ネパール評論

ネパール研究会

Archive for 2月 2014

NC=UML連立内閣成立

スシル・コイララ首相が2月25日,新たに18大臣を任命し,内閣の大枠を固めた。
 ▼コングレス党(NC):10名(コイララ派6,デウバ派4)
         首相=スシル・コイララ,副首相=PM・シン
 ▼統一共産党(CPN-UML):10名(オーリ派5,カナル派3,ゴータム派1)
         副首相兼内相=BD・ゴータム  *入閣10名のうち非議員6

第3党のマオイスト(UCPN-M)は,いまのところ入閣せず,野党を選択。今後,国民民主党(RPP),共産党ML派などが入閣するかもしれないが,事実上,コイララ内閣はNC=UML連立といってよいだろう。

この体制で1年以内に新憲法が制定できるか? それは,マオイストとマデシの出方にかかっている。プラチャンダのUCPN-MとバイダのCPN-Mが再統合し,マデシとも連携し,反政府闘争を強化していくと,新憲法の制定は難しくなる。一方,暫定憲法体制7年間で,情勢は大きく変化しており,もはや以前のような実力闘争の再開もまた難しいであろう。いまのところ,いずれ向かうか,まだはっきりしない。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/26 at 13:49

京都の米軍基地(32):捨て石としての沖縄・グアム・京丹後

京丹後・経ヶ岬へのXバンドレーダー配備が,米軍再編,特に沖縄海兵隊グアム移転と連動していることはいうまでもない。京丹後は,米国の対中「封じ込め」監視戦略の中にガッチリ組み込まれてしまった。

中山市長が,いくらお得意のお念仏,日本「国益」を唱えようが,米国はそんなものは馬耳東風,蚊の鳴声ですらない。丹後の命運は,米軍基地受け入れにより米国の手中に落ちてしまったのだ。

1.中国・北朝鮮監視のためのXバンドレーダー網
米国は,中国・北朝鮮監視のため,東南アジアにXバンドレーダー網を構築する。ウォールストリートジャーナル(2012年8月23日)によると,Xバンドレーダー設置は,車力(既設),京丹後(建設中),そしてフィリピンの予定。きれいにな中国監視網だ。

こうした戦略に基づき,2012年9月17日には,パネッタ国防長官が訪日し,日本側とXバンドレーダー配備について協議した。設置目的は,抵抗の少ない北朝鮮ミサイルからの防衛とされた。

2013年2月には安倍首相が訪米し,日米首脳会談(22日)において重要な合意を交わした。
 ・オバマ大統領の訪日
 ・集団的自衛権の検討
 ・ガイドラインの見直し
 ・米軍再編促進と沖縄負担の軽減
 ・宇宙・サーバー分野での協力
 ・Xバンドレーダーの配備
 「両首脳は,北朝鮮の核・ミサイル活動も踏まえ,弾道ミサイル防衛協力を進め,米軍のTPY-2レーダーを我が国に追加配備する方針で一致した。」(日米首脳会談(概要)

京都の米軍基地は,安倍訪米の手土産の一つだったのだ。以下,事態は次のように展開する。
▼2013年3月4日:ヘーゲル国防長官が,北朝鮮の脅威に対抗するため,グアムに最新鋭迎撃ミサイルシステムを配備すると発表。
▼2013年3月21日:朝鮮人民軍最高司令部,グアム米軍基地は北朝鮮の「精密照準爆撃の射程内にある」と発表(CNN)。
▼2013年12月19日:米上院,在沖海兵隊グアム移転費8600万ドル,Xバンドレーダー京丹後設置費1500万ドル可決。ちなみに,海兵隊グアム移転総経費86億ドル,そのうち日本負担28億ドル。

このように,Xバンドレーダーの京丹後配備は,大きくは米軍の対中戦略の一環であり,より直接的には在沖海兵隊移転先グアム基地の北朝鮮ミサイルからの防衛が主目的である。

以前にも述べたように,当初日本側は,Xバンドレーダーの対馬か佐賀県内への設置を希望した。しかし,これでは位置的にグアム・ハワイ防衛には適さないので,米側は能登半島か丹後半島を要求した。AFPはじめ多くの通信社が,米政府筋の情報として,「Xバンドレーダー配備地は,グアムやハワイに向かう北朝鮮ミサイルは日本の西部または中部を飛ぶと想定されるので,そこ(京丹後)が選定された」と伝えている。京丹後・経ヶ岬のXバンドレーダーは,グアム・ハワイ米軍基地の防衛を,当面の主目的としている。

これは,米軍にとっては,最も合理的な選択だ。在沖海兵隊が移動し,ますます重要性を増すグアム基地。もし仮に北朝鮮がグアム基地攻撃を試みるなら,真っ先に経ヶ岬Xバンドレーダー基地を攻撃する。この攻撃情報は瞬時にグアム基地に届くであろうから,米軍には迎撃のための幾ばくかの時間的余裕ができる。いかにも米国らしい冷徹な合理的計算。京丹後は米国の弾よけ,捨て石。日本「国益」のためですらない。「米国益」のための滅私奉公なのだ。

というわけで,沖縄海兵隊の移転先(沖縄負担の押しつけ先)にして京丹後の滅私奉公先たるグアム米軍基地を見に行ってきた。

140225a■グアム移転概要(2012年4月「2+2」共同発表)

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 ■グアム基地(宜野湾市「グアム米軍基地視察報告」2007年8月13日)

2.軍事基地用「植民地」としてのグアム
グアムは近い。3時間余で着く。淡路島くらいの小さな島で,人口約17万人。チャモロ人37%,フィリピン系26%,他のアジア系11%,白人7%(2013年)。そのうち,約10%(1万7千人)が米軍関係者。

グアムは,政治的には,米国の「未編入領土(Unincorporated Territory)」。自治政府をもつが,米国大統領の選挙権も米国議会での議決権もない。「準州」などとも呼ばれるが,事実上,植民地である。

産業は,観光約7割,基地関係約3割。失業率12-13%。通貨は米ドル。物価は,地元住民向けスーパーでも非常に高い。公用語は英語とチャモロ語。

島の約1/3が米軍基地。特に平地は米軍が使用している。また,良港は海軍が使用。アメリカは土地収用の権利を持つ。沖縄と比べても,米軍基地負担ははるかに重い。

140225c■グアム紋章

3.自然破壊
グアムに着いて,まず驚いたのは,あまりにもすさまじい自然破壊。南太平洋の珊瑚礁に囲まれた小島であり,本来なら南海の美しい別天地のはずだ。ところが,めぼしい海岸や丘の上は,観光資本により乱開発され,見てくれだけの安普請ホテルや張りぼてリゾート施設が林立している。街中は,いかにもといった土産物店や飲食店ばかり。お人好し某国観光客からぼったくり,稼ぐだけ稼いだら,ハイさようなら,醜い廃虚を残して撤退するつもりだろう。

