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朝日社説の陸自スーダン派兵論(再掲)

朝日社説の陸自スーダン派兵論(再掲)
  1.陸自スーダン派兵
  2.軍国主義に傾く朝日新聞
  3.自衛隊の世界展開とPKO5原則
  4.「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻れ

【関連記事】
■スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
■海外派兵を煽る朝日社説
■良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/12/25 at 13:20

ガルトゥング「ネパールの危機」(再掲)

J・ガルトゥング氏のレポート「ネパールの危機:好機+危険」(2003年5月22日)を読んだ。4頁ほどの短文だが,ネパール・トランセンドの概略はつかめる。

1.ネパール・ワークショップ
ネパールでのトランセンドは,2002年7月,PATRIR/TRANSCENDによって始められ,全国へ展開され,その一環としてガルトゥング氏(G氏)も2003年5月16-20日,訪ネした。

2.8プログラムの実施
G氏の日程は,国家人権委員会(NHRC)により完璧に準備され,8プログラムが実施された。

No.1,7=リシケシ・シャハ記念講演。知識人,ネパール世界問題協会対象
No.2-6=主要当事者との対話。政党幹部,NHRC関係者,人権活動家,和平仲介者,政府要人,軍・警察幹部,政府和平交渉団,マオイスト和平交渉団。

3.直接暴力・構造的暴力・様子見
G氏によれば,紛争に対しては,大別すると,3つの態度がある。

(1)直接暴力を行使する党派
(2)構造的暴力の現状維持を図る党派
(3)「高貴な」,アパシーによる,あるいは無気力な様子見の多数派

4.M,K,TP
ネパール紛争の主要当事者は,マオイスト(M),国王=国軍(K),第三勢力(TP)の三者である。

G氏は,もしMとKの2者対立なら状況はいっそう悪かっただろうと考え,紛争解決への大きな役割を第三勢力のTPに期待する。

TP(Third Party)=主要政党(PP),市民社会(NGOなど),人民(People)

5.対話による平和
つまり,TPが一致協力して,MとKを交渉テーブルにつけ,Mとともに暫定政府を設立し,憲法を改正する。この方向に向け,人民(People)は街頭に出て圧力をかけ,また市民社会も強力に圧力をかける。Mには議会制民主主義を,Kには立憲君主制を宣言させる。

そして,MとKの兵士を武装解除し,彼らを保健衛生,学校・道路建設などの共同作業に就かせる。

以上が,停戦,対話,互譲,創造性の下に行われるなら,平和が実現する。

6.ネパール紛争の危険断層
G氏によれば,ネパールにはもともと紛争を引き起こす危険な断層が11カ所あった。

(1)資源枯渇,環境汚染,(2)ジェンダー差別,(3)青少年問題,(4)国王の政治権力,(5)国軍,(6)貧困,(7)少数派文化,(8)ダリット,(9)支配文化,(10)地域格差,(11)外国介入

G氏によれば,これらはすべて人権問題であり,いわゆる「マオイスト問題」ではない。したがって,それらには人権問題として取り組まなければならない。それには,以下のようなことが必要である。

・全党ラウンドテーブル,人権対話を組織し,停戦監視,人権実現を図る。
・スリランカのSarvodaya,インドのDevelopment Alternativesのような経験から学び,そうした活動を組織する。
・平和・人権のための大会議の設立。
・真実・和解のプロセスを進める。

7.いくつかの疑問
G氏のトランセンド提案は,包括的であり,試みるに値するものも多い。その反面,これを読んだだけでは,いくつかの疑問が残るのも事実だ。

(1)TPは平和勢力たり得るか?
G氏は,もしMとKだけなら,事態はもっと悪化していただろうと考えているが,私はむしろ逆だと思う。MとKの2項対立(G氏の最も嫌う構図)であれば,紛争は一方の勝利か両者の妥協でもっと早く解決していたのではないか。

