ネパール評論

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八重山諸島:自然の善美と人為の醜悪

八重山諸島に行ってきた。旅行社の企画旅行で自由時間は少なかったが,それでも一通りは楽しめた。竹富島⇒小浜島⇒由布島⇒西表島⇒石垣島。

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 ■珊瑚礁の海(石垣島)/仲良川マングローブ(西表島)

1.自然の善美
八重山諸島は亜熱帯というよりは,むしろ熱帯という感じだ。10月なのに太陽はジリジリ照りつけ,ハイビスカス,ブーゲンビリアなど原色の花々が咲き乱れ,珊瑚礁の海には色鮮やかな熱帯魚が群れ泳ぐ。ジャングルはうっそうと深く,水辺のマングローブはみずみずしく生命力にあふれている。

特筆すべきは,西表の海岸。山々と深いジャングルと広いマングローブのおかげだろうか,珊瑚礁の海は信じられないほど遠浅で,色鮮やか。入り江には細かなサラサラの砂浜が広がり,その陸地側には昼顔のような花や,他の名も知らぬ花々が咲き,蝶々が乱舞している。

まさしく自然は多様で豊かで汚れを知らない。人間にとって,自然は,たしかに美しく善いものだ。考えるまでもなく,誰しもそう直感せざるを得ないから。

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 ■西表島の蝶々

2.人為の醜悪
対照的に,人為は新しければ新しいほど醜悪だ。舗装道路は,本土基準らしく,白ペンキのガードレールに縁取りされ,自然を切り裂き,不自然に走っている。護岸はマングローブ林を分断し,岸壁では海水が浄化されず澱み,ゴミをため始めている。

効率第一のビジネスビルは四角四面に南国の自然空間を破壊し,展望第一のリゾートホテルは自らの売りの自然を自ら破壊して恬として恥じない。自然が豊かであればあるほど,人為の醜悪が目につく。

3.国家支配の不自然
そうした醜悪な人為の最たるものが,不自然な国家支配だ。東京からはるか遠方,台湾のすぐ近くの八重山諸島が,なぜ東京の日本政府の支配を受けなければならないのか?

今回はお定まりの観光旅行のため歴史見学は全くなかったが,八重山諸島が日本軍国主義の残酷無慈悲な支配の犠牲にされたことは,周知の事実だ。本土防衛のため,島民たちは住居も田畑・家畜も奪われ,着の身着のままジャングルに追われ,マラリヤや飢餓で多数が死亡した。理不尽で不自然,醜悪この上ない。

しかも,これは,すでに過ぎ去った過去の話ではない。八重山諸島は南方の国境近くの島々であり,また再び,同じような手前勝手な理屈で,日本国家防衛の最前線に立たされようとしている。

東京の日本政府は,尖閣問題を口実に「島嶼作戦」「離島奪還作戦」を練り,この4月には与那国島で陸自基地建設に着手し,さらに石垣島にも陸自基地を新設しようとしている。海上自衛隊はすでに軍艦を石垣港に寄港させ始めた。

東京から見れば,はるか彼方のちっぽけな八重山諸島など,所詮,本土防衛のための「捨て石」にすぎない。それが国家主権を命とする近代国家の習性であり本質だ。八重山諸島に軍隊が置かれれば,攻撃対象となり,有事には住民はまた捨てられる。

4.二つの自然の豊かさ
八重山諸島には,どこに行っても老若男女の旅行者があふれていた。クルーズ船で訪れる外国人客も多い。さらに,本土から移住してくる若者さえも少なくないという。ここには,世界有数の豊かな二つの自然が,すなわち海と空と陸の第一の自然と,多様な地域文化としての第二の自然が,あるからだ。

八重山諸島は,もしこれら二つの自然を守り育て持続可能な仕方で有効活用を図るならば,経済的にも十分豊かになり得るのではないだろうか。極東の東のはての東京よりも,世界の成長センターの中心近くに位置する八重山諸島の方が,いまや,はるかに地の利に恵まれているからである。

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 ■竹富島の民家/西表島の浜辺の花

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 ■川平湾(石垣島)/満車の旅行者駐車場(川平湾)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/05 at 17:47

中印覇権競争とプラチャンダ外交(2)

2.中印の覇権競争
ネパールを挟んで対峙する中国とインドが,すでに世界の大国であることはいうまでもない。21世紀は,超大国中印の時代となるであろう。

先に高度経済成長を始めた中国は,いま尖閣,南沙諸島など,あちこちで大国主義的ナショナリズム攻勢に出ているが,これは中印国境においても例外ではない。その一つが,カシミール東部。

日本メディアの報道では,4月15日,中国兵約50人が、突然,カシミール東部の中印実効支配境界線から侵入,約10kmインド側に入ったところにテントを張り,標識を設置した。これに対し,インド側もそこから300mのところに兵を進め,野営地を設置し,にらみ合っている。