140225i■乱開発リゾート地(2014-1-30)

4.文化破壊
文化破壊もすさまじい。16世紀半ば,スペインが植民地とし,伝統的チャロモ文化を弾圧し,カトリック布教を強行した。19世紀末,米西戦争で勝利したアメリカがスペインに取って代わった。アメリカは,チャロモ語辞書を焚書にし,チャロモ語使用を処罰をもって禁止した。太平洋戦争が始まると,日本軍の侵略を受け,グアムは「大宮島」と改名され,米軍に奪還されるまで日本軍国支配下に置かれた。

文化は奥深いものであり,よそ者一見客には本当のところはすぐには分からないが,少なくとも見た限りでは,はっきりそれと分かる生活の場における伝統文化は見当たらなかった。

140225h■大砲と十字架(2014-1-29)

5.天皇制国家と横井さんの平凡の悲惨
グアムに行って次に衝撃を受けたのは,横井庄一さんの,あまりにも悲惨な地下壕潜伏生活。横井さんは戦死とされ,靖国神社に祀られたが,実際には,島南部の小川(タロホホ川)上流域に地下壕を掘り,1972年に発見されるまで28年間も隠れ住んでいた。

これが筆舌に尽くしがたいほど悲惨なのは,万事すべてが平凡であって,どこを見ても劇的・英雄的ではないこと。横井さんの地下壕付近は,遠望で見る限り,うっそうたるジャングルではない。小高い山や丘に灌木や草が生え,小川が流れているだけ。近くには村もある。ごくごくありふれた平凡な土地。

人跡未踏のジャングルなら,あるいは深山幽谷や絶海の孤島なら,それだけで劇的,英雄的たりうる。ところが,タロホホ川付近は,ごくありふれた土地。そんな平々凡々たる土地に,横井さんは28年間も地下壕で隠れ住んでいた。

お国のため,神国「国益」のために戦った兵士をこのような惨めな生活に追い込む天皇制国家,日本軍国主義のあまりの非情,残酷さ。横井さんは,平凡に徹したからこそ,28年間も隠れ住むことができた。その意味で,つまり平凡に徹しえたという意味で横井さんは非凡であったが,それは非人間的非凡を強いた日本軍国主義の免責にも,ましてやその顕彰にも利用されるべきでは,断じてない。

横井さんの地下壕生活それ自体は平凡であり,したがって観光資源になるはずもないが,なんと驚くなかれ横井さんの地下壕から少し離れたところのテーマパーク(タロホホの滝)に「横井洞穴(Yokoi Cave)」がつくられ,観光名所となっている。むろんニセモノだが,そのあまりの安易,軽薄に涙せざるをえなかった。

しかも,横井さんの28年間の隠れ家地下壕生活については,その非人間的平凡さへの強制をこそ直視すべきなのに,それをせず,国家のために戦い抜いた英雄としての利用があちこちに見られる。商売目的であれ政治目的であれ,そのような横井さんの利用は,彼の人間としての尊厳を根底から否定するものといわざるをえない。

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 ■「横井洞穴」付近(Google)/「横井洞穴」/同左説明版(2014-1-30)

6.住民監視の米軍基地
そして,最後に,米軍基地の不気味さ。島内一周観光バスは,「横井洞穴」から北部の「南太平洋戦没慰霊記念公園」に向かう。

この「公園」近くは,広大な米軍基地だが,バスはむろん公道を走り,樹林帯の向こうの基地はまったく見えない。近くには巨大スーパーや様々な事業所もあり,多くの車が走っている。一見,ごく普通の街。その風景を見ながら,女性ガイドさんが恐ろしい体験を話してくれた。

もう何年も前のことだそうだが,ガイドさんがその付近を通ったとき,何気なく写真を撮ったら,米兵がすっ飛んできて,あっという間にカメラを取り上げられ,取り調べを受けたのだそうだ。ガイドさんによると,その付近には,信号機の横など,あちこちに監視カメラがあり,常時監視されているのだという。それを聞き,周辺を見回したが,「撮影禁止」とか「監視カメラ作動中」といった標識は,どこにも見当たらなかった。おそらく住民にとっては常識であり,自己規制が習い性となっているのだろう。

「見られないで見る」,これこそ監視の極意であり常道。巨大な基地の島グアムでは,常時監視されていると考えた方がよいだろう。グアム入管では,両手の指紋を入念に,徹底的に採取される。監視カメラと顔識別装置などにパスポート情報,指紋などを組み合わせれば,島内での人々の動きはすべて把握できる。スッポンポンで街を歩き回っているようなもの。

140225d■アンダーセン基地とリゾート地(左下)(Google)

7.京丹後も監視社会に
経ヶ岬に米軍基地ができたら,京丹後もグアムのような監視社会にされてしまうだろう。経ヶ岬は丹後半島の先端にある。ここに通ずる道路は,国道1本のみ。東と西の道路のどこかに監視カメラを設置すれば,通行人の監視は容易。監視カメラで撮影したナンバープレートや顔写真を,文字読み取り機や顔識別装置で分析し他の個人情報と自動照合すれば,その人物が何者か瞬時に識別できる。

むろん,よそ者(stranger)や要注意人物を割り出すには,付近住民すべての情報が必要だから,住民の個人情報は,ことごとく収集され,日々,更新されると考えるべきだろう。というよりもむしろ,そのような作業はすでに着手されていると覚悟すべきかもしれない。

8.「国益」呪文の危険性
グアムの米軍は,グアム住民を守るため,広大な土地や良港を占拠し駐留しているわけではない。軍事基地さえなければ,北朝鮮がグアムを攻撃目標にすることは絶対にない。これは自明の理。同様に,沖縄米軍が,沖縄の人々を守るために,沖縄に駐留しているわけでもない。これも自明の理。とすれば,当然,経ヶ岬に進駐する米軍が,京丹後の人々を守ることを目的としていないことも,自明の理。

中山市長の「国益」は,この自明の理を住民に見せないための呪文にすぎない。それは,イワシの頭と大差ない代物だが,いったんかかってしまうと,一巻の終わり。京丹後がはるか彼方のワシントンや東京の捨て石となり滅私奉公するのが,京丹後の当然の義務であり誇りである,と感じられるようになってしまう。

