ネパール評論

ネパール研究会

Archive for 1月 2012

大統領制,プラチャンダ提唱

プラチャンダ議長が,また大統領制を唱え始めた。人民直接選挙による大統領制は反民主的ではないし,人民主権と国民統合の維持には議院内閣制よりも適切だという。

たしかに議院内閣制は,政党政治が熟していないと,不安定となりやすい。ネパールの場合,1990年憲法時代以来,政党内閣はいつまでも安定せず,1年前後で交代するのがほぼ慣例となっていた。政党の組み合わせも,権力ほしさのあまり党是も何も無視し,ありとあらゆる可能性が試みられたが,いずれもダメであった。野合,無節操の極みだ。

それでも90年憲法体制では,最後の拠り所として国王がいた。さんざん悪口を言われ,事実,芳しくない行為も多々あったが,少なくとも国家統合の最後の切り札としての国王(制度としての王制)の存在は大きかった。(「王制」アレルギーの方々には,朝日新聞の2012年正月特集をご覧いただきたい。王制(君主制)による民主主義批判が展開されています。)

ところが,「民主革命Ⅱ」により王制は廃止され,しかも西洋押しつけ包摂民主主義により議会は多党乱立となり,行政も何もかも各種利益集団の割拠となった。議会は何も決められず,行政はコネ・ゴネがさらにひどくなった。

これはイカンと思ったのは,われらがプラチャンダ議長だけではない。ネルー大卒で駐印大使も務めたロックラジ・バラールらも,政治的安定と経済発展には大統領制が必要だと唱え始めた。

大統領制は,いわば「選挙王制」。いま破竹の勢いの橋下大阪市長が,なぜ大胆な政策を打ち出し実行できるかといえば,直接人民(市民)により選挙された一種の「国王(君主)」だからである。「選挙」王制だから,血統世襲王制ほどの安定継続性はないが,変節朝日新聞が正月早々賞賛した王制の他の非民主的特徴の多くは,備えている。それを橋本市長はうまく利用しているのだ。

プラチャンダ議長の大統領制提唱には,おそらく自分が大統領となり,マオイスト人民独裁を達成しようとの野望もあるだろう。しかし,ネパールの現状を見ると,議院内閣制の未来は暗い。

私自身は,いまのネパールには完全な儀式的象徴君主制が望ましいと思うが,それが無理なら,やはり大統領制がよいだろう。正月の朝日新聞を読み,その思いをますます強くした。プラチャンダ議長,頑張れ!

ネパール王制と天皇制:苅部直「新・皇室制度論」をめぐって
Unitary State, Ceremonial Head and Japan’s Role in Peace Process (2007.9)

* Rising Nepal, 2012-01-23,25.

谷川昌幸(C)

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2012/01/31 at 11:29

中国熱烈歓迎,長崎

長崎は,位置的には,東京よりも中国に近い。しかも,没落日本に比べ,中国は昇竜の勢い。韓国依存を深める対馬に続き,長崎も中国依存に向かいそうだ。

すでに長崎の街には中国や韓国から大勢の人が来ているし,春にはHISが上海定期客船を運航する。ハウステンボスを再建した商売上手のHIS,豪華客船で多くの観光客を連れてきてくれるだろう。

ヒステリックな嫌中など,東京の時代錯誤国粋主義者どもに任せておけばよい。長崎には,13億の大国中国がついている。兵器産業依存などより,中国との互恵繁栄の方がはるかに健全だ。

この春からは,中国客満載のHIS豪華客船が三菱造船所のすぐ側を往来する。イージス艦だろうがミサイル搭載艦だろうが,ぜ~んぶ丸見え。当然,パチパチ撮られ,中国でばらまかれ,ネットでも流されるだろう。

これはたまらん,軍機が守れない,といって軍事産業が撤退してくれたら,しめたもの。長崎は,宿痾の軍事産業依存から脱却できるかもしれない。よい時代になったものだ。


 ■入場制限中の長崎中華街(2012.1.28)


 ■立錐の余地なき湊公園(2012.1.28)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/28 at 21:13

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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キリスト教バディ学校設立

オーストラリアのChristian Community Ministry(CCM)が,カトマンズにバディ児童のための「キリスト教コミュニティ学校」を設立した。

バディは,ダリットの中でも最も差別されている人々であり,生計のため売春を強いられてきた。現在,4~7万人とされている。これは最悪の人権侵害だが,救済は一向に進まず,2007年には全裸デモさえ予告されたものの,実行には至らなかった。
  ■売春カーストと性産業セックスワーカー

このダリット救済のため,CCMがEducate Nepalを通して設立したのが,「キリスト教コミュニティ学校」。幼稚園から5年生まで,400人の収容能力がある。すでに16郡から180人のバディ児童が入学し,宿舎で生活している。CCMは,このタイプのキリスト教学校を全75郡に設立する計画だという。

バディ児童,特に女児の救済は最優先課題だ。なぜマオイスト政府はやらないのか? なぜ金満仏教会はやらないのか? なぜ本家ヒンドゥー教会は率先してやらないのか?