私は,ネパール紛争を泥沼に引き込んだのはTPの無原則,無責任な行為だと考えている。

(2)「人民」の示威行動,市民社会の圧力は有効か?
G氏は,「人民」が街頭に出て圧力をかけ,また市民社会(NGO,労働組合など)が圧力をかけることにより,PP,M,Kを平和に導いていけると考えるが,私はそうではないと思う。

ネパール政治の病巣は,まさに街頭政治,圧力政治,つまり制度不信にある。これ以上,街頭政治,圧力政治に頼ったら,紛争はますます泥沼化し,収拾がつかなくなるだろう。

(3)人権問題か?
G氏は,「人権」を文化中立的,普遍的なものと考えているようだが,それは間違い。「人権」は,明らかに近代西洋的価値であり,ネパール伝統文化とは両立しない。

「人権」強要の痛みを考えず,それを普遍的価値としてネパールに押しつけようとしても,成功はしないだろうし,もし成功しても,それは文化的に望ましいこととは言い切れないと思う。

(4)分権は前進か?
G氏は,分権(devolution)や緩い連邦制(soft federation)を提案するが,それは近代国家を経た北側諸国の発想であり,ネパールには妥当しない。ネパールの課題は,むしろ強力な国家主権の確立である。

ネパールの悲劇は,国家権力が強すぎることにではなく,弱すぎることにある。

(5)母語教育の可能性?
母語教育は,本当に住民自身が望んでいるのか? それはむしろポストモダン西欧諸国のロマンチックな(はた迷惑な)失われた夢の強要であり,現実には少数派民族の差別強化,固定化になりはしないか?

(6)市民社会,NGOは機能するか?
G氏は,わずか5日間の訪ネ中に8つものプログラムが完璧に組織され,時間通り実施されたことにいたく感激されているが,これはセミナーがネパールでは効率的なイベントになっているからである。

その現状を見ると,NGOをさらに組織したり,会議を開催することにあまり多くは期待できない。NGO産業,セミナー興業が繁盛し,庶民には無縁の高級ホテルでの豪華パーティが増えるだけ。むしろ構造的暴力の拡大になるのではないか?

8.疑問を超えて
以上,あえてG氏のレポートへの疑問を述べたが,これはトランセンド法を否定したいがためではない。

ネパール紛争は10年もたつのに,他の方法ではこれを解決できなかったことは,歴然たる事実だ。トランセンド法についてはまだ読みかじった程度なので,まずは思うがままに疑問を提起し,これらを手がかりに,さらに学び,ネパール紛争へのトランセンド法の適用可能性を探っていきたいと思っている。

* Johan Galtung, The Crisis in Nepal: Opportunity + Danger, May 22, 2003. (Report to UNDP, Kathmandu and NHRC, Kathmandu)

(2006/04/03掲載)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/02/15 at 11:14

ポカレル前副首相の長崎講演会(1/28)記事

Written by Tanigawa

2013/02/15 at 10:49

カテゴリー: 平和

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ポカレル前副首相講演: 憲法政治学研究会

130127a ■会場:同志社大学

130127c ■講演会

130127b 130127d
 ■カドガ.KC氏(左)とポカレル氏(右) / バッタライ大使(左)とBN.アディカリ氏

130127p  ■京都新聞1月28日

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憲法・政治学研究会 第542回例会

日時:1月27日(日)午後1時-5時
会場:同志社大学 今出川キャンパス 寧静館5階会議室(Tel:075-251-3120)

講演1:Ishwor Pokharel(ネパール前副首相兼外相)
    「ネパールの平和と民主化への道」
講演2:上田勝美(龍谷大学名誉教授)
    「日本の平和憲法と民主主義」

コーディネート・通訳:Khadga KC
   (トリブヴァン大学政治学部准教授、京都大学ASAFAS研究フェロー)
   谷川昌幸(元長崎大学教授)