振り込め詐欺より悪質だ。「国益」の呪文には,いくら巧妙にはやし立てられようとも,いっさい耳を貸さないのが賢明だ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/25 at 21:03

中国は軍事援助,インドは鉄道建設

中印が,ネパールに対し,援助合戦を繰り広げている。

1.中国の軍事援助
2月21日,中国人民解放軍の王冠中(Wan Guanzhong)副総参謀長が,コイララ首相,SBJ・ラナ国軍総参謀長を訪問し,中ネ軍事協力の拡大で合意した。すでに援助が決まっていた国軍向け野戦病院2セット(8億2千万ルピー)は,まもなくカトマンズに到着する。今回,中国側は,来年度の軍事援助(国軍支援)として5億ルピーを提示した。
140222a ■王副総参謀長(military.people.com.cn)

2.インドの鉄道建設援助
一方,インドは2月21日,大使館が印ネ鉄道建設協力の進捗を発表した。発表によれば,インド大使館員と,ネパール建設交通省事務局長,Ircon International(印建設会社)代表とが会合を持ち,印ネ鉄道の建設促進について協議した。それによれば,
 (1)ジョグバニ-ビラトナガル
   進捗状況:インド側68%完成,ネパール側20%完成
 (2)ジェイナガル-バルディバス
   進捗状況:軌道敷,駅舎,鉄橋などの建設中。
今後,ネパール側が鉄道用地の取得を進め,これをIrcon Internationalに引き渡すよう努力することになった。

140222b ■Ircon International

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 ■ジョグバニ-ビラトナガル/ジェイナガル-バルディバス(Google)

中印二大国の援助合戦激化で,ネパール政治の舵取りは,これから先,ますます難しくなりそうだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/22 at 20:15

カテゴリー: インド, 軍事, 中国

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制憲議会選挙2013(37):指名議席争奪

制憲議会議長と首相が選出されたので,いま最大の課題となっているのは,先述の大臣ポストの配分と,最後に残った内閣指名26議席の選考。

このうち26議席の配分方法は,外から見ていると,なにがなにやら,まったく分からない。新聞報道では,どうやら各党ボスのコネ選考らしく,その筋目当てに各種圧力団体が猛然と圧力をかけているそうだ。

大義名分は,もちろん包摂参加。1月初め時点での社会集団別議席配分は,次の通り(Republica, 4 Jan)。

          第一次制憲議会第二次制憲議会
女性・・・・・・・・・・・・ 197 / 172
障害者・・・・・・・・・・  3 /   0
性的少数派・・・・・・  1 /   0
ダリット・・・・・・・・・・   50 / 40
ジャナジャーティ・・  218 / 183

女性団体は,女性議員は前回は憲法規定通り1/3だったのに,今回は規定数に達していないとして,指名議席の半分(13)を女性とせよ,と要求している。

障害者団体や性的少数派は,議席ゼロとなったので,自分たちに優先的に議席を割当よ,と要求している。包摂参加は憲法原則なので,彼らの主張にはもっともな根拠があるわけだ。

このようなクォータ制(比例割当)は,諸集団の公平な政治・社会参加の推進には顕著な即効的効果を持つ。たとえば,女性議員33%は,おそらくアジアNo.1であり,日本など足下にも及ばない。性的少数派も,議会に代表を出したこともあって,「第三の性」を公認させ,次は「同性婚」の早急な法制化を要求している。

民主主義制度でも法制度でも,日本はアジアの先進国というのは,もはや何の根拠もない幻想にすぎない。21世紀の民主主義と人権の観点からは,日本はアジアの後進国である。

が,それは認めるとしても,クォータ制的包摂参加に別の問題があることもまた事実である。いうまでもなく,アイデンティティ政治の危険性であり,あるいは少数派の中の少数派の権利の問題などである。そもそも,「制憲議会選挙令」で認められている複数アイデンティティ(複数社会集団帰属)の問題は,今回の選挙において,いったいどのように扱われたのだろう? わけが分からない。

それはともかく,ネパール政治は,大いなる実験政治。そこから日本が学ぶべきことは,少なくない。もはや民主化支援・人権支援など,おこがましい。
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■「ミスター&ミス第三の性2010」/デモ行進(Blue Diamond Society

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/21 at 11:31

制憲議会,ネバン議長選出

制憲議会は2月18日,統一共産党(CPN-UML)議員のスバシ・チャンドラ・ネバン(सुवास चन्द्र नेम्बाङ्ग)を議長に選出した。第1次制憲議会でも議長であったので,間にSB・タパ暫定議長を挟むが,事実上,再選。

議長選では,NC=UML「7項目合意」で首相ポストの見返りとして議長ポストをUMLに約束したコングレス党(NC)が賛成し,他党は,批判しつつも対立候補は立てなかった。無投票当選。

これは,一見,NC=UML連立政権の成立のように見えるが,実際には,まだ何とも言えない。なぜなら,UMLは,NCが制憲議会議長だけでなく副首相と内務大臣もUMLに渡すと約束したとして,その実行を迫っているからだ。NCはそのような約束はなく,内相は絶対に渡さないといっており,どう決着するか,まだわからない。

ネバン議長は1953年生まれ。リンブー民族出身。弁護士。イラム2区選出UML議員。代議院議員,代議院議長,第1次制憲議会議長など歴任。

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 ■超巨大議会(CA-HP)。陣笠にはオペラグラス必須。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/19 at 15:10

カテゴリー: 選挙, 議会, 憲法

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因襲の衣服とミスコン

ネパールは,いまやジェンダー解放超先進国,日本など足下にも及ばない。ミスコンでは女性が,政治では「第三の性」が,はばかることなく自由と権利を謳歌している。

1.ミスネパール2014
ネパールは,これまで幾度か紹介してきたように,ミスコン大国。今年も,にぎにぎしく「ミスネパール2014」が開催される。わがホンダも,ベスト・ポジションに広告を出している。主要スポンサーの一つだろう。

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2.因襲の衣服とミスコン
ミスコンでは,多かれ少なかれ,衣服を脱ぐ。ミスネパールも例外ではなく,ネットにはミスネパールの裸同然のビキニ姿があふれている。たとえミスコン本番ではそれほど露骨ではなくても,選ばれた「ミス」には裸が期待され,その期待に多くの「ミス」がこたえているのだろう。

衣服は,たしかに因襲的拘束の象徴であり,それを脱ぎ捨て自然に帰るのは,女の解放である。原始,女は裸であった。古くさい因襲は,そこにはない。

3.脱がせるミスコン
しかし,どうも胡散臭い。ミスコンの目的は,建前としては,たとえば「諸々の因襲から女性を解放し,若い女性の潜在能力を引き出し,彼女らの未来を切り開くこと」とされている(The Hidden Treasure 会長挨拶)。

