ネパール評論

ネパール研究会

Archive for 11月 2015

啓蒙ポスターの悲哀

これは,この春に始められた「プラスチック(ビニール)袋禁止」キャンペーンのポスターだろうか? 英断だが,これは実行が難しい。

151130g■プラ袋禁止キャンペーン・ポスター

151130b■ポスターの向かいの露店

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/30 at 20:04

カテゴリー: 社会, 経済, 文化

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ヤミとコネの功罪

外人が外から見ると,ネパール社会の基底にはまだ「ヤミ・コネ」経済があるように思われる。といっても,暗い面ばかりでなく,そうであるからこそ,ネパール社会が突如苦境に陥っても,崩壊せず,何とか秩序を維持し存続できているのではないだろうか。たとえば,インド「非公式」経済封鎖による石油・ガス不足。

日本のような人間関係の希薄化した大衆社会だと,生活必需品の不足に人々は慌てふためき,パニックとなり,一気に過激な群衆行動に走りがちである。他方,政府も,大衆に選ばれ大衆に依存しているからこそ,大衆群集心理の恐ろしさを熟知・警戒し,何とかして大衆パニック,大衆暴動を回避しようとして焦り,一気に専制化し,強権的経済統制・社会統制に向かう。

そして,こうしていったん専制的権力を握ると,現代大衆国家は,高度に発達した情報技術を駆使して国民すべてを――たとえばマイナンバーなどで――管理し,その専制体制を永続化させる恐れが強い。そこには,権力が見てコントロールできない「ヤミとコネ」はない。現代型専制は,すべてを見て,すべてを支配する。

ところが,ネパールは,まだそのような現代型大衆社会ではなく,「ヤミとコネ」が至る所に伏在し,必要な時には表の機能を効率よく代替する。石油・ガス不足が長期化し,先が全く見通せなくても,人々が,不平不満はあっても,決してパニックにならないのは,そのためだ。「ヤミ・コネ」経済が十分に機能しているのだ。

ガソリンは「ヤミ」ルートで大量に流れ,「コネ」を通して「ヤミ」価格で取引されている。ガソリンは現在正規価格112ルピー(131円)位だが,「ヤミ」では500ルピー前後で売買されているそうだ。

「ヤミ」ガソリンは,まずインドから相当量入っているのではないかと思われる。インドからポリ容器などに入れ,あるいは車やバイクを燃料満タンにして,ネパールに入国し,それを「ヤミ」に流せば,4~5倍のぼろ儲けとなる。やっていると見るのが自然だ。マデシ反政府派がインドからの入国車両・バイクを攻撃するのにも,それなりの理由がある。

一方,ネパールに正規に入ったガソリンについては,それがどれだけ「ヤミ」に流れているかは不明。だが,役得や「コネ」で入手したガソリンを転売すれば,それだけでぼろ儲け――あるいは恩を売ること――ができるのだから,相当量あっても不思議ではあるまい。

こうした「ヤミ」ガソリンは,ミネラルウォーター用容器で受け渡されることが少なくない。1本1リットル。ネパールのプラスチック容器は薄くて弱い。すぐ破れ漏れる。こんな危険な「ヤミ」ガソリンが出回ると,新聞が報道しているように,ときには引火し惨事となる。たしかに異常な事態だが,一方,それによって相当数の車やバイクが「自転車操業」的に動いていることもまた事実である。

このように,「ヤミ・コネ」経済は,不足している物資を,危険を伴いつつも,それなりに効率的に調達し,供給・分配している。高価な「ヤミ」価格でも,それを買える人々に売るという意味では,必ずしも資本主義に反するものではない。

いまの「非公式」経済封鎖のもとで,ネパール政府が,この「ヤミ・コネ」経済以上に効率的に石油を供給分配できるかどうか? 遺憾ながら,はなはだ疑問である。

151129b ■かまどで調理。干し米の油揚げ(食品名?)

