ネパール評論

ネパール研究会

Archive for 8月 2013

国家世俗化とキリスト教墓地問題

キリスト教墓地問題は,一応の決着がついたかに見えたが,いつものように政府の約束は言葉だけで,実行は棚上げらしい。
  レグミ内閣とキリスト教墓地問題
  キリスト教墓地要求,ハンストへ
  キリスト教墓地問題検討委員会発足
  クリスマスと墓地問題
  墓地紛争:キリスト教vsヒンドゥー教
 ▼キリスト教墓地問題一覧

1.深夜の無断埋葬
カトマンズ・ポストのアンキト・アディカリ「拒絶された墓地」(8月23日)によれば,ネパールのキリスト教徒は,墓地を拒否され,死者の埋葬ができず,切羽詰まったぎりぎりの事態に追い詰められている。

ある日,カトマンズで信者2人(男性82歳,女性62歳)が病死したが,カトマンズには墓地はない。そこで深夜,ひそかにジープでヌワコットのトリスリ川沿いの人里離れた森まで運び,すばやく穴を掘り,2人を埋め,急ぎカトマンズに戻った。地元民には,もちろん内緒。

このような方法での信者埋葬は,ヌワコット以外にもダディング,ラウタート,シンドバルチョーク,カブレなどあちことで行われており,時にはスルケットまでも運ぶこともあるという。「よくないに決まっているが,ではどうすればよいのか? 他に方法はないのだ。」(BG.ガルトラジ全国キリスト教連盟[FNCN]議長)

2.ゴティケル墓地の棚上げ
カトマンズ盆地のキリスト教徒が,このような深刻な事態に追い込まれたのは,政府が約束を実行せず,墓地問題を棚上げにしているからだ。

従来,カトマンズ盆地のキリスト教徒(及びキラント諸民族)は,パシュパティ寺院のシュレスマンタク・バンカリの森への埋葬を黙認されていた。ところが,2006年革命の結果,国家世俗化が実現し,これによりヒンドゥー教側もかえってアイデンティティを明確化させていき,2011年1月,「パシュパテ地区開発トラスト(PADT)」が寺院敷地内のバンカリの森への埋葬を拒否する決定を下した。

この埋葬拒否により深刻な事態に陥ったキリスト教会は,2011年4月,ハンストを決行,政府に「墓地問題検討委員会」を設置させた。そして,そこでの交渉の結果,政府はラリトプル郡ゴティケルに2000ロパニのキリスト教墓地をつくることを約束した。ビノド・パハディ委員長によれば,すでにゴティケルの住民やラリトプルの郡庁と郡森林局の同意も得てあるという。

ところが,この約束は実行されないまま,委員会が任期切れとなってしまった。ゴティケル墓地は棚上げ。抗議すると,政府は造るというが,口約束だけ。「もし今度も空手形なら,強力な抗議運動を全国に呼びかける」(ガルトラジFNCN議長)

3.国家世俗化とキリスト教
2006年革命により,ネパールはヒンドゥー教国家から世俗国家に転換した。ヒンドゥー教にとっては,これは大敗北であり,他宗教,とくにキリスト教への敵愾心を強めている。パシュパティの森の墓地問題は,その最も極端な実例である。

キリスト教徒は,全人口の1.4%とされている。少数派だが,バックに欧米のキリスト教会が控えており,世俗化の追い風に乗り勢力を急拡大させている。たとえば,この記事を書いたカトマンズポストのアンキド・アディカリ編集委員は,クリスチャンか否か不明だが,出身校は,聖ザビエル校(カトマンズ)である。

聖ザビエル校は,イエズス会系の学校であり,ネパールには5校ある。カトマンズ校は1988年設立で,いまや大学院までもつ超名門エリート学校。アディカリ氏は,この学校で英文学を修め,ジャーナリストとなったようである。

彼のこのような経歴が,おそらく彼をしてキリスト教会への理解を深めさせ,墓地問題を追わせているのだろう。彼の記事そのものは,問題に即して書かれており公平と見えるが,ヒンドゥー教徒の側から見ると果たしてどうなるか? ここが難しいところだ。

