Archive for 8月 2014
制憲議会選挙(40):17議席指名
コイララ内閣が8月29日,暫定憲法第63条3(C)により,内閣指名26議席のうちの17議席17名を指名した。コングレス党(NC)8,統一共産党(CPN-UML)8,国民民主党(RPP)1。しかし,この指名には,問題が少なくない。
第一に,最も根本的な問題は,第二次制憲議会開会(1月22日)から7か月も経過していること。新憲法案が来年早々にも提案され成立するなら,憲法規定の指名26議員は憲法審議の半分以上に参加できなかったことになる。
指名26議員ぬきの議会には正統性がなく,したがって新憲法にも厳密には正統性はない。この問題は,党派対立が激化すれば,まちがいなく持ち出され,最高裁への提訴や,反政府運動のスローガンとされるだろう。
第二に,指名議席は26なのに,マオイスト(UCPN-M)やマデシ諸党の反対のため,NC,UML,RPPの3党推薦分しか指名できなかった。全議席が指名できなければ,制憲議会の正統性への懐疑は,むしろ深まるであろう。
第三に,指名には,相変わらずコネが強く働いた。NCは,当初,最高裁命令(5月12日)を無視して11月選挙落選者を候補として提出し,あとで撤回するという醜態を演じた。また,デウバら党内有力者も,人選が不公平だと非難している。
UMLは,ポカレル書記長の妻を党推薦し指名された。党内では,MK.ネパールらが,やはり不公平だと非難している。RPPのカマル・タパ議長は,弟を党推薦し指名された。彼は,汚職疑惑で調査されており,この情実推薦指名にも批判は強い。
このように見てくると,新憲法が本当に出来るのか,また,たとえ出来たとしても,それがどこまで正統性を持ちうるか,はなはだ心許ないと言わざるをえないだろう。
谷川昌幸(C)
モディ首相,安倍首相に日本語でツイート
モディ首相が,8月30日から日本を公式訪問する。モディ首相は,日本と安倍首相を重視し,ブータン,ネパールの次の訪問国を日本とした。先に訪問したブータンとネパールはいわば身内なので,本格的な域外の国への訪問は日本が最初となる。
モディ首相はサービス精神旺盛だ。それは訪ネのときいかんなく発揮されたが,今回の訪日でもそうらしい。(参照:ネパール毛派称賛の目算,モディ首相演説)
たとえば,ツイッターを見よ。モディ首相は,はやくも,なんと日本語でツイートし,日本と安倍首相を手放しで褒めちぎっている。むろん,安倍首相がモディ首相のツイッターをフォローしていることはいまや世界周知の事実であり,それが分かったうえでのことだ。神々の超大国インドの首相に,こんなに褒められると,極東の小国はうれしさで舞い上がり,首相から一少国民に至るまで一億火の玉となって感涙にむせぶだろう。
しかし,このモディ首相訪日が,リアルポリティックスにおいてどのような意味を持つかは,いまのところまだ何とも言いがたい。
インドは,とにかく神々の超大国,スケールが途方もなくでかい。だから記事もやたら長くて雄弁だ。どれもこれもネパールの記事の10倍以上はある。とても読み切れない。これから頑張って,もしいくつか読むことができたなら,後日,ご紹介することにしたい。
--[モディ首相ツイッター]---------------
@narendramodi
Modi 私は8月30日から日本を訪問する。印日関係を強化するこの訪問を、とても楽しみにしている。
Modi この訪日は、私にとって、インド亜大陸外で初めての二国間訪問となる。当初は7月初旬を予定していたが、議会の都合で不可能になった。
Modi 私はこの訪日を、日本との関係を新たなレベルへと高め、様々な分野における協力を増進する機会と見ている。
Modi 東京と京都を訪ね、学生、政治指導者、企業幹部など、日本社会のあらゆる層の人々と交流する。
Modi 州首相時代に日本を訪問したが、とても温かい思い出だ。もてなしの心と、協力の幅広い可能性が、深く印象に残った。
Modi 日本人の持つイノベーションの規模と高い精密性は賞賛に値する。印日両国は互いから多くを学ぶことができる。
Modi 私が特に心待ちにしているのは、安倍首相にお会いすることだ。私は彼のリーダーシップを深く尊敬しており、これまでの面会を通じて温かな関係を享受している。
Modi 日本のインドとの友情は時の試練を経てなお続いている。われわれ二国は、世界の平和と繁栄の推進に傾倒する、活気に満ちた民主主義国家である。
Modi Friends from Japan asked me to talk to the people of Japan directly in Japanese. I also thank them for helping with the translation. [上掲の安倍首相リツイートは,この部分]