151129a ■のどかではある風景(ラトナ公園前)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/29 at 18:08

カテゴリー: インド, 社会, 経済, 文化

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建て替え進むキルティプル

カトマンズ近郊で伝統的景観がまだ奇跡的に残っているキルティプルの丘でも,震災を機に,建て替えが進み始めた。老朽化に地震被害が追い打ちをかけたためである。

地震被害は,当然ながら,古い家屋に多い。しかし,地盤の良いキルティプルの丘では,地震被害はそれほど大きくはなかった。古い家屋でも,多くは破損部分の修理で十分使用し続けられるように見えた。ところが,残念なことに,現実には修繕使用ではなく,取り壊し・建て替えがあちこちで始まった。

キルティプルは,カトマンズ市内からも空港からも40~50分。しかも,カトマンズやパタンは街並みが急速に近現代化し,伝統的文化遺産としての魅力を失いつつある。

この状況は,キルティプルにとっては,またとないチャンスであるはずなのに,気位が高いのか,ここの人々は,自分たちの街を観光地として売り出そうとはしていない。惜しい。

むろん,これは余所者外国人の勝手な感傷に過ぎないが,それにしても,返す返す惜しい。

▼伝統的家屋
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▼崩壊家屋
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▼建て替え現場/新築家屋(古い家屋の両側)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/28 at 19:20

カテゴリー: 経済, 文化, 旅行

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鉄筋ふんだん,新築建物

地震崩壊に懲りたのか,カトマンズの新築建物には,素人目にも,ふんだんに鉄筋を使っていると思えるものが多い。とくに官庁系。

これは,キルティプル新庁舎建築現場。後方がキルティプルの丘。もともと地盤の良いところで,先の地震でも付近の建物には大きな被害はなかった。それでも,これほど鉄筋が林立している。新建築基準ではこうなるのかな?

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民間の建物は,これほどではないが,それでも以前に比べ,基礎はしっかりしているように見える。これは,雨後の筍のようなタメル・ジャタ地区の建築現場。

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谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2015/11/28 at 13:30

カテゴリー: 経済

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観光客、きわめて少ない

カトマンズの観光客は、見た限りでは、きわめて少ない。トレッキング客はそこそこ来ているが、旧王宮など一般的な観光地では、外国人観光客はチラホラ見かけるくらい。

11月は観光シーズンのはずだが、地震被害に加え、燃料不足が深刻化-長期化してるため、観光客に敬遠されているのだろう。観光業へのダメージが懸念される。

151124b151124a
 ■旧王宮は地元民ばかり/閑散としたキルティプル

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/25 at 01:20

カテゴリー: 経済, 旅行

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「公式」より難儀な「非公式」封鎖

タライ封鎖は「非公式」なものだそうだが、もしそうなら、それはインド政府の「公式」政策より何倍もたちが悪く、始末におえない。

もし「公式」なら、インド政府の「公式」決定により直ちに対ネ封鎖を解ける。が、もし「非公式」なら、意思決定主体が不明確で、誰が、どこで封鎖を煽っているのか、よく分からない。誰かが、どこかで封鎖を煽っているのだとすると、コントロール不能で暴動化したり、あるいはダラダラいつまでも続いたりしかねない。

さらに困ったことに、物質不足になると、儲ける輩が必ず出てくる。ガソリン1リットル350ルピー(400円)。それでも、手に入らない。はや、ヤミ商売大繁盛。コネはカネになる。

マデシの反憲法-反政府闘争は依然激しく、11月22日にはサプタリの衝突で警察が発砲、3人死亡した。ナショナリスト強硬派オリ政府は、軍動員の準備を始めた。暴動の拡大、長期化が懸念される。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/23 at 13:17

カテゴリー: インド, 経済, 民族

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安くて美味しくて楽しい、カトマンズ中華料理

カトマンズへの中国の加速度的進出に敬意を表し、ジャタ中華街へ一人で夕食に行った。

繁盛: どの店も、外から見たところ、客がよく入り繁盛している。そのような店の一つに入った。

美しい: 店内は広くて美しい。ランタンや大きな壷など、いかにもそれらしい派手な品々で満艦飾。

青年客多数: 最も驚いたのは、客のほとんどが若い青年男女だったこと。他の店の客も街の観光客も、中国人は若者が多い。老人ばかりの日本人とは好対照。

陽気で楽しい: 中国人客は若者中心だから、陽気で、見ているだけで楽しくなる。特筆すべきは、中国人店員。男性店員もそうだが、特に女性店員は笑顔でテキパキ働き、親切で、みな美しい。