130831a ■聖ザビエル校(カトマンズ)

キリスト教会側の攻勢は,教育以外でも様々な形で展開されている。たとえば,これはタルー民族への働きかけ。詳細はわからないが,「はじめに言葉があった」と信じるキリスト教のこと,タルー以外にも様々な少数民族の言葉で布教を進めている。

130831b ■Good News THARU

4.宗教対立激化のおそれ
国家世俗化は,一般に,宗教対立の緩和が目的だが,ネパールでは,少なくとも今のところ,それは宗教アイデンティティの強化→宗教対立の激化という逆の結果をもたらしている。

墓地を取り上げ,死者を埋葬させない! これはセンセーショナルな切羽詰まった問題であり,外部からの干渉も招きやすい。対処を誤ると,ネパールは取り返しのつかない深刻な宗教紛争に陥ってしまうだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/31 at 08:48

インドはネパール76番目の郡:Nepali Humor

仏陀はネパールに生まれ,エベレストはネパールにある,したがって,インドはネパールの76番目の郡だ!

ネパールお得意のユーモア。自虐ネタであり,仏教の政治的利用(これはかなりマジメ)でもあるが,内弁慶の日本ナショナリストよりはマシだ。くやしかったら,アメリカは日本の48番目の県だと,アメリカに向かって叫んでみよ。

130830 ■India – 76th District of Nepal

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/30 at 10:00

トニー・ハーゲンのネパール記録映像

トニー・ハーゲン(1917-2003)のネパール調査記録フィルムがユーチューブで公開されている。まさに古き良きネパール。半面の真理であり,懐古趣味にはちがいないが,「進歩」とは何か,「幸福」とは何か,改めて考えさせられる。
 ■Uhile ko Nepal – Nepal of the Past – A Documentary by Toni Hagen

ネットでは,これ以外にも,ネパールの自然や社会に関する様々な映像が続々と公開されている。著作権も何もあったものではない。文章も映像も万人のもの。本来,ネットとは,このようなものであろう。ネット公開情報の急増により,ネパールは,誰にとっても,もはや神秘の国ではなくなった。

130824a 130824b
■化膿を切開治療/ウキをつけ荷渡し

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/24 at 14:07

カテゴリー: 情報 IT, 文化, 歴史

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対ネ最大投資国,中国

新華社(8月21日)によれば,対ネパール投資において,中国が最大投資国となった。

ネパール政府統計2012-13によれば,諸外国の対ネ直接投資は193.9億ルピーで,中国がその30.9%を占め,初めてインドを抜き,最大の対ネ投資国となった。
 ▼2011-12年度 インド:38.8億ルピー  中国:10億ルピー
 ▼2012-13年度 中国:59.9億ルピー  インド:25億ルピー

これが大きな意味を持つことは明白。中国にとって,ネパールは南にインドを控えており,経済的にも政治的にも重要性は増すばかり。インドとの軋轢はあろうが,この流れはもはや止められない。

この中国投資でいま注目されているのが,ポカラ国際空港の建設。中国輸出入銀行からの長期低利融資1億4500万ドルを受け,中国の空港(成都双流国際空港など)をモデルに, 中国CAMC(中工国际工程股份有限公司)が施工する。

このポカラ国際空港は,1989年頃から日本のJICAが手がけたが,結局,中国丸抱えで建設されることになった。ルンビニ開発も,もとは日本が手がけていたが,こちらも,バイラワ国際空港建設を手始めに,結局,中国勢が中心となりそうだ。

まさに破竹の中国経済進出。昨日の新華社ニュースによれば,中国は公館もネパール国内に増設するという。日本は蹴散らされても実害は大してないが,インドにとっては,心中穏やかではあるまい。

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 ■ポカラ国際空港フェイスブック

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/23 at 09:12

カテゴリー: インド, 経済, 旅行, 中国

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講演会:ネパールを知ろう!