たしかに,十重二十重に着せられた因襲の衣服を脱ぐのだから,ミスコンは女の解放にはちがいないが,もし「脱ぐ」のではなく「脱がせる」のであれば,どこかいやらしく,ヒワイだ。

4.女性搾取の近代化
ミスコンは,いかに建前がご立派でも,ヒワイを隠しきれないのは,それが女性搾取の近代化に他ならないからだ。女性搾取の手段が経済外強制から経済的強制に替わっただけ。ミスコンで女の品定めをしているのは,結局,男たちである。女の「美しさ」は,経済的強者たる勝ち組男たちのもつ女性評価基準にすぎない。

5.ミスコンの「不都合な真実」
このミスコンの「不都合な真実」は,ネパールでは,初期マオイストが,はっきり見抜いていた。だから彼らは,女性解放のためミスコン粉砕を叫び,ミスコンを開かせなかった。初期マオイストは,純粋であった。

ところが,いまでは伝統社会の側も「革命」の側も,ミスコン反対の声をあげようとはしない。ネパールは,いまやミスコン天国。因襲の衣服が厚ければ厚いほど,男にとっては,脱がせがいがあろうというものだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/18 at 17:23

京都の米軍基地(31):MBS「見えない基地」再放送を

毎日放送(MBS)「見えない基地~京丹後・米軍レーダー計画を追う」(2014年1月19日放送)を録画で見た。関係者や地域社会への細心の配慮をしつつも,問題の本質に多角的観点から肉迫していく。本格的ドキュメンタリーの傑作といってよいだろう。

番組の制作意図と概略は,MBSホームページ「取材ディレクターより」に簡潔に述べられているので,ご覧いただきたい。なお,MBSにはラジオ番組「どこへ行く自衛隊」(2013-11-10)もある。

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 ■MBS「見えない基地」/MBS「どこへ行く自衛隊」

1.地域分断
このドキュメンタリは,それ自体,決して難解なものではないが,扱われている主題は,複雑で重苦しく,難しい。

過疎の村,京丹後市宇川に,昨年早春,突然,米軍Xバンドレーダー基地建設が告げられる。そして,地元住民に対しては,説明らしい説明をせぬまま,一方的に,強引に基地建設計画が進められていく。

その過程で,衝撃的であったのは,やはり地域社会の分断である。原発とまったく同じ構造。権力による脅しや,カネによる直接的・間接的懐柔で,たちまち地域社会は分断され,隣近所はおろか家族ですらいがみ合い争う。過疎とはいえ,美しく平和であった地域社会が,猜疑と憎悪の底なし沼に引きずり込まれつつある。

もはや丹後は元へは戻れまい。表立っては怒るに怒れない忍従,救われようもない重苦しさと悲哀。

2.「国益」優先の市長
ところが,驚くべきことに,地元・京丹後市の中山市長は,当初から一貫して,地元住民ではなく,はるか海の向こうのアメリカや山の彼方の東京(政府・防衛省)に,目を向けてきた。いかにも総務庁-内閣府出身,上意下達の官僚主義的役人根性が抜けないらしい。

MBSは,むろん,この中山市長の卑屈な役人根性を見逃しはしない。番組では,中山市長が「住民益」「市民益」ではなく,「国益」を引き合いに出す場面を,いやらしいまでにリアルに描写している。

「国益」とは,要するに「お国のために」「滅私奉公」ということ。憲法第92条「地方自治の本旨」を無視し,地元の住民・市民ではなく国家権力の側に立つ中山市長! MBSは,そんな無様な,卑屈な場面を撮りたくはなかったにちがいない。しかし,そこはドキュメンタリーのMBS,心を鬼にし,涙を呑んで,カメラを回した。MBSの覚悟,プロ根性が偲ばれる迫真の画面からは,保身のため住民を売り渡した中山市長の虚勢とオドオドした内心が透けて見て取れる。

140216b ■MBS取材にこたえる中山市長

3.車力基地の実情
番組では,Xバンドレーダー基地ができたらどうなるかを見るため,つがる市の車力基地を取材している。この部分を見ると,防衛省や,その下請け・中山市長の説明がいかに無責任かが,よくわかる。

車力米軍基地は軍事機密,ピリピリした厳戒態勢下にある。こんなものに不用意に近づいたり写真でも撮ろうものなら,しょっ引かれたり,下手をするとテロリストかスパイとみなされ,射殺されるかもしれない。相手は「治外法権」の米軍。何をされるか分からない。

また,米軍関係者の犯罪や交通事故も少なくない。さらに,補助金漬けについては,余計なコメントはつけず,淡々と事実だけを描いているが,それだけにかえって,考えさせられ胸にこたえる。

4.「見えない基地」の再放送を
この番組「見えない基地」は,同局の「映像’14」シリーズの一つだ。「映像’14」は関西地域放送番組だが,レベルの高いドキュメンタリーで知られている。「見えない基地」も秀作。

しかし,残念なことに,この番組は日曜日の深夜(24:50~25:50)に放送された。見逃した人も少なくなかろう。実に,惜しい。何とかならないか。

手っ取り早いのは,録画番組をネットで公開するという手。たとえばーー
 ▼LunaticEclipseYokosu「見えない基地」YouTube
しかし,これは海賊版ではないか? もしそうだとすると,権利を守るための闘いが権利侵害を犯すことになってしまう。

やはり,一番望ましいのは,制作した毎日放送自身が,もう少し見やすい時間に再放送したり,ネットで公開することだ。有料でもよい。これほど優れたドキュメンタリーなら,料金を払ってもみたいと思う人も少なくないはず。ぜひ検討していただきたい。

5.特定秘密保護法の恐怖
蛇足ながら最後に一言,特定秘密保護法との関係について。周知のように,特定秘密保護法はすでに成立し,年内には施行される。

この特定秘密保護法が施行されると,おそらくMBS「見えない基地」のような番組は制作できないであろう。あるいは,それどころか,地元民や観光客がうっかり写真を撮っても,「おい,こら!」と,しょっ引かれる恐れがある。そんなことはない,と政府やその出先機関の市長は反論するかもしれないが,危ないと思わせるだけでも,威嚇効果は十分なのだ。

MBS「見えない基地」の描く車力米軍Xハンドレーダー基地。厳戒態勢にあり,触れば祟り必定の「タブー」そのものだ。そんな恐ろしいものが,車力とは異なり丹後では一般道路・住宅地・観光名所のすぐ側にできる。名所・穴文殊からだと,子供が石を投げても当たる距離だろう。