主催:憲法・政治学研究会/憲法研究所
http://www.wld-peace.com/kenpo/kenpo.htm

Written by Tanigawa

2013/01/27 at 00:43

カテゴリー: 憲法, 政党

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憲法・政治学研究会:ネパールと日本の平和と民主主義

「ネパールの平和と民主化への道」 イシュワル・ポカレル(ネパール前副首相)
「日本の平和憲法と民主主義の課題」 上田勝美(龍谷大学名誉教授)

日時:1月27日(日)13:00-17:00
場所:同志社大学今出川キャンパス「寧静館」5階会議室
   地下鉄烏丸線「今出川」下車、電話:075-251-3120

主催:憲法・政治学研究会/憲法研究所

■参加費無料。ご来聴歓迎。

Written by Tanigawa

2013/01/09 at 11:36

カテゴリー: 平和, 憲法, 民主主義

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軍民協力に前のめり,PWJ

朝日新聞(7月20日)耕論「PKOあれから20年」に,ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の石川雄史氏のインタビュー記事が出ている。石川氏は,JICA専門家等を経てPWJ南スーダン現地事業責任者。(他のインタビューは,川端清隆国連政務官(安保理担当)と高村正彦元外相・防衛相)

この耕論インタビューにおいて,石川氏は自衛隊南スーダン派遣を高く評価し,自衛隊とNGOとの協力,つまり軍民協力(民軍協力)の積極的推進を提唱されている。

「今年初め、自衛隊の施設部隊が首都のジュバに入りました。少人数で活動する私たちNGOと違い、300人以上の部隊はやはり存在感があります。彼らは情報を求め、現地で活動してきた日本のNGOと、積極的に交流しています。・・・・様々な制約を抱える自衛隊が、さらに地域に根ざした活動をしようとする際には、私たちNGOとの連携もぜひ、前向きに模索していただきたい。今後のPKOでは、NGOとの連携で国益確保する道もあると思うのです。」

これは驚くべき発言だ。自衛隊南スーダン派遣は,憲法違反であり,自衛隊自身も消極的であった。内陸深くの南スーダンに,はるばる日本から軍隊を送り込み,道路や橋などを建設することに,何の意味があるのか? 補給をどうするのか? 戦死者が出たら,どうするのか?

自衛隊南スーダン派遣は,当事者の自衛隊のこのもっともな合理的な反対を無視し,外務省が「安全保障の素人」一川防衛大臣や迷走田中防衛大臣を利用し,ゴリ押ししたのだ。

その自衛隊南スーダン派遣を,PWJは積極的に評価し,しかもNGOとの連携で自衛隊は「国益確保」を目指せという。かつては日本政府を厳しく批判したこともあるPWJ=平和の風・日本だが,最近は,風向きがかなり変わったようだ。

すでにPWJは,ハイチにおける自衛隊協力について,軍民協力の先駆けとなるものとして,外務省や防衛省・自衛隊から高く評価されている。

「10年12月、わが国の非政府組織(NGO)であるピースウィンズ・ジャパンと連携し、瓦礫とゴミの山となっていた地域に公園を造るため、自衛隊部隊が敷地の整地を行った。・・・・国際平和協力活動でのわが国のNGOとの連携は自衛隊にとって初めてのことであった・・・・。・・・・NGOとの連携などは新防衛大綱で示された方針にも合致しており、今後とも、ハイチでの活動をより効果的なものとすべく様々な活動に取り組んでいくこととしている。」(防衛白書2011「ハイチにおける自衛隊の活動について」

このような軍民協力は,NGOだけの問題ではない。防衛省・自衛隊がいまNGOと並んで主要ターゲットとしているのが,大学である。大阪大,神戸大,広島大,慶応大など,多くの大学が,NGOも取り込みながら,軍学協力に向かって突っ走っている。

そして,ここにはなぜか日本財団・笹川平和財団が深くコミットしている。たとえば,平和構築フォーラム参照。また,軍学協力については,【政治の動向】軍民分離から軍民協力へ,参照。

しかし,NGOや大学が軍隊と共同作戦を展開し,国益を追求するのは,あまりにも危険ではないか? カネと権限をもつのは国家である。そして,「暴力装置としての国家」の暴力の中核はいうまでもなく軍隊=自衛隊である。そのような軍隊との「協力」や「連携」など,本当にあり得るのか? 「民軍協力」「民軍連携」などという甘言に釣られ,協力を始めると,いずれ「軍民協力」となり,結局は軍隊の下働きとなってしまうのではないだろうか?