ネパール関係の講演会がありますので,ご紹介します。

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講演会:ネパールを知ろう!
「ヨード欠乏症の根絶を目指して」熱田親憙(ネパール・ヨードを支える会)
「ネパールの観光の魅力」上田一彦/シュレスター・ニローズ(国際交流団体未来)
「ネパールで体験したこと」榎井 縁(大阪大学未来戦略機構)
(日時)9月10日午後1時30分~4時
(場所)宝塚市男女共同参画センター(ソリオ2)交流室
(申込先)国際交流団体未来

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/22 at 10:31

カテゴリー: 教育, 旅行

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宝塚のネパール料理店:リバジャ

「リバジャ(रिवाज )」は,いかにもネパールらしい料理店だ。

プジャ」が,タカラジェンヌも集うとウワサされるおしゃれな店であるのに対し,リバジャは庶民向けの店だ。駅から離れた運動公園,河川敷公園の近くにある。レストランとしての立地は,決してよくない。近隣の住民や公園に遊びに来る人びとを顧客にしているのだろう。

昨日,夕食をとっていたら,運動公園での練習帰りらしい女子高校生が数名やってきて,「やっぱ,ネパールの方がうまいネ」などといいながら,わいわい,がやがや楽しそうにカレーを食べていた。プジャのように小綺麗で上品ではないが,いかにもネパール的。頑張って欲しい。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/21 at 09:11

カテゴリー: 文化, 旅行

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京都の米軍基地(16):レイセオン下請以下の参与会意見

京都府の「TPY-2レーダーの電磁波の影響に関する参与会の意見」を見て唖然とするのは,基本中の基本のはずのレーダー性能について,製造元のレイセオン社ホームページを根拠としていることだ。

米国Raytheon社のホームページによると,TPY-2レーダーは・・・・

ネットは北朝鮮でも中国でも,いやド素人の私でも見ることができ,こんなところに最新兵器の重要情報が書かれているはずがない。参与会意見は,そんないいかげんなネット情報を根拠としているのだ。

しかも,確たる根拠がないものだから,科学的良心に従い――将来の責任追及を免れるため――重要部分の記述は,ほとんどが推測となっている。

「ビーム走査範囲は上下左右±約45°程度と推測される。」
「合計90°の範囲をカバーしていくものと思われる。」
「1000Kmぐらいの距離が感知できるのではないかと考えられる。」
「TPY-2レーダーの出力はおそらく数百kwと推測でき・・・・」

私たちは,1万円程度の電子レンジを買うときでも,もう少しましな性能チェックをする。車ともなれば,エンジン出力,燃費,安全装置,インテリアなどを入念に調べ,比較検討する。ところが,参与会は,はるかに高価で危険なXバンドレーダーについて,兵器メーカーの公開ネット情報による推測で安全評価をしている。およそ科学的とは言いがたい。

この程度のことであれば,下請以下の参与会ではなく,直接,レイセオン社ホームページを見た方が,はるかに正確だし,何よりも面白い。まるで劇画未来戦争のようだ。

レイセオン社ホームページ
ミサイル防衛システム(動画3分11秒)
TPY-2レーダー(動画1分16秒)

130819a ■レイセオンのハイテク戦争ビジネス(Raytheon)

レイセオン社は世界最大のミサイルメーカー。2012年度の売上240億ドル,従業員6万8千。

「レイセオンは,すでに8台のAN/TPY-2を販売し,現在,アメリカと他の同盟2カ国の顧客のため3台を製造中である。」
「現在,前線配備型AN/TPY-2は日本,イスラエル,トルコに配備され,アメリカと友好同盟国を防衛している・・・・」

Xバンドレーダーと連動する迎撃ミサイルなど,実際には当たりはしないが,軍需産業にとっては,そんなことはどうでもよい。一台いくらか知らないが,関連サービスも含めると天文学的売上となり,会社を潤す。

過疎地・丹後は,捨て石となり,最新兵器を受け入れることにより,アメリカと日本の政官学軍複合体=「死の商人」の繁栄に少なからず寄与することになろう。

130819b 130819c
■ミサイル防衛システム/TPY-2レーダー(Raytheon)