Xバンドレーダーについては,電磁波や騒音が主に問題にされてきたが,政府にとってはこれは想定内。議論がここに集中するのをみて,政府はほくそ笑んでいたにちがいない。

Xバンドレーダー基地の最大の危険性は,軍事機密,特定秘密にある。見せないで見るXバンドレーダー。ブラックホールのように,近づくものを片っ端から吸い取り破滅させる。そんなものが住宅地の目の前,観光名所のど真ん中にできる。

番組「見えない基地」の最初と最後は,経ヶ岬展望台からの分屯基地遠望であった。この展望台は,以前,私が分屯基地監視の名所として推薦したところだ。しかし,Xバンドレーダーが設置されたら,このような撮影はできなくなるだろう。たとえ,撮影禁止の立て札が立てられなくても,撮影には公安や警察やその他諸々の監視をつねに意識せざるをえない。何となく不気味だから自主規制,となるにちがいない。

あるいは,それどころか国道沿いの民家の庭先や二階からカメラを向けても,危ない。「軍事機密」「特定秘密」が写る可能性があるからだ。

こうして,京丹後は「Xバンドレーダー体制」に組み替えられていく。

140216a shariki tango ■米軍基地の位置関係:車力/経ヶ岬(京都民報

谷川昌幸(C)

NC=UML連立協議,はや紛糾

コングレス党(NC)と統一共産党(CPN-UML)は,連立を組み,1年以内の新憲法制定を目指すはずだったのに,スシル・コイララNC議長を首相に選出したとたん,内務大臣ポストをめぐって紛糾,いつものことながら,これでは先が思いやられる。

1.内務大臣ポスト「紳士協定」
NC=UML連立については,先述のように「7項目合意」がある。その中の第7項において,両党は制憲議会議長をUMLとすることに合意しているが,内務大臣や他のポストへの言及は,そこにはない。

ところが,UMLは,首相選協力への見返りとして内相はUMLとする「紳士協定」があったとして内相ポストを要求,もしこれが受け入れられなければ,連立協議には応じないと強硬に主張している。

これに対し,NCは,そのような「約束」はないとして,UMLの内相ポスト要求を頭から拒否している。さらに,単に約束がなかったからだけでなく,そもそも議院内閣制では内務大臣職は決定的に重要であり,もし内相が他党だと,首相は指導力を失い「レイム・ダック」に陥ってしまうとも述べ,UMLの内相ポスト要求を批判している(Himalayan, 14 Feb)。

2.「紳士協定」の有無
この内相ポスト「紳士協定」については,文書が出てくれば決着がつくが,そうでなければ,要するに「密約」であり,その有無は水掛け論とならざるをえない。

ただ,状況を考え合わせると,そのような「紳士協定」ないし「密約」があった可能性は否定できない。NCは選挙で大勝したが,単独過半数ではなく,UMLかマオイスト(UCPN-M)の協力を得ざるをえないからだ。

首相選に当たって,NCは,当然ながら,UMLとマオイストを天秤にかけ,できるだけ有利になるよう連立協議を進めた。ただ,マオイストとはイデオロギー的に隔たりが大きすぎ,結局,UMLと組むことにしたのだろう。

その連立協議の中で,大統領については明確な合意ができ,「7項目合意」において大統領はUMLとする,と明記することができた。ところが,内相については,そのような合意にはいたらず,しかしUMLの支持は首相選に不可欠だったので,おそらく何らかの形で“内相はUML”をにおわせ,これによりコイララ候補への投票の約束をとりつけたのであろう。

しかし,もしそうだとすると,これは切羽詰まったときの「玉虫色」合意にすぎず,しょせん弥縫策,すぐ暗礁に乗り上げてしまう。

3.内相の魅力
ネパールにおいて内務大臣がこれほど重視されるのは,その権限が強大だからである。警察(6万6千),武装警察(3万6千),治安部門,入管,刑務所など多くの機関を指揮し,その管轄権は地方の隅々にまで及ぶ。当然,巨額の予算も握る。

特に今回は,コイララ首相が公約しているように,地方選挙が半年以内に実施される可能性が高い。NCは,UMLの内相の下での地方選を忌避しているのだ。

「リパブリカ」によれば,NCは,バンデブ・ゴータムUML副議長が内相になることを強く警戒している。ゴータムは,内相として1997年地方選を実施し,UMLを大勝させた。NC,特に地方活動家は,その再現を恐れ,UML内相に強硬に反対しているという(Republica, 14 Feb)。

4.コイララ政権の前途
コイララ政権の前途は,NC大勝とはいえ,楽観はできない。ポスト争いは内相に限らない。他の大臣,あるいは大使なども,激しい争奪戦の的となる。

もし何とかポスト配分ができ,NCがUMLと組むことになっても,その場合は,おそらくマオイストが主流プラチャンダ派と急進バイダ派との再統一に向かい,議会内外での対立が激化するであろう。一方,もしUMLとの連立協議が決裂すれば,NCはマオイストと組まざるをえないことになる。

さらに,もし三大政党が三すくみとなれば,王党派のRPPが漁夫の利をえ,勢力を拡大することになるだろう。

コイララ首相は,公約通り,1年以内に新憲法を制定できるだろうか? 前回の観念先走りに懲りて,今回は制憲議会任期が2倍の4年となった。まだ先,4年もある。いよいよとなったら,また考えよう,ということにもなりかねない。

140214 ■UML指導体制(UML-HP)
カナール議長(अध्यक्ष),MK・ネパール長老指導者(बरिष्ट नेता),オーリ指導者( नेता),ゴータム副議長(उपाध्यक्ष),バンダリ副議長((उपाध्यक्ष),ポカレル書記長(महासचिव)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/14 at 19:50

第37代首相はスシル・コイララNC議長

1.首相選挙
ネパール制憲議会=立法議会は2月10日,コングレス党(NC)のスシル・コイララ議長(सभापति शुशिल कोइराला)を首相に選出した(सभापति =chairman, president)。第37代首相。

 首相選挙立候補:スシル・コイララNC議長のみ。
 議員総数:571(2月10日現在)
 政党別議席数:NC196, 統一共産党(UML)175, マオイスト(UCPN-M)80, 国民民主党(RPP)24, 他96(2月10日現在)
 出席議員数:533
 賛成:405(NC,UML,RPP,共産党ML,MJF-L,他)
 反対:148(マオイスト,他)

 140211b ■コイララNC議長(NCホームページ)

