ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

民主主義を教えてくれる? 誰が!

日本政治もネパールで見られていることを,前回,Nikkei Asian Reviewの記事を参照しつつ紹介したが,見られているのは他の先進諸国も同じこと。この点につき,興味深いのが次の記事:
 ▼カナク・マニ・ディクシト「民主主義をネパールに誰が教えてくれるのか?」『ネパリタイムズ』9月22-28日号(*1)

 ■ディクシト・ツイッター(10月2日)

カナック・マニ・ディクシト(कनक मणि दीक्षित)は,著名な言論人にして実業家。国連事務局勤務(1982-1990)の経験もある。ネパールの政治腐敗を早くから厳しく批判してきたが,2016年には,それが理由とされる別件逮捕により投獄され,死の瀬戸際まで追いやられた。これに対し,内外世論は彼を強く支持,結局,彼は釈放され,闘いに勝利した。(逮捕したのは職権乱用委員会[CIAA]。 この事件は利害が錯綜しており,はっきりしない部分もあるが,大筋では以上のよう見てよいであろう。参照 *3-6)

KM・ディクシトの記事は,彼自身のこのような民主主義のための闘いを踏まえて書かれている。要旨は以下の通り。

 ・・・・・<以下要旨>・・・・・
私がもし今も国連で働いており,トランプ大統領演説を聞いたなら,「私は椅子から転げ落ちたに違いない」。

トランプは,広島・長崎に原爆を投下した国の大統領でありながら,得々として何百万人も殺すことになる北朝鮮攻撃を振りかざす。米国はとんでもない人物を大統領としたため,気候変動,飢餓,紛争,不寛容の拡大など,世界が直面する諸問題に対処できなくなっている。

この米国の信用失墜は,在外米公館を困らせている。9月22日,テプリッツ駐ネ大使がリパブリカ紙に「政治の浄化」というタイトルのコメントを寄せ,政治腐敗の根絶を訴えた(*2)。が,虚栄と空虚,短気で無謀,論理のかけらもない自国主権至上主義――そんなものに捉われた大統領を戴く国の大使が,どうしてネパールに腐敗撲滅を説くことができるのか?

 
 ■米大使館FB(9月20日)

腐敗撲滅は正論だが,ネパール人は腐敗に無自覚だなどと思われては困る。ロックマン・シン・カルキに対する勝利,ゴビンダ・KC医師の不屈の闘い,ハリ・バハドル・タパの腐敗告発記事,そして各メディアによる多数の調査報道。腐敗絶滅には,高尚な一般論を唱えていてもダメだ。それは,われわれ自身の経済成長,平等,社会正義に必要不可欠な,われわれ自身の取り組むべき課題だ。「同じく,民主主義が必要なのは,他の民主主義国がネパールに勧めるからではなく,ネパール人自身が,自分たちの理解と経験からそれを善いものと知っているからだ。」

「高尚な哲学の原理原則も,世界に対する優越感ではなく謙虚さをもって,折に触れ語られて悪いことはないが,ネパールには歩む道を教えてやる必要があるなどとは,誰も考えるべきではない。」

「この開発主義後(post-development)世界[脱開発世界]においては,設計図や事業をわれわれに不断に提供し,世界に向けわれわれのことを報告し続けるような『外交-援助者(diplo-donor)』はまずいないだろう。いまやネパールは,自分自身の諸価値に基づき,ネパールの在り方を世界に示さなければならない。ネパールで進行している社会的政治的激変に気づかず,ネパールから学ぶべきを学ばない世界は,そのぶん損をしているのだ。」

「これからはのネパールは,民主主義を褒めたたえるような外交使節らの助言を従順に聞き入れるようなことは,すべきではない。」

「憲法を制定し様々な選挙を実施した今,次に取り組むべき大きな課題は,腐敗なき統治の実現だ。ここぞというときは,そしてまた地政学的状況が結局は良い統治を必要とするなら,利権目当ての政治屋や権力ブローカーがいても,外国の大使にそばに立っていてもらう必要はないだろう。」
 ・・・・・<以上要旨>・・・・・
 
さすが,不屈のリベラル愛国者,カナク・マニ・ディクシト! ネパール政治が,いまなお身内コネ,お友だち忖度で歪められ,利権がはびこっていることは百も承知だが,それでも近年の様々な改革努力を見ようともせず,旧態依然,父権主義丸出しでネパールに介入しようとする先進諸国の尊大な態度には我慢がならない。

ネパールは自らの力で国を造っていく,世界はネパールの経験から学ぶべきだ――これぞ本物の愛国者の矜持ではあるまいか。

*1 Kanak Mani Dixit, “Who teaches us democracy?,” Nepali Times, 22-28 September 2017
*2 Alaina B Teplitz, “Cleaning up government, Republica,” September 20, 2017
*3 カナク・ディグジト氏,CIAAが逮捕
*4 カナク・デクシト氏逮捕報道について:CIAA報道官
*5 デクシト氏釈放を首相に要請,世界新聞協会
*6 カナク・デクシト氏逮捕の事実経過:ヒマールメディア

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/04 @ 17:58