130819d  ■日米兵器開発協力:レイセオン+三菱重工(Raytheon)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/19 at 10:36

京都の米軍基地(15):受け入れ10条件

1.条件付き受け入れ表明
京丹後市長は8月1日,米軍Xバンドレーダーの空自経ヶ岬分屯基地への配備計画につき京都府知事と協議し,「(受け入れ10)条件に政府がしっかり対応するなら,受け入れに必要な協力ができる」と約束した(京都新聞8月1日)。

市長は8月6日の市議会全員協議会においても,「受け入れを前提に条件を確認している」と述べ,「確認できなければ協力表明はできない」と明言した。さらに,「住民の命を守るのが行政であり,市民の安全,安心に影響があれば体を張って反対する」と勇ましい(毎日8月7日)。

府知事と市議会への説明後,8月7日に開催された地元住民説明会(宇川小学校)では,本音もチラリ。「安全安心が確保されるなら,必要な協力をするのが道理」(京都8月8日)。「日本の国民の一員として国防を考えねばならない」(毎日8月8日)。「日米安保条約が大切だと考えている」(同上)。

130814 ■豪華な京丹後市庁舎

2.受け入れ10条件
京丹後市長が京都府知事に示したXバンドレーダー受け入れのための10条件は,以下の通り。
 【1】(事件・事故,被害等対策)事件・事故防止努力と,被害への適切な措置
 【2】(上記に関する検証)電波強度の実測と無害の検証
 【3】(同上)騒音レベルの調査と,騒音対策
 【4】(同上)排水の環境影響調査と,必要な措置
 【5】(生活・産業影響への対策)民生安定,生活環境,産業振興,環境整備,住民福祉等への支援
 【6】(同上)水供給への万全の措置
 【7】(同上)米軍関係者の居住地選定の適切な手続
 【8】(同上)道路の拡幅と新設
 【9】(日米地位協定の見直し検討の要請)米軍関係者による事件・事故等が発生した際の刑事裁判手続きに関し,日米地位協定における米軍人・軍属に対する裁判権の行使に関する運用について住民不安の解消のため絶えざる改善に努めること。
 【10】(その他全般)これまでの国側回答の誠実な履行

3.「お願い」が条件
この受け入れ10条件の詳細は下記資料をご覧いただくこととして,その本質を一言でいえば,これらは「お願い(要請)」にすぎず,住民の安全・安心を保証するものではないということ。

道路・水道など一時的な補助事業の部分を除けば,肝心の安全・安心については,結局,「日米地位協定の見直し検討の要請」ということに尽きる。すなわち,「絶えざる改善に努めること」という,単なるお願いにすぎない。

この点に関し,一部メディアが,米軍基地受け入れは「日米地位協定の見直しが条件」と報道していた。初めこれを見てビックリ,さすが京の都には骨がある,と感動した。そして,京丹後市長も,この条件が確認されなければ,「協力は表明できない」,「体を張って反対する」と断言されていた。市長は,某方面からのテロなど恐れることなく,文字通り「体を張って反対する」決心をされたにちがいない。そう考え,市長の,源頼光に勝るとも劣らない勇気に心から惜しみなく拍手をしたものだ。

ところが,これまでの経過を考えると,これはどうも不自然だ。そこで,もう一度,各紙報道をよく見ると,日米地位協定の「見直し」ではなく,正確には「見直し検討の要請」であった。つまり,「見直し」でないことはおろか,「検討」ですらなく,単なる「検討の要請」にしかすぎない。

唖然とし,深く落胆。こんなものは,屁の突っ張りにもならない。

4.責任無能力の政府と米軍基地を守る警察
悲しいことに,日本政府の安全・安心の約束は,沖縄米軍基地や福島原発により,まったく信用ならないことが明らかとなった。とくに米軍基地については,米軍が軍事的必要により自由に使用するのであって,日本政府は,お願いはできても,事実上,規制はできない。オスプレイは、日本全国,たとえ高浜原発の上だろうが,京丹後市議会上空であろうが,自由に飛ぶ。いくら日本政府がお願い(要請)しても,聞きおくにすぎない。