キリスト教会にも思惑はあるだろうが,そんなことは,教会外のどの勢力にも言う資格はない。正視しえない大罪を見て見ぬふりをしているからだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/26 at 19:28

カテゴリー: 社会, 宗教, 人権

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死命を制すセキュリティ・ソフト

ネットなしには生きづらくなった現代。世界世論を常に監視し,決定的なところでその動向を決するのは,いまやセキュリティ・ソフトだ。

たとえば,もしこのブログの反動性もしくは革命性をセキュリティソフト会社の誰かが「危険」と判断し,「これは報告されている安全でない Web サイトです。このページを閲覧しないことを推奨します」といった警告を出せば,たちまち誰もこのブログを読まなくなる。

これは杞憂ではない。マオイスト系の”The Red Star”が,この数ヶ月間,McAfeeによりそうした警告を出されていた。

■ ブロックと兵糧攻め,左派HPへ

たしかに「赤星」なんか読むと「赤く」なる。MacAfee=米帝にとって危険であり,だからこそ警告を出したのだろう(たぶん?)。ところが,マオイスト左派が既得権益に恋々とし,プラチャンダ=バブラム主流派にすり寄ると,この警告が削除された。安全と判定されたのだ。なんたるご都合主義!

いまやグーグル以上に警戒すべきは,セキュリティ・ソフト。そもそ「安全保障」をいうヤカラこそが「安全」のために軍拡し,「平和」のために戦争を仕掛けるのだ。

IT技術者の皆さんには,世界人民のために,ぜひともセキュリティ・ソフトの安全をチェックする「メタ・セキュリティ・ソフト」を開発していただきたい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/24 at 11:20

カテゴリー: 情報 IT, 文化

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存在感ます中国と韓国

1.中国の積極外交
テレグラフ(1月20日)によると,ヤン中国大使は18日の記者会見で,ネパールは外国の国家モデルを追うのではなく,ネパールに適したネパール自身の国家を構築すべきだ,と忠告した。

テレグラフの指摘をまつまでもなく,これは歴代国王の国家理念である。中国はえらい。お手本は毛沢東ではなくネパール国王なのだ。たしかに歴代ネパール国王は中国の友であった。

いずれにせよ,テレグラフの分析によると,中国の対ネ外交の基調が変わった。これまでネパールにおいて中国は目立つことを慎重に避け「静かなる外交」をしてきたが,最近,その伝統的スタイルを放棄し,積極的に発言し行動するようになった。まるでインドと入れ替わったようだという。

2.韓国の積極投資
韓国も負けてはいない。1月20日,キム大使はルンビニ開発のための2百万ドル援助協定に調印した。

韓国国際協力局(KOICA)が中心となり,「韓国の経験と知識によりルンビニを世界平和都市にする」のだそうだ(nepalnews.com, Jan20)。中国は115m大仏を建立し国威を発揚する。さて,韓国はどうする? 700m展望塔を建て,スカイツリーを見下すか?

日本は,ルンビニでも,もはやお呼びじゃない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/22 at 19:12

カテゴリー: 経済, 外交

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「ネパール=中国友好年」と「ルンビニ観光年」

1.無礼な中国首相訪問
温家宝首相の訪ネ(1月14日)はあまりにも異例,ネパールはまるで中国の一部か属国のようであった。ネパール・メディアが,鬱鬱たる怒りを押し殺しつつ,皮肉たっぷりに伝えているところによると,経緯の大要は次の通り。

中国がネパールに首相訪問を公式に伝えたのは24時間前であり,ネパール外務省の公式発表は特別機着陸(11時50分)の48分前であった。

■1月13日(金)
 ・大統領,制憲議会議長への連絡=13日午前。
 ・外務省幹部=メディア報道で,16時頃知る。
 ・首相官邸がソルティーホテルに昼食会準備依頼=16:30
 ・官邸の赤カーペット取り替え=13日夕方
 ・中国大使館員らとの打ち合わせ=13日夕方
■1月14日(土)
 11:50 温首相,TIA到着
 12:15 バブラム首相と会談
 12:45 首相官邸で両国公式協議
 13:30 8協定調印
 13:50 昼食会。各党首ら出席
 14:50 大統領官邸出発
 16:00 ドーハへ向け出国

