ネパール評論

ネパール研究会

口を出す英国かカネを出す中国か:ネパール地方選

20年ぶりのネパール地方選(前期)投票が5月14日,3州34郡で実施された。選挙妨害に絡む混乱で死者1,負傷者20名余が出たし,投票箱奪取などもあったが(5月16日現在),全体としてみるとほぼ平穏に実施できたと国家人権委員会は評価している。ちょっと甘い感じもするが,ネパールの過去の選挙と比較すると,そう無茶な評価ではない。

ところが,この地方選(前期)につき,宗主国気分の抜けきらない英国は5月15日,実にイヤミな大使館コメントを発表した。

「5月14日投票をもって開始されたネパール地方選を歓迎する。・・・・しかし,この段階では論評は差し控える。・・・・6月14日[の後期地方選では],すべての関係者が協力し,[民主的選挙に]必要な諸条件を整えることを要望する。後期地方選では,選挙過程を監視し支援できるよう,正規外交官を含む国際社会に無制限の自由な国際選挙監視活動が認められることを期待する。」(在ネ英大使館FB, 2017-05-15)

いうまでもないことだが,選挙は民主主義の核心的権利であり,その自由と自律は最大限尊重されなければならない。もし部外者が要請もないのに選挙を「監視」したりすれば,当事者の自尊心は根底から損なわれてしまう。

このことを実感したのは,2013年制憲議会選挙のとき(*4,5)。選挙見学のため,ある候補の街頭運動にそっとついて歩いた。すると,あちこちに外国人監視員がいて,明らかに上から目線でネパール人行進者を監視し,手元の監視用紙に何やら書き込んでいる。まったくの部外者ながら,地元民に自ずと感情移入してしまっていた私は,自尊心を大いに傷つけられ,ムカッとし,怒りがこみ上げてきた。

投票日になると,投票所にも,国連や外国政府機関あるいはNGOなどが,たいていピカピカの高級外車で乗りつけ,これまた上から目線で地元民の投票を監視する。またまたムカムカッとして,投票見学を切り上げ,安宿に帰って地ビールを飲んだ。

むろん内乱後など例外状況では,選挙監視もやむをえない。しかし,そうでもないのに選挙監視されるのは,国辱以外の何物でもない。逆に言えば,外国監視団に監視される選挙に馴れてしまえば,独立国家の自律的国民としての自尊心は失われてしまい,もはや取り返しがつかないことになってしまう。

今回の選挙にあたって,ネパール政府は,外国援助は受けない,と宣言していた(*1)。時間がかかったとはいえ,制憲議会選挙を実施し,正式憲法を制定したうえでの地方選挙だから,自力による選挙実施は当然の基本方針といえる。ところが,英国大使館は,そのネパール政府の尊厳を,真っ向から否定した。植民地帝国父権主義の習い性が,まだ抜けきらないようだ。

これに対し,中国ははるかに賢明だ。ネパールの地方選に対し,中国政府は百万ドル(1億3千6百万ルピー)の援助を申し出た(*2)。こうした経費支援も選挙支援には違いないが,監視団派遣とは意味合いが全く異なる。

ネパール政府はいつも,“外国は,金はたいして出さないくせに,口は出す”と,怒っている。中国はどうか? もし約束通り選挙経費支援が行われたのなら,中国は“金をだしても口は出さない”姿勢を貫いたことになる。ネパールの政府と国民の自尊心と自立心はそれほど大きくは傷つけられない。

中国が,今後もこのような形の対ネ政策を継続するなら,ネパールにおける中国のプレゼンスはますます拡大していくことになるであろう。

▼2013年制憲議会選挙・選挙監視団(キルティプル)

*1「地方選,5月14日投票
*2 「ネパール地方選を中国援助
*3 「中国のネパール地方選支援,インドが懸念
*4 「制憲議会選挙2013(4):選挙運動観察
*5 「制憲議会選挙2013(15):監視と選挙,銃と票

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/17 @ 16:40