さらに,京丹後市長は,安全・安心のための警官配備を要請し,府知事も丹後への警官増員を検討すると約束した。しかし,警察の警戒対象は主として住民であり,米兵ではないことを忘れてはならない。

基地内は治外法権,基地外でも「公務」免責。日本政府は手出しできない。警察は主として米軍基地とその要員を守るために増員される,という「不都合な真実」を見落としてはならない。

5.平和の放棄
米軍基地は,京丹後市長・京都府知事はおろか,日本政府にもコントロールはできない。ウソだと疑うなら,沖縄米軍基地の歴史を見よ。

はした金の補助事業に目がくらみ,そんな危険な米軍基地を受け入れたら,もはや丹後に平和はない。

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[参考資料1

米軍TPY-2レーダーの配備計画の受入に際する確認(条件)について(メモ)

                            

京丹後市

以下、政府として責任ある対応の確認を求める。

(事件・事故、被害等対策)
○ 米軍TPY-2レーダーの配備に伴い、あらゆる事件・事故の防止に総力をあげて取り組むとともに、仮にも事件・事故が発生した場合には、責任をもって適切な措置を講ずること。
 特に、万-にも決してあってはならない健康への影響又は環境被害(農畜産物及び漁業又は鳥類の飛来等を含む)等が発生した場合又はそのおそれが合理的に出てきた場合には、安全性が回復・確認されるまでの間の停波を含め責任をもって適切かつ確実な措置を講ずること。
(上記に関連する検証)
○ 海上における漁業従事者の不安に適切に対処するため、レーダー設置の前後に、レーダー配備地の前面周辺海域における電波強度を実測比較し、有意な電波影響のないことを検証すること。
○ 周辺地域への防音に適切に対処するため、レーダーの設置の前後に、周辺地域の騒音レベルの比較調査を行い、有意な影響のないよう万全な騒音対策を講ずること。
○ 海への排水(一日あたり50トン程度と見込)の環境への影響に対する不安に適切に対処するため、レーダー設置の前後で環境への影響調査を行い、必要な措置と検証を行うこと。
(生活・産業影響への対策)
○ 同レーダーの配備に伴い、農業、漁業、観光等地域の生業・産業はじめ日常の地域生活の維持に負の影響を直接・間接問わず来たすことのないよう、民生安定、生活環境(公用ヘリコプター運用、民生電波等への影響含む)、産業振興環境の整備、住民福祉等に対して万全な予防及び支援措置を講ずること。
○ 同レーダー配備に伴い大きく増加する水の使用に適切に対処するため、地域住民の生活維持に絶対に欠かせない水の供給環境について、地元区、地元自治体の意向を踏まえ万全な措置を講ずること。
○ 米軍関係者の施設・区域外における居住場所の選定にあたっては、地元区、地元自治体の意向を踏まえ、適切・丁寧な手続きを確保すること。
○ 予想される交通量の増加や、決してあってはならないが万一の事態への懸念に備えた迅速な住民避難・施設保全等のため、各種道路の拡幅・新設等必要不可欠な交通環境・アクセスの整備に対し真摯かつ万全に対応すること。
(日米地位協定の見直し検討の要請)
○ 米軍関係者による事件・事故等が発生した際の刑事裁判手続きに関し、日米地位協定における米軍人・軍属に対する裁判権の行使に関する運用について住民不安の解消のため絶えざる改善に努めること。
(その他全般)
○ 上記のほか、本年2月の候補地申し入れ以降、累次にわたる質問書をはじめ議員全員協議会、住民説明会においていただいた国側回答の内容について、誠意と責任をもって履行されること。

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参考資料2京丹後市議会議員全員協議会(8月6日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/14 at 21:07