2.NC=UML連立政権
スシル・コイララ首相選出は,選挙で大勝したNCとUMLの「7項目合意」(2月7日)により,実現した。

▼NC=UML7項目合意(2月7日)
 (1)新憲法は1年以内に制定。
 (2)第1次制憲議会における憲法関係各党合意事項の承認・継承。
 (3)新憲法施行前に大統領と副大統領を新たに選出。
 (4)現大統領と現副大統領の任期は,制憲議会=立法議会において暫定的に延長する。
 (5)UMLは,首相選挙において,スシル・コイララNC議長に投票する。
 (7)制憲議会議長はUMLとし,NCはこれを支援する。

3.コイララ首相の公約
コイララ首相は,NC=UML連立内閣首相であり,当然,「7項目合意」が基本となる。この合意に基づき,彼は,首相選挙立候補演説において,つぎの「12項目目標」を公約した。

▼12項目目標(2月10日)(nepalnews.com, 10 Feb)
 (1)和平プロセスの継続・完了。
 (2)新しい民主的・共和的憲法の1年以内の公布施行。
 (3)地方選挙の6か月以内の実施。
 (4)経済発展と社会正義のための基本政策の作成。
 (5)インフレ抑制。
 (6)すべてのバンダ(ストライキあるいは閉鎖)の規制。
 (7)紛争被害者の救済。
 (8)法の支配による平和と秩序の確立。
 (9)内外資本の投資環境の改善。
 (10)インフラ建設および社会サービスの可及的速やかな促進。
 (11)印中および他の友好国との関係の強化。
 (12)すべての政党とつねに協力し,コンセンサスによる統治を目指す。

 140211a ■コイララ首相フェイスブック

4.勇猛にして清貧
スシル・コイララ氏は,1939年生まれで74歳。独身で,質素な生活を好み,「清貧指導者(saint leader)」などとも評されている。

一方,スシル氏は,名門中の名門,コイララ一族の一員であり,パンチャヤト期にはBP・コイララ,ギリジャ・コイララらとともに激しい民主化闘争を闘っている。

特に有名なのは,1973年のギリジャをリーダーとするハイジャック事件。1973年6月10日,NC党員3人がビラトナガルを離陸したロイヤル・ネパール航空機をハイジャックし,インド・ビハール州に強制着陸させ,ネパール政府公金3百万ルピーを強奪した。反パンチャヤト武装闘争の軍資金とするためだった。スシルは,このハイジャック事件の支援メンバーの1人として逮捕され,デリー監獄に投獄されたが,1975年,保釈された(wiki)。

政党活動が禁止されていたパンチャヤト期には,ガネッシュマン・シン,KP・バッタライなど激しい実力闘争を闘い長期間投獄された政党政治家が,たくさんいた。スシル首相もその1人なのである。

 140211c ■NCトロイカ(NCホームページ) 

5.揺り戻し
NC=UML連立コイララ内閣が,「行きすぎた」民主化革命体制からの揺り戻しとなることは間違いない。「12項目目標」を見ても,バンダ規制や「法の支配」強化があげられている。

NCとUMLは旧1990年体制の中心勢力だったし,コイララ首相に賛成投票したRPPも今回の選挙で26議席を獲得し勢力を回復しつつあ。

さらに,マオイストは野党を選択したものの,幹部らはこの数年で戦利品を十分すぎるほど手中にし,体制内化している。プラチャンダ議長自身,「1年以内の新憲法制定というコイララの公約は評価できる。われわれは,憲法制定を建設的な立場から支援する」と明言している(Republica, 10 Feb)。

だから,2007年暫定憲法体制からの揺り戻しは避けられないだろうが,問題は,それがどの程度になるか。たとえば,「12項目目標」の公約では,新憲法は「民主的・共和的」とされている。「連邦制」はない! たまたまなのか,それとも意図的なのか? もし意図的に落としたとすれば,これは大問題になる。

歴史的に見ると,イギリス革命,フランス革命など大きな革命はたいてい「行きすぎ」,それへの揺り戻しが起こり,結局,状況から見てそこそこ妥当なところに落ち着く。巨視的に見れば,ネパール革命も,そのような経過をたどるのではないだろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/11 at 19:43

制憲議会選挙2013(36):比例制-2

5.当選者名簿の作成
比例制獲得議席数の選管発表後,各党は,拘束式候補者名簿掲載候補者の中から,「党中央執行委員会」において獲得議席数に見合う数の当選者を選考して当選者名簿を作成し,それを選管に提出する[7(7)]。

この当選者名簿が選挙令の包摂規定に適合していない場合は,3日以内に訂正し,再提出する。ただし,各社会集団につき,10%以内の過不足は認められる。しかし,それでもなお規定に適合していない場合は,選管は,その党提出当選者リストを選挙令の包摂規定に適合しているものとみなす[7(8)-(12)]。

以上が,比例制当選者の選考方法らしい。「らしい」というのは,選挙令のこの部分,つまり第7条(7)-(12)は,何回読んでもよく分からないから。ネパール法実務家であれば分かるのだろうが,私にはお手上げ。だから,上記は,たぶん,そのような意味だろうというにすぎない。もし間違っていたら,後日訂正する。

6.当選者名簿:コングレス党の場合
当選者名簿の選管提出期限は,2013年12月30日。各党とも当選者選考でもめにもめたが,たとえば大勝し第一党となったコングレス党(NC)は,下記のような当選者名簿を作成し選管に提出した。

 ▼NC比例制当選者の社会集団別配分
  獲得議席数:91[100%]
  ・女性:46[50.5%]
  ・周縁的民族/先住民族:34(女17)[37.4%]
  ・マデシ:26(女13)[28.6%]
  ・ダリット:12(女6)[13.2%]
  ・後進地域:3(女2)[2.2%]
  ・カス・アーリア他:30(女15)[33.0%]

この社会集団別割当は,後進地域はやや少ないが,それを除けば選挙令の規定にほぼ適合している。

こうした社会集団別割当,ないしクォータ制が,根深い政治的・社会的差別の是正に大きな効果を発揮することはいうまでもない。たとえば,女性50.5%やダリット13.2%などは,人民戦争以前であれば夢のような考えられない数字であろう。日本でも,女性の力を本気で活用したいのであれば,ネパールに学び,議員定数の半分を女性とすべきであろう。

しかし,その一方,ネパールの包摂的比例制には問題も多い。たとえば,NC青年指導者ガガン・タパらによると,コイララ議長とデウバ幹部は比例制議席を5:4ないし6:4で山分けする密約を結んでいたという。事実,ほぼその通り,獲得議席91がコイララ派に55,デウバ派に36配分された。また,地域的にみると,25郡がゼロであるにもかかわらず,ヤダブ大統領やB・ニディの地元ダヌサ郡8,コイララ議長地元バンケ郡5,ポウデル副議長地元タナフ郡3となっている(ekantipur & Republica, 31 Dec.2013)。

