Archive for 12月 2010
UNMIN代表、マオイストの使い走り
偉大なプラチャンダ議長が12月30日、カリン・ランドグレンUNMIN代表と会い、UNMIN延長について打診した(ekantipur,31Dec)。
ランドグレン代表の回答は伝えられていないが、マオイストはUNMINを2011年5月28日まで延長することを要請する書簡を書き、その写しをランドグレン代表に渡し、しかもその書簡正文をランドグレン代表に国連本部に持って行ってもらうことにしたというから、UNMIN延長についてはランドグレン代表も内諾を与えているのだろう。マオイストのUNMIN延長要請書簡は、1月5日開催の安保理で審議される予定。
状況はよく分からないが、政府側もUNMIN延長書簡をすでに出しているという。あれあれ、役立たずだから出て行け、と大見得を切ったのは誰だったかな?
(注)政府のUNMIN延長書簡は誤報。ネパール首相は延長拒否書簡を送った(2011.1.5)。UNMIN延長拒否、ネパール首相
どうも、国連の方が分が悪い。いくら何でも国連には、アメリカが「テロリスト」リストに掲載しているマオイストと共闘を組むことはできまい。かといって、マオイスト要請を無視して撤退すれば、UNMIN失敗の無惨を世界にさらすことになる。これもできまい。
とすると、UNMINにかわる平和構築メカニズムをつくり、これに切り替えることになるのではないか。役人の得意技、看板の掛け替えである。
もしそうなった場合、われらが日本国陸上自衛隊中央即応集団派遣陸上自衛隊員諸氏の活動の評価と、その継承はどうなるのであろうか?
UNMIN代表と日本企業宣伝。戦争も平和もメシのタネ
谷川昌幸(C)
研修生仲介業ガイドラインの改定,ネパール労働省
ネパール労働省は12月26日,JITCO(日本国際研修機構)研修労働者仲介業のガイドラインを改訂した。現在の155業者に加え,さらに新規参入を認めるとのこと。
現行ガイドラインでは,研修労働希望者から徴収できる訓練費は1人5万ルピー。かなりの大金だが,それでも仲介業者たちは,足らないからもっとよこせ,20万ルピーにせよ,と要求している。
事前訓練費が20万ルピーにもなれば,あるいは5万ルピーでも裏金が必要なら,ネパール人研修労働者の多くが債務奴隷状態となり,日本に送られることになる可能性が高い。
いま,JITCOからのネパール人研修労働者の求人が,かなりあるらしい。日本の中小企業や農漁業にとって,ネパール人研修労働者の雇用は魅力的なようだ。それらの職種のため,どのような事前訓練が必要で,日本での研修労働により実際にどのような技術が身に付くかは,わたしには皆目見当もつかないが。
【参照】
研修実習生,長崎でも提訴
ネパール研修生仲介業者の大宣伝開始
ネパール人研修労働者の大量採用:日ネ関係は新時代へ
外国人研修労働の違法性認定:熊本地裁
外国人研修制度の欺瞞性:報道ステーション
ネパール人研修労働者受入
ネパール労働者の対日輸出:ネパール労働省
対日ネパール人輸出,あるいは新三角貿易
谷川昌幸(C)
ヤダブ大統領,議会招集
ヤダブ大統領が12月28日,MK・ネパール暫定首相の助言に基づき,議会を招集した。1月9日開会。切迫した課題は2つ。
一つは,首相選出。17回目の首相選挙が12月中旬に予定されていたが,理由不明のまま先送りされてきた。時間が正統性を生み出すとすれば,MK・ネパール首相の統治もかなりの正統性を得ているはずだが,ネパールには保守主義はなく,こうした大人の知恵を述べる人は全く見当たらない。何が何でも民主的選挙で首相を選出するのだそうだ。というわけで,新春には17回目の首相選挙がにぎにぎしく挙行されるであろう。
もう一つの課題は,UNMIN撤退問題。マオイスト=UNMIN共闘が成立すれば,UNMINはめでたく派遣延長となる。もしインドが「ノー」に固執すれば,UNMINは追い出され,マオイスト人民解放軍(PLA)は,政府(=NC=UML=軍=インド)の監視下にはいることになるが,まさかPLAがおとなしく敵の軍門にくだるとは思えない。マオイストが分裂でもしなければ,人民蜂起,人民戦争再開となる可能性が大きくなる。
1月議会の2課題は,いずれも難問だ。絶望的とならざるをえない。ネパール流「いい加減」で何とか乗り切ってもらいたいものだ。
谷川昌幸(C)
ネパールのトラ
ネパールにはトラが109匹いるらしい。Dev Raj Dahal, Election and Conflict in Nepal(FES, Aug.2010)の生息調査結果だ。
ダハール氏によると、ネパールの政治社会構造は、いま大きく変化しつつある。バフン=チェットリ=ネワール権力寡占としての伝統的支配は弱体化し、かといって左翼的階級支配に移行することもできず、統治そのものが崩壊に向かいつつある。