「風立ちぬ」:ごちゃまぜ中途半端

連日の酷暑に参り,涼みに映画館へ。宮崎駿監督「風立ちぬ」を観てきた。126分の大作。

絵はきれいで,あれこれ考えさせられるところもある作品だが,一度見た限りでは,全体的に中途半端で,とくに三分の二位の部分はダレ気味で,間が持たない感じ。

ストーリーは,堀越二郎のゼロ戦設計に至る半生と堀辰夫『風立ちぬ』を合わせたもの。堀越のことは全く知らないし,『風立ちぬ』もほとんど忘れているが,この合わせ技がうまくいっていない。

企画書(宣伝パンフレット)には,「この映画は実在した堀越二郎と同時代に生きた文学者堀辰雄をごちゃまぜにして,ひとりの主人公“二郎”に仕立てている」と書かれている。いくらなんでも「ごちゃまぜ」はひどいと思ったが,観た後では,たしかに「ごちゃまぜ」という印象を払拭しきれなかった。正直な企画宣伝部員だ。(それとも,これは監督自身の本音か?)

130811a

「ごちゃまぜ」感を禁じ得ないのは,「菜穂子」と「ゼロ戦設計」が二兎追いとなり,どちらつかずとなっているから。「純愛」なら菜穂子を追うべきだが,追い切れない。宣伝文に「愛と青春を描いた一大感動作!!」と謳うが,ちょっと違うのではないか?

この映画のメインテーマは,やはり「ゼロ戦設計」の方であろう。「純愛」をウリとするのなら,戦闘機であれ何であれ「美しい飛行機」でさえあればよい,といった「純粋さ」を追い詰めるべきだった。ところが,二兎追いの結果,「純粋さ」は維持しきれず,随所に戦争批判が織り込まれる。観客はなめられている。中途半端な,平板な戦争批判が,申し訳のサッカリンのように「純粋さ」にまぶされている。観客のためではなく,制作者自身のために。

そもそも堀越二郎といった実在の人物や「風立ちぬ」といった既成作品を下敷きにしたのが,まずかったのではないか? フィクションに徹していたら,純粋に生きようとする人々が自他を傷つけ,あるいは悪に荷担せざるを得ない人生の不条理を,美しくも切なく,冷酷にして残酷に描けたのではないだろうか?

この映画では,「ピラミッドの無い世界より有る世界の方がよい」あるいは「(それにもかかわらず)生きねば」といったメッセージが,セリフや語りでくどくど説明されている。作品としての完成度が不十分と言わざるをえない。

[新聞記事:2013.8.21追加]
映画:賛否両論「風立ちぬ」「感動」×「違和感」キーワードは「ピラミッド」 (毎日新聞2013年08月21日東京夕刊)

私(記者)も見た。126分の上映時間が過ぎ、エンドマークが出る。沈黙。周囲の観客はささやきすら交わさず、おもむろに帰り支度を始める。そう、感想を言葉にしようにも、言葉にならないのだ。「宮崎監督は何を訴えたかったのだろう」。素朴な疑問がいつまでも消えない。

この記者の疑問は「素朴」ではない。やはり,できが悪いのだ。記事によれば,東浩紀,中森明夫,藤原帰一,渡辺真由子,大高宏雄といった人たちも厳しい評価をしているという。

[新聞記事:2013年9月28日追加]
沢木耕太郎氏が「風立ちぬ」を批評している。言葉使いは慎重だが,「大人のための作品」でも子供のための作品でもないとは,手厳しい。根本的な批判であり,要するに,失敗作という評価であろう。

沢木耕太郎「銀の街から:風立ちぬ」(朝日新聞,2013年9月27日)
「これは宮崎駿の作品ではない・・・・」
「(二郎の零戦と菜穂子の恋という)この二つの要素は,映画の中で,有機的な融合がなされていない。」
「二郎の前には,多少の風は吹き渡っていても凹凸のない平原があるだけだ。険しい山もなければ,深い谷もない。」
「この『バリアフリー』化に輪をかけたのが,主人公の声である。主人公の声に物語の起伏を生みだす力がなかったため,ますます『風立ちぬ』は平坦なものになってしまった。」
「もし,この『風立ちぬ』を見て,子供たちが退屈するとしたら,それは『大人のための作品』だったからではない。」
「これは新しいものを生みだした作品ではなく,かつてあったものが失われた映画だったからである。」