身内優遇も相変わらず。デウバ幹部の妻アルズ・ラナ・デウバやコイララ一族のスジャータ・コイララなどが比例制から選出されている。

包摂的クォータ制は,構造的差別是正に有効な反面,議員選出過程が複雑となり,それだけ不透明となりやすい。また,アイデンティティ政治の危険性もつきまとう。この点については,別に論じる。

▼コングレス党比例制候補者・当選者
(候補者名簿番号-候補者名-[当選者名簿番号] 赤字=当選者

1 Chitra Lekha Yadav [1]
2 Gopal Man Shrestha [2]
3  Kul Bahadur Gurung [3]
4 Lila Koirala [4]
5 Dil Bahadur Gharti [5]
6 Narendra Bikram Nembang [6]
7 Pradeep Giri [7]
8 Gyanendra Bahadur Karki [8]
9 Minendra Prasad Rijal [9]
10 Prakash Sharan Mahat [10]
11 Man Bahadur Bishwakarma [11]
12 Sujata Koirala [12]
13 Manmohan Bhattarai [13]
14 Mahalaxmi Upadhyay Dina [14]
15 Anandaprasad Dhungana [15]
16 Suryaman Gurung [16]
17 Kamala Panta [17]
18 Ambika Basnet [18]
19 Dhanraj Gurung [19]
20 Mahendra Yadav [20]
21 Surendraraj Pandey
22 Ratna Sherchan [21]
23 Min Bahadur Bishwakarma [22]
24 Badri Prasad Pandey [23]
25 Jeevan Pariyar [24]
26 Ishwari Neupane [25]
27 Sita Gurung [26]
28 Kavita Kumari Sardar [28]
29 Minakshi Jha [28]
30 Sujata Pariyar [29]
31 Rajan Prasad Panta
32 Kumari Laxmi Rai [30]
33 Mina Subba
34 Baburam Rana
35 Chinkaji Shrestha [31]
36 Ram Chandra Pokhrel [32]
37 Sukraraj Sharma
38 Ashok Koirala [33]
39 Laxman Bahadur Basnet
40 Shivaraj Joshi
41 Jeet Bahadur Puri
42 Narayan Prasad Koirala
43 Ganesh Prasad Bimali [34]
44 Harihar Acharya (Birahi)
45 Shyam Kumar Ghimire
46 Jagadishwar Narsingh KC [35]
47 Haribol Bhattarai
48 Narayan Prasad Gaudel
49 Sunil Rana
50 Tarani Datta Chataut [36]
51 Madhu Prasad Acharya
52 Tilak Bahadur Rana Bhat
53 Rameshwor Prasad Khanal
54 Yadunath Khanal
55 Yubaraj Sharma
56 Bharat Bahadur Khadka [37]
57 Shanker Prasad Pandey
58 Krishnalal Sapkota
59 Jagannath Paudel
60 Kedarnath Koirala
61 Mohan Gyawali
62 Shankar Giri
63 Dhruba Wagle [38]
64 Chandra Bahadur KC
65 Baldev Bohara [39]
66 Mohan Raj Malla
67 Keshav Prasad Bhattarai
68 Lalit Adhikari
69 Mangal Bahadur Shahi
70 Giriraj Gautam
71 Krishna Singh Nayak
72 Sunil Kumar Bhandari
73 Narendra Bahadur Singh
74 Arjun Kumar Pokhrel
75 Dharmaraj Neupane
76 Jagat Prasad Joshi
77 Khuma Prasad Aryal
78 Rama Paudel (Guragain)
79 Krishna Kumari Paudel (Khatiwada)
80 Taradevi Bhurtel
81 Sarita Prasain [40]
82 Rukmini Devi Koirala
83 Shanta Rijal
84 Tulasa Acharya
85 Madhu Shahi Thakuri [41]
86 Kalyani Devi Rijal
87 Ambika Subedi
88 Laxmi Thapa
89 Kamala Thapa
90 Bijula Kumari Barma
91 Bishnu Devi Pudasaini
92 Dhan Kumari Khatiwada
93 Srijana Adhikari
94 Sushila Dhakal (Acharya)
95 Saroj Malla
96 Rama Aryal
97 Anita Devkota [42]
98 Kiran Koirala
99 Juna Kumari Dani
100 Rita Shahi [43]
101 Mithu Malla [44]
102 Parbati Chand
103 Leela Kumari Nepal
104 Chandra Devi Joshi [45]
105 Maina Karki
106 Dr Arzoo Rana Deuba [46]
107 Dipsikha Sharma Dhakal [47]
108 Uma Regmi
109 Dr Dila Sangraula
110 Omkala Gautam
111 Rama Koirala Poudel
112 Sheela Sharma Khadka [48]
113 Kalpana Devi Chokhal
114 Saraswoti Aryal Tiwari
115 Amrita Shahi
116 Nirmala Chhetri
117 Prasis Mahara
118 Narayani Rayamajhi
119 Urmila Nepal
120 Manju Khand
121 Parbati Devi Jaishi
122 Divyaswori Shah
123 Karobati Danuwarni
124 Ramkumari Malahin
125 Mukta Kumari Yadav [49]
126 Sangeeta Mandal Dhanuk [50]
127 Saraswoti Giri
128 Basmati Devi Giri
129 Kaushar Shah [51]
130 Anju Singh Chaudhary
131 Jamila Miya
132 Malati Devi Srivastav
133 Rashmi Thakur [52]
134 Mohammadi Siddiki
135 Lakhi Kumari Ganesh
136 Sarwat Ara Khatun Haluwaini [53]
137 Prameswori Pathak
138 Richa Dwebedi
139 Rekha Kaur Prasain
140 Saroj Kumari Yadav
141 Jibachhi Kumari Yadav
142 Mamata Srivastav
143 Laxmina Devi Rauniyar
144 Munni Kumari Gupta
145 Geeta Kumari Yadav
146 Tapeswori Devi Yadav
147 Surya Mati Upadhya
148 Fulkaliya Kurmini
149 Nagina Yadav
150 Kunti Kumari Yadav
151 Saraswoti Devi Harijan
152 Kunti Pasin
153 Mira Kumari Nepali
154 Prameela Devi Das [54]
155 Kumari Devi Musahar
156 Mohani Safi
157 Shyam Devi Pasman
158 Usha Gurung [55]
159 Krishna Amatya
160 Maji Gurung (Akala Gurung)
161 Sarita Gurung
162 Rajya Laxmi Shrestha [56]
163 Chandra Laxmi Tamrakar
164 Man Kumari Gurung
165 Saraswoti Bajimaya [57]
166 Pushpala Lama [58]