安くて美味しい: 料理は、安くて美味しい。やや難なのは、一品が多すぎて食べ切れないこと。一人で行くと、困る。多人数で卓を囲み、ワイワイ、ガヤガヤ楽しく食べるのが中華料理かもしれないが、日本の淋しい老人客用にセットメニューを用意してほしい。

前途洋々: 中華街では、食堂も衣料-雑貨店もホテルも、みな元気。道路が改修され、鉄道が延伸されれば、カトマンズへの中国進出はさらに進むだろう。それでサービスが良くなれば、大歓迎。

151122a 151122b■美しい店内。机上チラシ注目!

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/22 at 12:26

カテゴリー: 経済, 文化, 中国

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平静に見える市内、燃料不足でも

石油、ガスなど、燃料不足は深刻そうだ。昨日、ジャタの食堂でモモと紅茶をたのんだら、燃料が無いので出来ないといわれ、コーラとパンを勧められた。バス、とりわけ郊外路線では、前回紹介したように、車内に入りきれない乗客が大勢、屋根の上に乗っている。雨期でないのが、せめてもの救いだ。

しかし、そうした状況でも、人びとはいたって平静だ。少なくとも、外からは、そう見える。日本ならパニックになり社会不安、政治不安は避けられそうにないのに、ネパールではそうはならない。人びとには、まだ危機に対する伝統的な対処能力が残っているのだろう。

日本では、石油危機のとき、トイレットペーパーが無くなるというウワサで、都市住民がパニックになり、買い占めに走った。トイレットペーパーなんかなくても、どうということはないのに、近現代的な市民は、そうした柔軟な思考ができない。環境変化に極めて弱い。現代の専制や独裁は、そうしたパニック心理から生まれる。

イザとなれば、食うことくらい何とかなるさ、といった柔軟な思考が、いま求められている。ネパールから学ぶことは少なくない。

151121c■ラトナ公園・警察署前

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/21 at 17:35

カトマンズの交通量、1/3~1/2

11月19日深夜、カトマンズ着。翌日、さっそく市内を見に行った。ラトナ公園周辺など、市中心部の交通量は、燃料不足のため、見たところ通常の1/3~1/2。車もバイクもスイス走っていた。排ガスが少なく歩くのに最適。

電動小型乗り合い三輪車(ツクツク)は、電動だからか、そこそこ走っていた。15ルピーと、安い。しかも、愛想のよい女性運転手が多い。石油不足は悪いことばかりではない。

その一方、人びとが移動に難儀していることは、屋根の上に乗客を乗せたバスが多数見られたことでも明らか。いつもだと、屋根に乗客を乗せたバスなど、市内ではほとんど見られない。やはり、燃料不足のため、バスの運行が大幅に間引かれているのだろう。

▼屋根上のバス乗客
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 ■シンハダーバー前。上方は最新ソーラー照明。

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 ■バスパーク。近郊・郊外行のほぼすべてのバス屋根上には乗客。

151121b■バグバザール。後方道路に車ほとんどなし。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/21 at 01:58

カテゴリー: その他, 社会, 経済

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中国からの石油輸入、価格は?

中国は、ネパール国内石油需要の1/3を中国から輸出することに合意しているが、問題は価格。

11月16日、GM.プン通商供給大臣がオリ首相書簡を携え訪中、価格交渉をした。中国側は市場価格での石油供給を約束したというが、ここには輸送費や精製費は含まれていないという。

中国側は、どこから、どのような手段で運ぶのだろう? トラック、それとも鉄道? あるいは、精製とは?  これらのことは、専門外でよく分からないが、おそらく安くはないのだろう。

それでも、もしそうした課題が解決され、覚書通り中国から石油が供給されるなら、ネパール国内の石油燃料の1/3は中国経由となる。また、そうなれば、他の物質もいま以上に大量に入り始めるだろう。

これは大きい。経済的にはむろんのこと、政治的にも文化的にも。

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 ■シンハダーバー(政府庁舎)前の給油待ち車両の列;給油所は前方バドラカリ寺院前。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/20 at 05:10

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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