ネパールにとっては,予告無しの来訪に近い。特に,大統領,議会議長,各党首らは,ほとんど情報のないまま,突然,14日カトマンズ待機を求められたらしい。たった4時間の訪問のために。無礼千万といわざるをえない。

2.ネパール=中国友好年2012
温首相の訪ネはわずか4時間であったが,地政学的に重要な地域での大規模ダム建設,ポカラ国際空港建設,経済協力拡大など,協定が8つも締結され,中国にとっては成果十分であった。

それらの中で,今のところあまり注目されていないが,中長期的に重要となると思われるのが,「ネパール=中国友好年2012」の採択である。

協定によれば,2012年は「ネパール=中国友好年」とされ,文化交流・青年交流が拡大され,「中国フェスティバル」が展開される。中長期的に,中国文化を浸透させていく計画らしい。

これは「友好」が目的だから,反友好的な行為は抑制される。具体的には,自由チベット運動。協定は,こう宣言している。

「ネパール側は繰り返し確認した――世界において中国は唯一であること,中華人民共和国政府は中国全体を代表する唯一の合法政府であること,そして台湾とチベットは中国の不可分の領域であること。またネパールは,中国の国家主権・国民統一・領域統合への努力を強く支持し,いかなる勢力にもネパール領域を反中国の活動や分離活動のために利用させることはない。このネパールの立場を,中国側は高く評価した。」

これは中国のいうがままであり,この協定により,ネパールはこれまで以上に強力にチベット自由運動や他の反中国活動を取り締まらなければならないことになった。

さて,どうするか? ちょっとうがった見方だが,この点との絡みで注目すべきは,今回約束された次の援助である。

中国は,警察力強化に1億2千5百万ルピー,武装警察学校設立に5千万ルピーの援助を約束した。これらのうち武装警察は準軍隊であり,その幹部養成を任務とするのが武装警察学校であろう。そこに中国が援助する。さすが,中国,目の付け所がよい。

中国との友好は,当然,自由チベット弾圧を意味する。

3.ルンビニ観光年2012
この「ネパール=中国友好年2012」とリンクしているのが,「ルンビニ観光年2012」である。ヤダブ大統領は,「ネパール=中国友好年2012」協定調印の翌日(15日),カトマンズからルンビニに行き,そこで「ルンビニ観光年2012」を宣言した。偶然の一致ではなく,両者は連動していると見るべきだろう。

14日のカトマンズでの協議において,バブラム首相がラサ-カトマンズ-ルンビニ鉄道建設を要望したのに対し,温首相は,それは十分に可能であり,中国政府は前向きに検討する,と約束した。中国側は,やる気満々なのだ。

もしラサ-カトマンズ-ルンビニ鉄道が建設されたら,ネパールの地政学的位置は大きく変化する。あるいはまた,中国は,ルンビニの先の巨大なインド市場をも見込んでいるのかもしれない。

いずれにせよ,「ネパール=中国友好年2012」と「ルンビニ観光年2012」は連動していると見るべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/18 at 13:44

カテゴリー: 経済, 外交, 文化, 中国

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中国首相の訪ネと自由チベット弾圧

さすが中国,外交がうまい。たった5時間足らずの立ち寄り訪ネで,1つの中国確認,自由チベット弾圧,経済権益拡大を一挙に実現してしまう。

1.サプライズ訪ネ
温家宝首相の訪ネは,昨年12月20日に予定されていたが,ネパール側要人らが「オレがオレが」と訪ネ実現の手柄を吹聴し,情報じゃじゃ漏れだったため,怒った中国が突然キャンセルし,ネパール側を震え上がらせた。

これに対し,今日の訪ネは完全なサプライズ。午前11時着(1時間遅延で間もなく到着予定),バブラム首相,ヤダブ大統領,そしてもちろんプラチャンダ議長とも会ってやり,午後5時には,本来の訪問先,湾岸諸国に向かって飛び去る。