[記事追加,2019年11月10日]
あの「風立ちぬ」が戦争讃美詩より問題な理由 美の追究は時として人を殺す」(東洋経済ONLINE,11月10日)
週刊東洋経済編集部「多くの人にとって心地よいものであろう美は、人を殺すこともある。彫刻家にして詩人、高村光太郎の戦争賛美詩「必死の時」は、死地に赴く若人の背を押した。そして、スタジオジブリのアニメ『風立ちぬ』には戦争賛美詩よりも問題があると言われたら、驚かずにいられるだろうか。『危険な「美学」』を書いた成城大学の津上英輔教授に聞いた。・・・・」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/11 at 11:00

カテゴリー: 平和, 文化

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焼身抗議死報道の自己規制

ボダナートの仏塔の側で8月6日,チベット僧カルマ・ゲトゥン・ギャンツォさん(39歳)が焼身抗議死(焼身自殺)を遂げた。ボダナートで3人目。(生死不明を含め焼身抗議総数126人)

カルマさんは,チベットで僧侶となったが,下半身麻痺となり,政府圧力により僧院追放,各地を巡礼し,ネパールを経てダラムサラに亡命していた(中原一博「ダラムサラ通信」8月9日参照)。

周知のように,ネパール政府は,「一つの中国」政策を支持し,ネパール国土を反中国活動に使用させないと繰り返し約束している。いまでは「一つの中国」を宣言してからでないと,中国側とのいかなる会合も始まらない有様だ。

ネパール政府は,こうした反中国活動取り締まり要求に応え,ボダナートなど,チベット系住民の多い地区に警官多数を配備し,さらにハイテク監視カメラ34台を設置した。

主たる監視対象はチベット系だろうが,カメラに人種差別なし。日本人でも挙動不審であれば,マークされる。当然,某国にも筒抜けだろう。ヒッピーのよき時代は今や昔。ボダナートで某国に監視され,アメリカンクラブ付近で某々国に監視され・・・・。

自由チベット運動に対しては,こうしたハードな取り締まりに加え,最近ではソフトな規制も始めているようだ。各メディア(8-9日)の記事タイトルはこうなっている。

AP「チベット僧,中国に抗議し焼身自殺」
ekantipur「僧,焼身自殺」
nepalnews.com「チベット人,ボーダで焼身自殺」
Nepali Times「また焼身自殺」
Himalayan「チベット僧,自分に火をつけ死亡」
新華社(英文)「ネパールの身元不明焼身自殺者は身体障害者だった:地元住民」

APと新華社が両極にあり,他のネパール・メディアがその中間に位置する。ネパール・メディアは,記事内容も,ほとんどが警察発表通り(後日,多少補足修正された)。自己規制しているのだろう。

興味深いのが,新華社。記事はやたら詳しく,しかも一定の方向性をもっている。カルマさんは,焼身のため200ルピーでバターランプを買った(他メディアでは100-150ルピー)。動機については,マノジ警察DSPの説明――「政治的動機か否か,また自殺か焼身抗議か,これから調査したい」――をそのまま掲載している。タイトルで,身体障害を苦に自殺したと暗示し,それをこのマノジ警察SDP説明で補強しているのだ。

このところ中国の情報収集・発信能力の強化は,目を見張るばかりだ。ネパールでも,すでにネパールのメディア自身が「新華社によれば・・・・」などと,中国情報源を利用し始めている。日本でも,中国メディアを介したネパール情報が急増し始めた。

さすが中国は大国,要所を押さえ,勢力拡大を図っている。かつて宗教は民衆のアヘンだったが,現代では情報こそが,いわば「民衆のアヘン」。情報を制するものが,世界を制する。(尖閣も竹島も,情報報道戦では,日本劣勢。内弁慶日本の悲哀を感じざるを得ない。)

130810
 ■新華社日本語版(2013.5.27)。元首相のプラチャンダ,MK・ネパール,B・バタライが「中国夢」絶賛

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/10 at 10:00