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谷川昌幸(C)
中国と韓国,ネパールでも元気
報道によれば,2013年の訪ネ中国人が11万3千人に達した(Ekantipur,26 Aug)。「文化・旅行・航空省」の統計とあわせて比較すると,次のようになる。
ネパール入国外国人(空欄はデータなし)
2001 | 2012 | 2013 | |
印 | 64,320(17.8%) | 165,815(20.6%) | 180,974 |
中 | 8,738(2.4%) | 71,861(8.9%) | 113,173 |
米 | 32,052(8.9%) | 48,985(6.1%) | 47,355 |
英 | 33,533(9.3%) | 41,294(5.1%) | 35,668 |
日 | 28,830(8.0%) | 28,642(3.6%) | — |
韓 | — | 26,004 | — |
(NEPAL TOURISM STATISTICS 2012; Ekantipur,2014-8-26)
日本や米英などは,この十年ほど,訪ネ者総数にあまり変化はないが,中国人は激増している。韓国人は2001年の数字はないが,やはり激増は間違いあるまい。もう10年前,1990年頃と比較すると,対比はさらに顕著となるであろう。その結果,日本や米英の訪ネ外国人総数に占める比率は大きく低下した。
興味深いのは,ルンビニ訪問者。中国と韓国は,堂々の上位4位,5位。特に中国人のルンビニ訪問は激増している。ルンビニに,中国がチベットからの鉄道延伸を提案し,韓国が国際空港建設を提案するのも,もっともである。
■Travel Trend of Foreigner to Lumbini, 2013
谷川昌幸(C)
対印貿易の大幅赤字
インドの南アジア諸国からの輸入に占めるネパールの比率が,激減している(ekantipur,24 Aug)。
10年前(2002-03) →→ 現在(2012-13)
ネパール 53% →→ 20%
パキスタン 8% →→ 20%
スリランカ 17% →→ 23%
バングラ 12% →→ 24%
ブータン 6% →→ 6%
ネパールの対印輸出の絶対額は年6%増だが,他の諸国に比べ伸びが少なく,相対的な比率が大幅低下した。
ネパールの対印輸出540億ルピー,印からの輸入4310億ルピー。これでは,少々,経済援助してもらっても,焼け石に水。海外出稼ぎや,中国観光客増に期待せざるをえないのも,もっともだ。
ネパールの対印貿易(■輸出■輸入■貿易収支)
■Trade and Export Promotion Centre
谷川昌幸(C)
「ヒマラヤ航空」設立,カトマンズ-ラサ便10月就航
中国「西蔵航空」は,8月18日,ネパールの投資2会社と合弁で,「ヒマラヤ航空」を設立した。エアバス319型2機により,カトマンズ-ラサ便を10月28日から就航させる予定(新華社8月22日; Nepali Times,22-28 Aug; Republica,21 Aug; ekantipur, 20 Aug)。
▼資本金 2500万ドル
中 国 側:49% 西蔵航空
ネパール側:51% HIF,イエティ世界投資
*西蔵航空=エアバス319型9機保有。中国国際航空系
*HIF=旅行業,水力発電等に投資。ネパール投資銀行系
*イエティ世界投資=イエティ航空系列会社
この「ヒマラヤ航空」は,一応,ネパールの会社だが,中国側も49%出資しており,中国の意向が会社運営に大きく影響することは避けられない。
ネパールの航空会社にとって,チベットは多くの観光客が見込めるし,また中国の他の都市へのフライトも魅力的だ。日本の訪ネ客も,多くがすでに中国経由となっているのではないか。
航空分野でも,中国はネパールに対する影響力をますます拡大して行くであろう。
谷川昌幸(C)
GDP9.9%喪失,地球温暖化により
アジア開発銀行「南アジア気候変動コスト評価」(2014)によれば,南アジア諸国は,2100年までに,地球温暖化によりGDPの8.8%を毎年失うようになる。最悪の場合は,24%に達する。
ネパールは損失GDP9.9%で,モルディブ(12.6%)の次に被害が大きい。温暖化で,米生産は16%程度増えるそうだが,洪水や土砂崩れなど,被害の方がはるかに大きいことにかわりはない。