イラン危機の最中,湾岸諸国訪問がいかに重要かはいうまでもない。そこに行くついでに,ちょっとカトマンズに立ち寄り,ネパールに中国の偉大を見せつけてやるわけだ。

神にせよ仏にせよ,偉大なものは隠されてある。温家宝首相の訪ネも,今回は完全なマル秘。政府高官も,政党やメディアも,何も知らされていなかった。

政府御用紙ライジングネパールによれば,9日の時点でも,NK.シュレスタ副首相兼外相は,議会委員会で中国首相の訪ネ実現に努力する,と答えている。隠していたのではなく,本当に知らなかったのだろう。

2.自由チベット弾圧
一方,偉大な中国首相の来訪を仰ぐネパールは,最大限の貢ぎ物を差し出す。

第一に,自由チベットの弾圧。1月13日,インドからネパールに戻ったチベット人207人(女性81人)が警察に拘束された。詳細は不明だが,いずれにせよ,これが温首相歓迎のための貢ぎ物であることは明らかである。また,自由チベット弾圧と同時に,ネパール政府が「1つの中国」を繰り返し唱え,中国政府に忠誠を誓っていることはいうまでもない。

暫定憲法に民族自治,包摂参加を高らかに書き込んでいることなど,全く意に介さない。憲法も人権もそっちのけ,自由チベットを弾圧し,「1つの中国」の呪文を唱えなければ,偉大な中国首相にはおいでいただけないのだ。

 拘束されたチベット人(Republica2012-1-14)

3.経済権益の提供
またネパールは,温首相の訪ネを歓迎し,中国の要求する経済権益も,大幅に容認するだろう。
  ・ポカラ空港を国際空港に拡張・・・・1.5億ドル(事業総額,以下同様)
  ・リング道路改良・・・・5千5百万ドル
  ・大規模ダム・水力発電所(3カ所)・・・・37億ドル
  ・パンチカール経済特区設置
  ・ルンビニ開発

どこまで信用できるか分からないが,事業総額80億ドル以上ともいわれている。目もくらむ大金だ。いまや,インフラ整備も教育文化支援も,中国にシフトしつつある。巧みな外交と,有り余る資金の中国。

ネパールは,国際会議においてイザとなれば必ず中国(またはインド)に1票を入れる。決して日本には入れない。これまでもそうだったし,これからはこれまで以上に日本は軽視され無視される。ネパールの友人は中国(またはインド)であって日本ではない。もはや,日本に出番はない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/14 at 16:05

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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韓国のルンビニ開発援助,政府受諾決定

ネパール政府は1月12日,韓国からのルンビニ開発援助2百万ドルの受け入れを決めた。さすが韓国,仕事が早い。そして,宣伝上手。

もしこれが日本なら,モタモタし,たとえ同じ2百万ドル援助しても,せいぜい1,2行のベタ記事か,下手をすると無視されてしまう。報道されなければ,何もしないのと同然。それが世界なのだ。

韓国は,そして中国も,行動様式は米欧に近く,どう報道されるか――どう評価されるか――を考え,最大限効果的な外交をやっている。見習うか,援助をやめるか,どちらかにすべきだろう。

* ekantipur, Jan13

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/13 at 11:16

カテゴリー: 外交, 中国

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ルンビニ開発への懸念,ユネスコ書簡

1.ユネスコ,書簡送付
ユネスコ世界遺産センターが,ネパール文化省宛の書簡(2011-12-20)で,中国系APEC(アジア太平洋交流協力基金)主導のルンビニ開発に対する懸念を伝えた。APECルンビニ開発は,ユネスコのルンビニ開発マスター・プランや世界遺産条約ガイドラインに反するというのだ。

2.ユネスコ「ルンビニ保存管理強化」事業
ユネスコは,1997年にルンビニを世界遺産に登録し,2010年7月16日にはネパール政府と協定を締結,日本政府拠出基金による「ルンビニ保存管理強化」事業を開始した。

事業内容 考古学的調査,遺跡保存,丹下健三マスタープランの検証,ルンビニ管理体制の確立
参加機関 世界遺産センター,連邦省,考古学省,日本大使館,ダーラム大(英),東京大学,ルンビニ開発トラスト,ルンビニ国際調査所
専門家委員 西村幸夫(東京大学,都市計画),C. Comingham (英),C. Meucci(伊)

この事業は,丹下マスタープラン(100万ドル,UNDP,1978)を継承するものであり,ユネスコの説明によれば,資金的にも人的にも日本が中心となっている。ユネスコは,このルンビニ開発計画に,APECルンビニ開発事業は反するというのだ。