その統治動揺をついて激化してきたのが、民族アイデンティティ政治。新憲法には44民族集団が民族権益を書き込ませようとしのぎを削り、法の外では109武装集団がそれぞれの縄張りをめぐり私闘を繰り広げている。トラは野に放たれたのだ。
「ネパールのトラ」と名乗る集団――タライに多い――もあれば、そうでない集団もある。が、いずれにせよ様々な集団が縄張りをつくり、勝手に税を取ったり、法(ルール)を決めたり、自治州(自治区)首長を任命したりと、あちこちでジャングル化を進めていることは間違いない。
トラを放ち、自然なジャングル秩序自生を待つか、それともオリをつくり、トラを囲い込むか? 問われているのは、むしろ教師面をしてネパールにお説教してきた西洋知識人・開発専門家らである。
谷川昌幸(C)
Facebook, ゾンビのごとく蘇る
Facebookは,登録後すぐその危険性に気づき,登録を完全削除した。いや,完全削除したと思っていた。
▼参考 Facebookの無限地獄 Facebookの恐怖 Facebookの恐怖・再説
ところが,昨日また下記のようなメールが送られてきた。
「平素はFacebookにご登録いただき、ありがとうございます。・・・・Facebookは実名制のソーシャルサイトで、毎日誰かが新たにアカウント登録しています。さっそくFacebookモバイルを使って、友達を探してみましょう。また、Facebook Japanでは、OB・OGを見つけたり、先輩内定者を見つけたりと、就職活動に活用できるコネクションサーチや初心者ユーザーのためのフェイスブックナビといったサービス・機能を新たに提供開始しております。・・・・」
ゾンビのごとく蘇るFacebook。底知れぬ不気味さに背筋がゾォーとした。
Facebookは,いったん登録したら,おそらくそのデータは永久に保存され,利用され尽くすのだろう。いくら登録削除手続きをしようが,表面上見えなくなるだけで,データ自体は残っており,Facebookが望むときゾンビの如く生き返らせることができるのだ。
Facebookに登録したら,もはやその情報は自分のものではない。自分を自分ではコントロールできない。恐ろしい時代になったものだ。
谷川昌幸(C)
プラチャンダ議長の国連ラブコール
マオイスト常任委員会が12月21日,UNMIN任期6ヶ月延長要請のラブレターを国連に送ることを決めた。また,こちらはいまいちはっきりしないが,どうやら制憲議会任期の延長も要求するらしい。
さすが,プラチャンダ議長は偉い。彼以上の政治家は,今のネパールには見あたらない。
プラチャンダ議長は,一方で,バイダ(キラン)派の「人民蜂起」オプションを容認しつつ(つまり保険を掛け),国連に接近し,しかも特権を失いたくない600名巨大議員団の歓心をくすぐる作戦に出ている。二重三重の必勝作戦。うまい。
国連は追い詰められている。マオイスト提案に乗りUNMIN延長,あるいは類似メカニズムによる継承を図れば,マオイスト=国連がNC=UML=RPPと対決するという構図になる。インドは怒るに決まっているし,「国連=マオイスト共闘」は西側メディアの好奇の目にさらされることになるだろう。
かといって,もしマオイスト要求を拒絶して撤退し,その結果,人民蜂起(人民戦争再開)となれば,国連介入失敗となり,国連のメンツ丸つぶれ,関係者の経歴に傷がつく。国連は,ネパール平和構築を失敗させるわけにはいかないのだ。
プラチャンダ議長はネアカであり,愛すべき人物だ。と同時に,現実を見据え,合理的に計算し,冷酷果敢に決断し行動できる本物の政治家でもある。もし彼がいなければ,ネパールはおそらく泥沼の内戦継続か,アナーキーか,さもなければ過酷な軍事独裁になっていたであろう。
国連もNC,UMLも,プラチャンダ議長に位負けしている。
谷川昌幸(C)
中国がネパール警察買収?: ウィキリークス
ウィキリークス情報を各紙が伝えている。その一つによると,「中国脱出を図るチベット人たちを引き渡してくれる[警察]幹部に中国政府が金銭的報酬を提供している」という。
さもありなん,と多くの人が思っているとはいえ,これは在印米大使館(ニューデリー)発国務省宛公文書であり,重さがちがう。
対抗措置として,米印政府もネパール官憲に様々な恩恵をふんだんに与えている,といった某国公文書がリークされるかもしれない。
谷川昌幸(C)
最高裁に尻ぬぐいさせる議会
ヤダブ大統領が,暫定憲法51条(3)により立法議会を招集した。明日,12月19日午後1時開会。要求したのは,与党利権を満喫しているUML,NC以外の主要政党だ。さて,何人が巨大催事(場)に集まるか?