ここ関西でも,地球温暖化は,日々実感するところだ。丹後のわが村では,かつては冬には1m以上の積雪があったが,近年は降ってもすぐ消える。雨も少ない。「うらにし(北西季節風曇天)」だ,「弁当忘れても傘忘れるな」と自虐的に言い交わすのが慣例だったのに,最近は,よそで降っていても,丹後では降らない。信じられない激変。
地球温暖化は,どこまで人為的要因によるのか分からないが,素人でも感じられるほどだから,危険レベルに達していることはまちがいない。
といっても,無限の高度経済成長や,贅沢三昧,資源浪費生活は,やめられない。結局,天罰にまたざるをえまい。因果なものだ。
谷川昌幸(C)
紹介:寺田鎮子著『ネパール文化探検』
これまでに発表されたネパール関係論文を1冊にまとめたもの。いずれも,綿密な現地調査に裏付けられた手堅い論文だが,記述は平易であり,特別な予備知識がなくても,よく理解でき,面白く,興味が尽きない。非売品だが,ネパールやこの分野に関心をお持ちの方に,是非お薦めしたい好著だ。
寺田鎮子著『ネパール文化探検』177+5頁,2014年6月30日刊,非売品
まえがき
第1章 ネパールの生き神・クマリ
第2章 ネパール宗教マンダラ
第3章 ネパールの女神の大祭-ダサインの考察
第4章 ネパールの面と儀礼
第5章 ネパールの伝説と祭り
第6章 ネパールの柱祭りと王権
第7章 ネパールの柱祭り
付 録 暦とカレンダー/ネパールの民話の世界/ポピューラー音楽の現在
谷川昌幸(C)
ネパール毛派称賛の目算,モディ首相演説
1.独立記念日演説の雄弁
インドのモディ首相が,8月15日,独立記念日演説をした。さすが神々の超大国,演説は長大で,拾い読みしか出来なかったが,それでもその雄大雄弁には圧倒された。
2.大国首相の大国的率直
モディ演説のスゴさは,そのアッケラカンとした率直さに,よく現れている。
まず,自分は主席大臣(Prime Minister)としてではなく,人民の第一の僕(Prime Servant)として話していると語りかけ,人々に本当の「国益」を考え,それぞれが「自分の持ち場で誠実に努力する」ことを訴えかける。「そんなことは知らないよ」「私には関係ないね」といった,広く蔓延している無責任な態度を,国民一人一人が改めなければならない,と。
たとえば,若い娘をもつ親は,強姦(レイプ)を心配し,どこに行く,いつ帰ってくる,着いたらすぐ連絡せよ,などと細々と注意する。ところが,息子については,そんな注意などしはしない。いつ強姦犯になるかもしれないのに,無責任だ。
また,インドでは,男子1000人に対し女子940人しか生まれない。なぜか? 神のせいでは,断じてない! 医者や父母は,生まれるはずの女児を殺すべきではない。あるいは,農民はなぜ自殺するのか? 娘の結婚持参金のための借金が返せないからだ。
さらには,村では,母や姉妹たちは,苦しくても,暗くなるまで用便できない。野外でしか,出来ないからだ。なぜ便所くらい,つくれないのか? 学校でも,女生徒は,便所がないため授業を抜け出さざるをえず,勉強ができない。すべての学校に男女別便所をつくるべきだ。
3.マオイストよ,銃を鋤に!
マオイストになるのも同じこと。無実の人々を殺すマオイストも,人の子だ。親には,息子をテロリストにしてしまった責任がある。マオイストに言いたい。銃ではなく鋤を担え。そうすれば,このインドは血塗られることなく,美しい大地となろう。
4.ネパール毛派に学べ
「兄弟姉妹たちよ,先日,私はネパールに行った。そこで,私は世界中の人々に向け,こう語った。かつてアショーカ王は戦いの道を選んだが,暴力を目にし,心を入れ替え,仏の道を歩むことにした。ネパールの青年たちも,かつて暴力の道を選んだときがあったが,いまでは,その同じ青年たちが憲法制定を待ち望んでいるのを目にする。いま憲法をつくっているのは,かつて青年たちと行動を共にした人々だ。
また,私はこうも語った。もしネパールが武器から交渉への最善のお手本を示してくれるなら,それは世界中の青年たちを励まし暴力の道の放棄へと導いてくれるだろう,と。
兄弟姉妹たちよ,もし仏陀の国,ネパールが,世界に向けこのようなメッセージを発しているとするなら,なぜ同じことがインドに出来ないのだろうか? われわれは,いまこそ,暴力の道を放棄し,友愛の道をとるべきではないか。」
5.モディ演説の迫力
あまりにも大国的長大さのため,走り読み,飛ばし読みにすぎないが,それでもその迫力には圧倒される。
一国首相たるものが,レッドフォートの晴れがましい独立記念日演説(写真参照)で,強姦(レイプ)や、女児間引きや,結婚持参金自殺や,便所なしの惨めさを告発する!