167 Dhan Kumari Thapa
168 Devaki Shrestha
169 Anu Gurung
170 Bishnu Kumari Limbu (Dahal)
171 Renuka Kaucha
172 Jeevan Dangol
173 Binda Devi Ale Rana [59]
174 Kusum Devi thapa
175 Uma Thapa
176 Deepak Roka Magar
177 Hari Prabha Khadgi
178 Hari Maya Gurung
179 Hira Gurung
180 Anjana Tamli [60]
181 Chandra Maya Limbu
182 Hema Laxmi Rai
183 Yamuna Devi Shrestha
184 Subarna Jwarchan [61]
185 Urmila Thapa
186 Anjani Shrestha [62]
187 Leela Subba
188 Lalita Kingring Magar
189 Lalitkala Gurung
190 Mahendra Kumari Limbu [63]
191 Rajani Amatya Jonchhe
192 Bijaya Shrestha KC
193 Manorama Sherchan
194 Maya Rai
195 Om Devi Malla Joshi [64]
196 Sunayana Palikhe Shrestha
197 Chiude Lama
198 Tika Kumari Budha
199 Sita Shrestha
200 Sita Kumari Rana
201 Bharati Gurung
202 Radha Ghale
203 Rekha Gurung
204 Kalpana Sop [65]
205 Bimala Nepali
206 Asha BK [66]
207 Rajan Bishwakarma
208 Kopila BK
209 Rupa BK
210 Nani Maya Neopali
211 Kopila Bohara
212 Laxmi Pariyar Sewa
213 Bishnu Maya Pariyar [67]
214 Radhika Bhujel
215 Uma Kumari Badi
216 Fulawati Rajbansi
217 Malati Devi Chaudhary
218 Namita Kumari Chaudhary
219 Pati Tharuin
220 Sabitri Devi Chaudhary [68]
221 Pampha Dhimal
222 Pepi Tharuni
223 Saraswati Chaudhary
224 Bhoteni Devi Khawas [69]
225 Laxmi Devi Bhandari [70]
226 Ganga Devi Chaudhary
227 Sundari Devi haruni
228 Dhamendra Bikram Nembang
229 Bikemndra Kumar Limbu
230 Dinesh Rai
231 Srawan Kumar Rai
232 Mohan Kumar Rai [71]
233 Pratap Singh Lama
234 Dhruva Shrestha
235 Dil Man Pakhrin [72]
236 Ourna Bahadur Tamang
237 Mohan Kumar Singh Mathema
238 Hira Lal Tandukar
239 Ananda Raj Joshi
240 Hari Prasad Shrestha
241 Pramod Kumar Shrestha
242 Raj Kumar Nakarmi
243 Dinbandhu Shrestha
244 Kalyan Kumar Gurung
245 Durga Bahadur Ranamagar
246 Amar Singh Pun [73]
247 Jhul Bahadur Aley [74]
248 Gajendra Bahadur Aley
249 Tama Bahadure Daire
250 Bhim Bahadur Dura
251 Rabindra Raj Shrestha
252 Lal Kaji Gurung
253 Dibya Mani Rajbhandari
254 Tek Prasad Gurung
255 Chandra Dwaj Gurung
256 Indra Bahadur Gurung
257 Jeevgan Prem Shrestha
258 Manohar Narayan Shrestha [75]
259 Angelu Sherpa
260 Pradip Kumar Sunuwar
261 Thal Kumar Linkha
262 Ravi Prakash Rai
263 Ganesh Bahadur Thapa (Magar)
264 Nabin CXHitrtakar
265 Raju Shrestha
266 Meena Kumari Srivastava
267 Arjun Kumar Shrestha
268 Lal Bahadur Ghale [76]
269 Buddha Lama
270 Kawel Bahadur Lama (Tamang)
271 Tsering Kapne Lama
272 Bhusandwaj Rajalwat
273 Kadga Bahadur Basyal [77]
274 Man Bahadur Nepali
275 Jayaram Tamata
276 Bijul Kumar BK Dulal
277 Lilman Damai
278 Karnabir Kami
279 Shiva Narayan Gangai
280 Ranjit Karna [78]
281 Amiya Kumar Yadav [79]
282 Bhola Pajiyar
283 Upendra Prasad Chaudhary
284 Harishanker Mishra
285 Upendra Prasad Kushwaha
286 Ram Shrestha Prasad Shah
287 Abdul Kalam Musalman
288 Lal Babu Singh Bhuinyar [80]
289 Matrika Prasad Yadav
290 Mukinath Yadav
291 Badshah Kurmi [81]
292 Abdul Hameed Siddiqui [82]
293 Rijwan Ahmed Shah
294 Dr Suresh Kumar Kanaudiya
295 Dharmendra Jha
296 Shashi Kanta Agrawal
297 Mahesh Kumar Jaju
298 Medani Mahato Dhanuk Mandal
299 Amrit Lal Rajbansi [83]
300 Ghuran Majhi
301 Birendra Kumar Majhi
302 Shanti Devi Chaudhary [84]
303 Mohan Chaudhary
304 Lahuram Tharu
305 Buddhi Sagar Chaudhary [85]
306 Smriti Narayan Chaudhary
307 Haresh Prasad Mahato [86]
308 Om Prakash Sharma
309 Narendra Prasad Mishra
310 Sheikh Rasheed Ali
311 Om Prakash
312 Kishori Shah
313 Mukhtar Ahmed [87]
314 Bhagirath Kumar Poddar
315 Rakesh Kumar Singh
316 Bashishta Narayan Prasad Kurmi
317 Basi Ullah Musalman
318 Dilli Bahadur Chaudhary [88]
319 Pyare Lal Rana [89]
320 Ramasamajha Chaudhary
321 Shyam Lal Rana Tharu
322 Bhagwati Prasad Tharu
323 Som Prasad Chaudhary
324 Ram Sundar Maharaf
325 Surya Dev Das Urao
326 Bangali Hajara Dusad
327 Maikulal Balmiki [90]
328 Sita Mijar
329 Padma Singh BK
330 Lok Bahadur Biswokarma
331 Narbhan Kami [91]
332 Bir Bahadur Sunar
333 Shambhu Hajara Dusad
334 Dharmandra Paswan
335 Ram Baran Paswan

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/10 at 18:21