そんな議会にしびれをきたした人々が,11月28日,最高裁に直訴に及んだ。「憲法法曹フォーラム」のC.K.ギャワリ弁護士らが,首相選挙におけるUMLの中立(白票ないし欠席)政策は憲法の精神に反する,首相選挙を最初からやり直せ,という判決を出すことを求める訴えを出したのだ。
この訴えに対し,17日,最高裁はこう裁決した。すなわち,唯一の立候補者ラムチャンドラ・ポウデル氏(NC)は,対立候補なしを理由に当選とはされず,当選には過半数票の獲得が必要だ。また,政党に中立を認めている議会法41,42条は憲法38条,70条(2)(6)に違反し無効である,と。つまり,首相選挙における投票は議員の義務というわけだ。
議会法の合憲・違憲解釈は微妙であり,軽々に判断はできないが,少なくともこの判決で最高裁がほんらい議会が解決すべき政治問題に割って入り,11月28日の提訴からわずか2週間余で問題をバッサリ一刀両断にし,始末してしまった(しようとした)ことは事実だ。
日本や他の大多数の国々では考えられないことだが,ネパールは司法積極主義の国だ。1994年には,アディカリ首相の議会解散に最高裁が違憲判決をだし,UML政権を葬り去ってしまった。議会政治が成熟していないので,最高裁に直訴をせざるをえないということだろうが,議会で解決できない政治問題を最高裁が本当に解決できるのかどうか,大いに疑問である。
司法,つまり「法の支配」は,ほんらい非民主的なものだ。それを忘れ,司法に尻ぬぐいしてもらうのは,議会制民主主義の自殺行為だ。他人に尻を拭ってもらってよいのは幼児だけだ,ということを忘れてはなるまい。
谷川昌幸(C)
パラス元皇太子の勝利
王室御用達『人民評論』(12/16)が,パラス元皇太子の勝利を称えている。記事によると,他のメディア報道は「一方的な決めつけ」であり,「スジャータ娘婿の受け売り」だった。「王制廃止後,スジャータ陛下が特別扱いされ,陛下の国家貢献が喧伝されてきた」という。
この調子で,『人民評論』は,『リパプリカ』や『ヒマラヤン・タイムズ』を非難し,最悪は「パラス・シャハ,スジャータ親族殺害を図る」との見出しで大嘘報道をした『ライジング・ネパール』だ,とバッサリ切り捨てている。『朝日新聞』を送ってあげたいくらいだ。
『人民評論』(「ネパール評論」ではない)の認定した事実は,「パラス元皇太子が,外国人たち[スジャータ娘婿ら]により彼自身と元王族とネパール国民が耐えられないほど侮辱されたため,空に向け銃を放っただけにすぎない」。たしかに,パラス元皇太子は保釈金1万ルピー(1万2千円)で解放されたのだから,司法当局はそう事実認定したのだろう。
政治的に見ると,これはパラス元皇太子の勝利である。ピストルを空に向けぶっ放すことにより,元皇太子は法の上にある貴種としての存在を誇示し,ネパール国家の名誉のために闘った愛国者としての名声を取り戻し,ポカラに凱旋した。他方,コイララ家は,数々の腐敗を暴露され,「汚職の総合デパート」,売国奴として今後も糾弾され続けるだろう。
王家はさすがにスゴイ。タブーといってもよい。これと闘うには,相当の覚悟が求められる。
今回,『人民評論』以上に激しく他メディアを攻撃したのが,インテリ・外国人向けとされる『テレグラフ』。インテリ=高位カースト/ブルジョアとすると,これはインテリ層が政党政治から離れる前兆かもしれない。
谷川昌幸(C)
ピストルか偽造パスポートか: シャハ家vsコイララ家
パラス元皇太子発砲事件は,いよいよミステリーじみてきた。パラス氏はそもそもピストルなど持たず発砲はしていない(つまりNC=インド=コイララの陰謀)という説から,パラス氏に夜中12時に「ジャングルにトラを見に行こう」としつこく誘われたスジャータ副首相娘婿が断ったら皆殺しにしてやるとピストルを向けられたという説まで,実ににぎやかだ。
一方,被害者とされるスジャータ副首相娘婿ラウェル・チョーダリ氏についても,マフィアの親分だとか,外相を利用したパスポート偽造でぼろ儲けしているといった,えげつない暴露攻撃が始まった。
いやはや,すさまじい。マオイストがパラス元皇太子弁護に回ったくらいで驚いていては,ネパール観察はつとまらない。
とにかく一つ分かったことは,世界中の人々は例外なく王様,王族が大好きだということ。ベルルスコーニ首相も愛すべき人物だが,ブランド力では王族にはかなわない。
民主主義や共和制は正しいかもしれないが,面白くない。このことを忘れると,足元をすくわれるだろう。
谷川昌幸(C)
コメントを投稿するにはログインしてください。