NGOは非政府(非国家)組織であり,定義上からも,政府や国家と一線を画するところに存在意義がある。大学も,もともと独立した学問共同体であり,国家や企業の下働きではない。即戦力養成,役に立つ授業ほど,大学の理念から遠いものはない。

そうしたものであるはずのNGOや大学が,たとえ背に腹は代えられぬという切実な事情があるにせよ,よりにもよって軍隊と協力をするのは,少し長い目で見ると,自殺行為であるといわざるをえない。

【参照】 
2011/11/02 朝日社説の陸自スーダン派兵論
2009/09/22 自衛隊海外派遣:「民軍協力」から「軍民協力」へ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/20 at 19:16

カテゴリー: 平和

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人民解放軍,除隊開始

1.人民解放軍の除隊手続開始
全国の駐屯地(cantonment)に収容されている人民解放軍(PLA)戦闘員の除隊手続が,2月3日から始まった。平和構築への一歩前進である。

今回の除隊は,社会復帰希望者7365人が対象。(国軍統合希望者は9705人。) 除隊手当として,1人当たり50~80万ルピーと帰郷旅費が支給される。ただし,今回支給は半額で,残りは次年度支給となる。

2.ネパール式交渉術の妙
この除隊開始は,高く評価できる。いかにもネパールらしく,駐屯地収容から5年もかかったが,その間,ネパール式交渉術で少しずつ利害を摺り合わせていき,3日の除隊開始にこぎつけた。PLA戦闘員たちは,劣悪な駐屯地で5年間もよく頑張ったものだ。

3.除隊後の不安
しかし,その一方,心配も尽きない。除隊マオイストの多くはとりあえず故郷に帰るのだろうが,果たして受け容れられるだろうか? もっぱら他の村で「外人部隊」として暴れていたのなら比較的安全だが,もし出身地で闘っていたのなら,敵も多いはずだ。

また,除隊給付金50~80万ルピーは大金だが,村に仕事があるわけはない。もし10年前後も人民戦争に明け暮れていたのなら,戦争以外の知識も技能もないわけで,そのような人々が社会生活にすんなり適応できるはずがない。支給金など,すぐ使い果たし,生活できなくなってしまうだろう。

もっと不安なのが,かなりいるとされる傷痍軍人。特別プログラムでも組まないと,除隊後,たちまち生活に困る。その不安から,彼らは駐屯地内で特別プログラム要求闘争を始めた。しかし,弱者ゆえ,彼らの要求は無視されてしまいそうである。

4.国軍統合への展望
国軍統合を希望している残りの9705人についても,展望ははっきりしない。11月1日の「7項目合意」では6500人統合となっており,3千人もあぶれる。

いずれにせよ,特別部隊を編成しての統合になるのだろうが,指揮系統もPLA出身者の処遇もまだはっきりしていない。国軍統合には,もう少し時間がかかりそうだ。

5.PLA兵卒は利用されただけか?
いまマオイストが,政官財で「美味しい果実」を手に入れた勝ち組と,わずかな支給金でお払い箱になったり「国土建設警備隊」のような部隊に兵卒として組み込まれたりする負け組とに,二分化しつつあることは確かだ。負け組は,当然,勝ち組を非難する。

「われらの犠牲は金に換えられた。この日のために革命に参加したのではない」(チトワン除隊戦闘員)
「多くの同志が戦いの中で生命を犠牲にし手足を失った。そして,いま私たちは家畜のように売られていく」(Nabin BC)

