ネパール評論

ネパール研究会

Posts Tagged ‘UCPN-M

極左・極右共闘へ:CPN-MとRPP

極左派の共産党毛派(CPN-M)が,極右派のギャネンドラ元国王・国民民主党(RPP)に接近し,主流派(UCPN-M,NC,CPN-MUL)に対する共闘を呼びかけ始めた。日本と同様,極左と極右は,磁石の両極のように引き合うものらしい。

130725b ■「国王」フェイスブック

1.CPN-M,元国王へ共闘呼びかけ
バイダ(キラン)CPN-M議長は,こう述べている。

「この国の主権と国民統合を守るため,元国王をはじめナショナリストと協力することが必要となった。」

「元国王が,われわれのナショナリズム強化闘争に参加するというのであれば,歓迎するが,われわれの共和制・世俗制・連邦制政策については譲歩するつもりはない。」(Telegraph, Access:Jul.24)

この考えは,CPN-Mの他の幹部,たとえばNB.チャンド(ビブラブ)らも表明している。CPN-Mは,すでに元国王側と接触しているという(Ibid)。

バイダCPN-M議長は,つい先日,印外相訪ネにあてつけ,前夜に中国に発ち,中国高官と懇ろに会談してきたばかり。バイダ議長は,ネパール内政については何も言われていない,中国にはネパール内政干渉の意思なし,といっているが,果たしてどうか? もともと中国と歴代国王は仲良しだったのだ。

2.NC内の王制懐旧感情
王制への懐旧感情は,コングレス党(NC)内にも生まれつつある。BP.コイララの息子でNC幹部のシャシャンク・コイララ(Shashank Koirala)は,BBCインタビュー(7月19日)において,こう述べている。

「王制を廃止し共和制にしたのは,大きな誤りであった。2006年,人民が抗議のため街頭に出たとき,事態を統制しうるBPのような指導者は1人もいなかった。世俗制と連邦制をほとんどの政党が考えてはいたが,政策として明確に共和制国家を掲げていたのは,マオイストだけだった。王制廃止は,マオイスト側から出されたものだった。」(Nepali Times, Jul.21)

3.RPPの王制ナショナリズムの訴え
このようなCPN-MのラブコールやNC内の王制懐旧感情の高まりは,王制派にとっては,もちろん大歓迎だ。カマル・タパ国民民主党(RPP)議長は,こう述べている。

「BP.コイララの息子でコングレス党幹部のシャシャンク・コイララは,王制廃止は失敗だったと語り,またCPN-M幹部たちも元国王とナショナリスト諸勢力はネパール・ナショナリズム強化のため協力すべきだと述べたが,これらはいずれも評価されるべき発言である。」(Republica,Jul.23)

4.UCPN-Mの反撃
元国王を担ぎ出そうとするCPN-MやRPPの動きに対し,最も激しく反発しているのは,統一共産党毛派(UCPN-M)である。前首相でUCPN-M序列2位のバブラム・バタライ中央委員(先日,副議長辞任)は,こう述べている。

「CPN-Mは,ギャネンドラの手先にすぎない。革命のためといって王制派と手を組むのは,自殺行為だ。」(Himalayan,Jul.23)

あるいは,ギャネンドラ元国王が極西部諸郡で行っている洪水被害者救援活動についても,バタライ中央委員は,怒りを抑えきれず,「逮捕してしまえ」とまで主張している。

「洪水被害住民へのギャネンドラの救援活動は,扇動であり,選挙を妨害するための策略である。在任中なら,彼を投獄していただろう。(彼の地方歴訪は)1990年憲法を復活させること・・・・(が目的である)。」(Himalayan,Jul.23)

130725a 
 ■洪水被害救援をしている王族NGO「Himani Trust」

5.王制復古の可能性
2006年革命後の共和国政党政治の「失敗」により,革命以前の1990年憲法体制の再評価の機運が少しずつ高まりつつある。

しかし,いまのところ,その動きは最左翼のCPN-Mと最右翼のRPPの結託,あるいはより直截的に言うならば「野合」で進められており,その限りでは成功の可能性は少ない。

しかしながら,S.コイララのような考え方がNCやUMLの中に広まっていくなら,王制復古もあり得ないことではない。投票で王制を廃止したのだから,投票で王制復古を決めてもよいわけだ。またまた,世界が,アッと驚くであろうが。

谷川昌幸(C)

バブラム・バタライ,名誉職の不名誉な駆け引き

統一共産党毛派(UCPN-M)の副議長辞任を表明したバブラム・バタライが,党の名誉職(党長老)を引き受けてもよいと言っている。コングレスのSB・デウバとほぼ同様の地位。党序列2位ながら,党運営権限なし。

しかし,その一方,バタライは,議長と中央委員以外の役職・組織は廃止し,これにより党内対立を根絶せよ,とも要求している。もしこの提案通り党組織が改編されれば,副議長のNK・シュレスタや書記長のボガティは役職を失い,中央委員降格となる。自分は名誉職でいいよ,といいつつも,ちゃっかり計算している。ドロドロの党内権力闘争。

他方,マオイスト本家から分家したモハン・バイダ(キラン)CPN-M議長は,クルシード印外相訪ネ前夜に訪中し,親印派に親中を見せつけた。ところが,テレグラフ(7月17日)によれば,親印NCのスシル・コイララ議長は16日,楊厚蘭駐ネ中国大使と会談し,CA選挙に出るようバイダ議長を説得して欲しいと大使に頼んだのだそうだ。コイララ議長自身が,NEFINとの会合でこの話をしたというから,本当なのだろう。

親印のコングレス議長が,印とは犬猿の仲の中国の大使に,親中CPN-MのCA選挙参加説得を依頼する。内政干渉の依頼? 

と,かくもネパール諸政党は,政党政治の理念から遠ざかり,複雑怪奇なズブズブの権力闘争にはまり込んだ。その意味でも,CA選挙は注目される。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/18 at 19:29