その一方,モディ首相は,マオイストには高尚にも「銃を鋤に!」と訴えかけ,また経済界に向けては「インドに来て,インドで作れ」,そして世界中で売れ,と繰り返し訴えかける。
見事なコントラストだ。そして,それは,もちろん計算されたものだ。
「兄弟姉妹たちよ,大きなことについて語り,訴えるのは大切なことだが,訴えかけは希望をもたらすものでなければならない。もし希望が実現されないと,社会は落胆と絶望の淵に沈んでしまう。だからこそ,私たち誰にでも実現できる身近なことについて,私は訴えてきたのだ。
兄弟姉妹たちよ,首相がレッドフォートから便所をつくれ,清潔にせよ,と訴えかけるのを聞き,ショックを受けられたにちがいない。私の演説は,物議を醸し,非難されるだろう。が,私には確信がある。私の家は貧しかった。私は貧困を見てきた。貧しい人々も尊敬されるべきだとするなら,それには清潔からこそ始められるべきだからだ。・・・・」
これはレトリックであり,政治家の演説はかくあるべきだ。そこで,ネパール毛派称賛。狙いは何か?
一つは,もちろんインド国内のマオイストら反政府武装闘争派への「ネパール毛派を見習え」という訴え。そして,もう一つは,ネパール和平を称賛することにより,和平過程にお墨付きを与え,まもなく成立するはずの新憲法体制の公然たる後見人となること。
ネパール各紙が,モディ演説に狂喜しているのを見ると,モディ首相の目算どおり,ことは進んでいるようだ。やはり,インドは偉大だ。
谷川昌幸(C)
ネパール人雇用,公平高給の韓国
韓国外国人雇用制度(EPS)にもとづく韓国語能力試験が,8月13-14日実施され,4万人が受験した。9月26-27日にも実施され,総計5万5千人が受験の見込み。女性は約10%(ekantipur,2014/8/15)。
韓国EPSは,好評だ。受験料24ドル。学歴不問,39歳以下。選考は公明公正で,コネ不要。非熟練労働で,月給10万ルピー。だから大学新卒や有職者が多数応募する。採用数は,2013年度5234人,2014年度5700人。
韓国は,この外国人雇用問題でも,日本のはるか先を行っている。狡くて卑怯で時代遅れなのが,日本の外国人研修実習制度。こんな公告をこの記事の横に出さざるを得ないのは,そのためではないか?
谷川昌幸(C)
ラサ-カトマンズ,道路も鉄道も
報道によると,中国政府は「ラサ-シガツェ-カトマンズ-ルンビニ」を道路と鉄道で結び,ギロング(Gyirong, Kyirong)の中ネ国境付近に「国際貿易センター(陸港)」ないし「中ネ経済協力ゾーン」を建設する計画のようだ(ekantipur,9 Aug;Republica,31 Jul)。
道路は,カトマンズ-トリスリバザール-ラスワガディ-ギロングであり,ラスワガディーギロング間は10月中にも開通。鉄道は,シガツェ-ギロング間が2020年までに完成予定。中国側の税関,入国管理事務所,警察署等はすでに完成しており,国際貿易センターも秋には開設予定という。
■計画鉄道路線(Global Times,2014-7-24) /計画道路(Nepali Times,2010-2-12)
この方面には行ったことがないので地図で見るだけだが,それでもトリスリ川沿いの道路はかなり出来ており,中国援助による立派な橋も架けられている。中国の勢いなら,道路,鉄道とも実現は難しくなさそうだ。
そこで心配になるのが,一つは,国境問題。グーグル地図を信用するなら,この付近の道路――たぶん中国建設――は,国境線を縫うように走っている。なぜか国境は川ではない。大丈夫かな?
■ラスワガディ水力発電HP / 国境を縫う道路(Google)
それともう一つ。道路や鉄道が開通し,国際貿易センターが開設されると,ギロングは中国進出の前進基地になるのではないか? ネパールの対中輸出はほとんど増えていないのに,中国の対ネ輸出は年10%以上の急増中。中国人入国者の激増は,前述の通りだ。このような経済的・文化的激変が,インドをも巻き込んだ新たな紛争の種になりはしないか?
日本のような島国ではなく,陸続きの国々では,国境をまたぐ道路や鉄道はありふれたものとはいえ,ネパールは激変であり,少々心配である。
谷川昌幸(C)
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