07追加) Trolleybus on the Kathmandu-Bhaktapur road

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/02/13 at 13:54

セピア色のネパール(12): オートテンポからサファテンポへ


ネパールのオートテンポには,その「好い加減さ」に加え,もう一つ,驚かされたことがある。騒音排気ガスである。

オートテンポは,2~3人乗りタクシーも数人~十数人乗り小型バスもディーゼル・エンジン。混合燃料2サイクル・エンジンも見たような気がするが,未確認。いずれにせよ,これらのエンジンは,ともに騒音と排気ガスがひどい。バタバタ,モクモク・・・・。盆地だから,天候によっては,ひどい排気ガス汚染に悩まされることになる。

  ■排ガスで霞むシンハダーバー(1993)
  ■王宮前ダルバルマルグ:排ガス濃いも,まだマスクなし(1993)

これに怒りオートテンポ禁止,電動「サファ(清浄)テンポ」の導入を訴え始めたのが,内外の環境保護派。車の電動化(EV化)はまだ試行段階,欧米でも先行きはほとんど見通せなかった。そこで,例の如く,彼らが目論んだのが,ネパールをEV化モデル国とし,世界にアピールすること。

正確な時系列は確認していないが,無排気ガスで清浄な電動サファテンポは,早くも1993年にはカトマンズで走り始め,数年後には政府の税優遇,電力料金割引など手厚い支援を受け,国内生産も始められた。1998年には110台ほどが運用される一方,オートテンポは翌1999年には禁止されることになった。

ところが,現実には,サファテンポは高コスト。電池はアメリカからの輸入で,2年と持たない。また,それに加え,坂の多いカトマンズではパワー不足。そのため政府の方針もぐらつき,オートテンポを,比較的低公害のガソリン車やLPG(プロパン)車に切り替えることになってしまった。

そのため,旧式オートテンポも最新サファテンポも,低コスト,高性能の日本車に取って代わられた。小型タクシーではマルチスズキ(インド製),小型・中型バスではトヨタ・ハイエースなど,盆地は日本車に瞬く間に席巻されてしまった。

ネパールのEV化は失敗,とその頃,私も見ていた。しかし,電話において,有線を飛び越え,一気に無線スマホ化することに成功したように,また街灯をソーラー蓄電池式LED灯に一気に転換したように,いまネパールは,捲土重来,小型タクシーから大型バスまで,再びEV化に向かって大きく前進し始めた。車においても,一足飛びの前進が,ネパールでーー日本ではなくーー起こるのではないだろうか。期待しつつ注目している。

ローテクの人間臭いオートテンポからハイテクの超先進的EVへーーいかにもネパールらしいアクロバティックな一足飛びの大飛躍。4半世紀前のセピア化した写真を眺めていると,ついそんな感慨に打たれることになる。

  ■サファテンポ(2000)
 ■上掲車のロータスエナジー社宣伝(2000)
  ■カトマンズのサファテンポ(Google safa tempo kathmandu

【参照1】ネパールEV史に詳しいのは:
・Sushila Maharjan,”Electric Vehicle Technology in Kathmandu, Nepal:Look at its Development,” 2002

【参照2】サファテンポの近年の状況については:
・Atul Bhattarai, When Kathmandu Was “Shangri-La for Electric Vehicles,” 2019
・Benjie de la Pena, Hello, Safa Tempo!, 2021

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/01/30 at 17:21

イタリアの旅(9):車は私有から共用へ

ミラノ・マルペンサ空港からバスでミラノ中央駅に着いてすぐ目についたのが,自動車や自転車の共同利用(シェアリング)施設。世界一美しいとされる駅舎もすごいが,それ以上に驚いたのがこの車共用(カーシェアリング)の普及だった。日本では当然の常識として疑いもしなかった私有前提の車社会――それがいよいよ転機を迎えたのではないか?

もとより予備知識は何もなく,しかも都市部にいたのはほんの数日だったから,その間街で偶然目にしたものにすぎないが,それでも様々な形態の共用施設があちこちにあった。

移動手段としての車や自転車の私有は,家庭の事情や業務などで特に必要な人を除けば,たしかに不合理・不経済だ。欧州では,国家や自治体がそれら,特にエコ電気自動車の共用(シェアリング)を支援し普及を図っているという。

自転車はもとより,車であっても電動式になれば,維持は容易,世界中で今後,急速に普及していくのではないか。日本ももちろん,例外ではあるまい。

●車の共用(カーシェアリング)

 ▲ミラノ中央駅前


 ▲トリノ

●自転車の共用

 ▲ミラノ中央駅前/使用方法図解


 ▲トリノ/設置場所等案内

●古代ローマ遺跡・路面電車・共用車(ミラノ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/07/26 at 11:32

カテゴリー: 社会, 経済, 旅行

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イタリアの旅(8):軽三輪の風格

伝統と革新の国イタリアでは,自動車も新型車に伍して旧型車が頑張っている。特に懐かしく印象的であったのが,軽三輪(小型三輪)。日本のかつての名車ミゼット(ダイハツ)そっくりの車が,現役で走り回っている。

アルプス山麓のアオスタ谷では,写真には撮り損ねたが,古い古~い,2サイクルエンジンの軽三輪が細い農道を登っていった。もう少し新しい軽三輪だと,荷物配達,清掃作業などに,あちこちで使用されていた。

ミラノでは,おそらく伝統的デザインの面白さを意識したのであろう,スフォルツァ城の中庭に,シェイクスピアをもじったイラスト付きの軽三輪を停めていた。

古いものは,生活の場で使われているのを見ると,なおさら懐かしさがつのる。農作業用荷車や,山小屋への荷揚げに今なお使われている役馬のように。

●軽三輪

 ▲クールマイユール/La Saxe


 ▲コーニュ/アオスタ

●ミラノ「スフォルツァ城」中庭の軽三輪

●荷車
▲フィレ谷

●「ベルトーネ小屋(1977m)」への荷揚げ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/07/25 at 19:48

カテゴリー: 文化, 旅行

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