しかし,この日本報道は,少し不自然であり,事実に反するようだ。いかな中国といえども,何の口実もなしに兵を進めたりはしない。尖閣の場合も,島購入などを仕掛けたのは石原東京都知事であり,結局,民主党政府が尖閣を国有化した。中国側の警告を無視し,先に大きく現状変更をしたのは日本であり,中国側はそれを絶好の口実に対抗措置――いささか過剰だが――をとっていると見るべきであろう。カシミールでも,先にインド側が不用意に国境付近で兵力増強やインフラ整備などに着手,これに中国側が対抗措置を執ったということのようだ(People’s Review, May1)。

ただし,中国側の大国主義的攻勢は事実としても,国境紛争などの場合,たいていどちらにもそれなりの言い分があり,明快な白黒判定は難しい。できるだけ口実を与えず,それでも紛争となった場合には,相手の意図を慎重に探り妥協により実利をとるのが,現実的である。カシミールにおける中印も,痛み分けで,結局,5月5日夜,両国の実効支配線内に兵を撤収した。

いずれにせよ,中印はいたるところで覇権競争を激化させており,その主戦場の一つとなりつつあるのが,両国に挟まれたネパールなのである。

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 ■南アジアの国境紛争(The Economist, Feb8,2012)

3.中国のネパール進出
ネパールは,伝統的にインド勢力圏内にあり,中国もこれまでは基本的にそれを認めてきた。

ところが,この数年,中国の対ネ政策は積極的な影響力の行使へと,大きく変化してきた。政治家など有力者や要人を次々と中国に招待し,学生多数を留学させる一方,ネパール国内でも孔子学院を展開し,中国フェアなども大々的に開催している。いたるところに中国商品があふれ,あちこちで中国企業がビルやインフラ建設を進めている。すでに中国語は,英語の次に学びたい人気言語になっており,日本語などもはや相手にもされない。

この中国のネパール進出に,インドは神経をとがらせている。産経(5月1日)によれば,ネパール各地の放送局が反インドやチベット亡命者批判の番組を放送し始めたため,インド政府は高出力放送局を設置し対抗せざるをえない事態になっているという。

中印どちらにも言い分はあろうが,全体的に見ると,ネパールにおける中印関係の現状を変えつつあるのは,やはり昇竜,中国である。

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 ■「反印キャンペーン」(India Today, Nov27,2012)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/05/08 at 10:50

「美しい国」と「国益」,あるいは「ロマン」と「実益」

一昨日,愛国心に自己陶酔し,超国家主義に先祖返りすると,アメリカにも見放され,戦前のように世界で孤立し,再び破滅に向かって転落しかねないと警告したが,それが単なる杞憂ではないと感じさせるような本が出版されている。まだ手元になく読んではいないが,書評がいくつか出ているので,以下に紹介する。

●Thomas U. Berger, War, Guilt, and World Politics After World War II, Cambridge University Press, 2012.
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1.Foreign Affairs書評(May/June 2013 ,Twitter Apr26)
「ドイツは,最も残虐非道な国家行為を行ったが,自己のその負の過去を公的に徹底的に語ることにより,深い悔悟を幾度も公的に表明してきた。これに対し,日本は,自分を加害者でもあり被害者でもあると見ようとしてきた。」
(http://www.foreignaffairs.com/articles/139227/thomas-u-berger/war-guilt-and-world-politics-after-world-war-ii)

2.Time「著者Q&A:日本が今なお十分謝罪しないのはなぜか」(Dec11,2012)
「注意深い観察者であれば,よく知っていることだが,近隣諸国との日本の醜い領土争いは,実際には,漁場や石油,あるいはガス田や古来の歴史的要求をめぐるものではない。日本が固執するのは,第二次世界大戦や長期にわたるアジア植民地支配において,日本人は何も悪いことはしなかったということを,まだ――そう,まだ――認めるつもりはない,ということだ。

これは,近隣諸国がそう見ているということ。そして,これこそが,ちっぽけな小島をめぐる中国や韓国との争いを,いまにも衝突を招きかねない危険なものとしてしまった理由である。・・・・

本書において,著者は,日本が過去の過ちを認めていないと見られているのはなぜか,その理由を解明している。1945年まで続いた日本の半世紀に及ぶ戦争と植民地支配により,2千万人もの人々が死に,おびただしい人々が支配・抑圧されたのである。」
(http://nation.time.com/2012/12/11/why-japan-is-still-not-sorry-enough/)

著者のトマス・U・バーガー氏はボストン大学准教授であり,本書もきわもの時局本ではない。知日派と思われる著者が,このような本を書かねばならないような事態に,日本は立ち至っているのである。

3.先祖返り「ロマン」と実利的「国益」
現代がグローバル化時代であることは,誰もが認める常識。そのグローバル化時代に,近隣関係をぶち壊し,アメリカにも軽蔑され,世界社会での孤立を招くような愚行に,なぜ突き進むのか? 復古ナショナリストのお題目たる「国益」を害しているのは,いわゆる「平和ぼけ」の平和主義者ではなく,まさに彼ら,ロマンチックな懐古趣味ナショナリストらだ。