3.巨大仏像に五星ホテル
APECルンビニ開発計画によると,目玉として巨大仏像が建立される。高さ115mというから,奈良大仏(15m)や鎌倉大仏(11m)よりもはるかに大きい。そして,五つ星のプール付き高級ホテルと,4000人収容の大ホール。

さすが,中国,なんでも巨大なものが好きだ。ちまちました小国日本の比ではない。現在の制憲議会ビル(コンベンションホール)のバカでかさをみれば,中国的思考は一目瞭然。それをルンビニでもやろうというのだ。

4.世界遺産条約違反
ルンビニ地区に,もしこんな巨大仏像や五星ホテルが建設されたら,世界遺産としての有難味は激減する。世界遺産条約はこう定めている。

■世界遺産条約実施ガイドライン(172)
「条約保護地域において,遺産の価値を害する恐れのある大規模な再建や新築を行う場合は,世界遺産委員会に通知すること・・・・」

APEC開発計画は,明らかに,このガイドラインに違反している。

5.日中の代理戦争?
ルンビニ開発をめぐるこのユネスコとAPEC系との対立は,うがった見方をすれば,少なくとも外面的には,日中の代理戦争だ。

日本はユネスコ分担金を12.5%も負担しており,米国(22%)に次ぐユネスコの大パトロン。ユネスコのルンビニ開発でも,日本は,資金を提供し,日本大使館や東京大学(丹下健三―西村幸夫)が深く関与している。

一方,APECの背後に中国政府がいることは周知の事実だ。ルンビニをめぐって,日中が争っている,と見られても仕方ない。では,日中いずれに軍配が上がるか? いかんながら,結局,日本は負けると見ざるをえない。

巨大仏像,五星ホテル,巨大ホールなど,しめて事業総額80億ドル也。しかも,われらがプラチャンダが全面支援している。日本に勝ち目はない。結局,ルンビニに巨大仏像が建つだろう。赤色かもしれないが。

▼ルンビニ開発関連記事 →→ 右の検索窓に「ルンビニ」を入力し検索

* Republica, 2012-01-1
* UNESCO, Strengthening the Conservation and Management of Lumbini, UNESCO HP

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/12 at 20:11

カテゴリー: 経済, 文化, 中国

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鄧小平伝出版,日本モデルから中国モデルへ

ネパールで鄧小平伝が出版された。
Pushupa Ahikari, Deng Xiao Ping and Hong Kong, Strategic Policy and Research Institute of Nepal, 2011.

Pushupa Adhikari: トリブバン大学政治学部准教授,国際関係論,中国研究。1996-2000年,中国滞在。LSEアジア研究センター,フェロー。SANGAM研究所元所長。

私は,著者についても戦略研究所についても何の知識もない。新聞記事によると,本書の出版披露をしたのはNCのラムシャラン・マハト氏なので,そちらに近い方かもしれない。また,「SANGAM元所長」と紹介されているんので,その方面と関係がある方なのかもしれない。今のところそうしたことは分からないが,いずれにせよ,この状況下で鄧小平伝が出版されたことは,興味深い。

ネパールでは,統一共産党(UML)はもともと改革開放路線であったが,マオイストはそれを修正主義として厳しく批判し,中国共産党とも敵対関係にあった。プラチャンダやバブラムは,毛沢東思想を正統に継承するのは中国共産党ではなくネパール・マオイストだ,と主張していた。

ところが,マオイストはいまや体制内最大政党,永久(永続)革命の毛沢東主義ではやっていけない。プラチャンダやバブラムは,事実上,鄧小平改革開放路線に転向した。

これに対し,四人組に相当するのが,バイダ副議長,ラムバハドール・タパ(バダル)書記長,チャンドラプラカシ・ガジュレル(ガウラブ)書記ら。彼らに近い「赤星」記事によると,マオイストは事実上すでに分裂しており,公式決裂は時間の問題だという。

もちろん,ネパール四人組にとっても,既得権益は甘~く,おいしい。少々のことで正式決裂はせず,ギリギリまで党内権力闘争を戦うであろう。

この鄧小平伝は,こうした政治状況下で出版された。著者は,何かとウワサのSANGAM研究所の元所長。出版披露はNCのマハト氏であり,そこにはヤン駐ネパール中国大使も出席し,鄧小平理論の受容拡大への期待を表明した。なかなか,複雑。

が,いずれにせよ,ネパールにおいて,開発モデルが日本などから中国に移りつつあることは確かなようだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/08 at 17:37

カテゴリー: マオイスト, 中国

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