そもそも尖閣でドンパチやっても,日本に勝ち目はない。イザとなったら,アメリカは日本を切る。先祖返りはアメリカへの裏切りだし,ちっぽけな日本よりも巨大中国をとるのは当然だからだ。中国は,現実主義という点でアメリカと同類。日本のロマンは理解不能だが,同類の中国とは,現実主義的「実利」で「実務的」に理解し妥協しうる。

日本は,夢見るロマンチストであり,理解不能の神秘の国。それでも,霞を食って生きる覚悟があれば細々と生きられるかもしれないが,それはイヤ,俗臭ぷんぷん,贅沢三昧浪費生活を続けようとする。破綻必定。

ロマンチックな「美しい国」たらんと欲するなら,鎖国せよ。いやなら,世界社会の中で常識をわきまえて行動する「実務的」な国家となれ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/04/27 at 13:19

タメルの中国書店、尖閣特集号平積み特売

タメル繁華街のど真ん中に、数年前、中国書店が開店した。以前にも紹介したが、不思議な書店で、店員さんはネパール人だが、商売気はまるでない。かつての中国公営売店そっくりの雰囲気。

そのタメルの中国書店に、11月中旬に行ってみたら、釣魚島(魚釣島)問題を特集した『Beijing Review(北京週報)』が入口の棚に大量に平積みされていた。8月30日号だから、かなり前のものだが、特別扱いである。一冊購入した。

釣魚島特集を読んでみると、思いの外、記事は「冷静」であり論理的だ。中国以外の人々でも、この記事を読めば、中国の主張の方に理があると感じるかもしれない。それほど一見「客観的」に記述されている。

しかし、それはそれとして、この『北京週報』が外人観光客でごった返すタメルのど真ん中の書店に平積みされ販売されているのは、政治的に見て、なかなか興味深い事実である。タメル滞在外人は、日本人を除き、たいてい暇人である。暇をもてあましている。その外人が、日中領土紛争の表紙につられ、この週刊誌を買い、暇つぶしに読む可能性は大いにある。そして、読めば、その多くが、大日本帝国のおぞましい中国侵略を思い起こし、中国の釣魚島返還要求にも共感するであろう。

中国は超大国であり、情報戦略にも長けている。対照的に、 日本の国粋主義者らは昔も今も内弁慶であり、国外で日本への支持を広げる地道な努力をしようともしないし、できもしない。ただただ国内向けに勇ましいことを言いつのるのみ。自家中毒だ。そして、彼らが 内弁慶国粋主義に傾けば傾くほど、中国や韓国、あるいはロシアにも、世界の同情は向かう。

国内にむけ「固有の領土」を叫ぶ暇があったら、たとえばネパールの書店に商売抜きで英語版日本週刊誌でも並べる努力をしてみてはいかがであろうか。ただし、記事は少なくとも『北京週報』レベルの水準のものでなければ、逆効果であろうが。

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 ■8月30日号表紙/特集内掲載地図(12頁)

中国書店

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/12/11 at 23:28

カテゴリー: 外交, 中国

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ガバナンス崩壊: ネパールと日本

ネパールのガバナンス(統治)はアナーキー状態。ここまで来ると喜劇的であり,諸外国もそれを想定して交際しているから,害も少ない。国連にUNMIN派遣を要請したくせに,役立たずだから帰れ,と要求する。あるいは,プラチャンダ議長は,「PLAはせいぜい数千人。UNMINには3万人と吹っ掛け,21,602人を認めさせた。どうだ,スゴイだろう」と暴露し,あっけらかんとしている。とんでもないことなのに,みな,そんなもんだよ,と認めている。ネパール人は,天性のネアカなのだ。

これに対し,日本のガバナンス崩壊はジメジメ惨め。10月29日,警察のマル秘テロ情報が大量にネットに流出したと思ったら,今度は4日,尖閣沖の中国船衝突事件の動画がネットに流出した。ガバナンスぼろぼろ。しかも,その対応が実に陰気。ネパール式,プラチャンダ流に,あっれ,出ちゃった,ゴメンネとやれば,楽しめるが,日本の関係者は沈痛そのもの,陰気くさくてたまらん。これでは,事態はますます悪化するばかりだ。

日本の没落については,すでに何回も指摘した。このガバナンス崩壊もその一つだが,ここでもう一つ注目すべきは,日本のHDI(人間開発指数)の下落――

▼HDI(2005年):日本=11位

ついに日本はここまで落ちぶれた。5年後の現在はもっと下落しているだろう。しかし,どうせ落ちるなら,楽しくやろう。情報じゃじゃ漏れ,日本に機密なし。大いに結構。HDI世界11位。それがどうした。清貧こそ日本の伝統だ。それがイヤなら,「長屋の花見」でも楽しもうではないか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/11/05 at 20:28

カテゴリー: 情報 IT, 政治

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