多くのPLA戦闘員にとって,これは偽らざる心境であろう。英雄は,兵卒の血と汗と涙を糧に名声を高め,地位と富を得,死後に像を残す。歴史とは,結局,そのようなものなのだ。
* ekantipur, 2-4 Feb.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/05 at 22:15

軍学連携――軍民分離から軍民協力へ

長崎大学
講演会「日本の平和を守る自衛隊の使命とは」

 教育学部中庭の講演会案内

大阪大学
自衛隊大阪地方協力本部と大阪大学大学院国際公共政策研究科(OSIPP)との共催により実施している「国際安全保障ワークショップ」

 参加院生・自衛官(自衛隊HPより)

 豊中キャンパス(自衛隊HPより)

神戸大学
大学と自衛隊(神戸新聞 2002.12.6)
神戸大学の学生と自衛隊員が十一月、安全保障をテーマに「共同研究」を行った。講義は大学の外で、学生にさえ事前に場所を知らせることなく開かれた。「自衛官が同席することで現実的で緊張感のある議論ができる」と、大学の担当教官は教育的な意義を強調する。一方、市民グループや一部の学生は抗議を表明、評価は大きく分かれた。

慶応大学
自衛隊が大学で「講義」(しんぶん赤旗2002.8.8)
東京の慶応大学では六月十六日、総合政策学部の小島朋之教授(学部長)の研究会、同阿川尚之教授の研究会、同草野厚教授の研究会、経済学部の島田晴雄教授の研究会に属する学生五十六人が小島、阿川、島田の三教授と海上自衛隊・厚木基地で「大学生と自衛官の安全保障ゼミ」を開催。P3C哨戒機に体験搭乗し、安全保障に関する討論会を行いました。

SDM特別講義 日本の国家安全保障の体系(2011年度春学期)
[講師]大谷康雄 航空自衛隊幹部学校戦略教官,1等空佐,SDM研究所研究員
     千川一司 航空自衛隊幹部学校戦略教官,2等空佐 

九州大学
人工降雨実験

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/12/17 at 12:54

ルンビニと国連と憲法,プラチャンダの凄腕

1.ルンビニ国際会議,3月開催
プラチャンダ(マオイスト議長,ルンビニ開発国家調整委員会議長)は,ルンビニ開発国際会議を2012年3月,ルンビニで開催することにした。招待予定は,16仏教国元首と仏教高僧,そしてパン・ギムン国連事務総長。日本は招待されるのかな?

2.憲法制定と国連関与の高等戦術
ここで興味深いのが,パン事務総長が憲法制定を出席の条件にしていること。ルンビニ会議までに憲法草案が成立していなければ出席しない,成立しておれば出席する。つまり,パン事務総長としては,国連関与で新憲法制定・平和再建にめどをつけたという実績をルンビニで世界に向け誇示したいわけだ。

【憲法制定予定日程】
  憲法第1草案完成 2月13-27日
  憲法案完成    4月20日-5月20日
  新憲法可決・公布 5月21-27日

これだけ見ると,いかにも国連が主導権を握っているようだが,しかしもう少し子細に見ると,イニシアチブはむしろプラチャンダの方にあるように思われる。プラチャンダは,対内的にはルンビニ開発の巨大利権をエサに,マオイスト主導による新憲法制定を認めなければ,国連事務総長が訪ネせず,ルンビニ開発もパーになる,と圧力をかけている。そして,対外的には,国連が新憲法制定・ルンビニ開発に協力しないと,これまでの平和構築努力が全部パーになり,責任は免れないと脅す。弱者の強みだ。

プラチャンダは,国連と国内諸党を手玉に取っている,あるいは,取ろうとしている。恐るべき凄腕だ。

 札束踊るルンビニのプラチャンダ(Telegraph,Dec7)

3.プラチャンダの掌中の仏教
いや,そればかりではない。プラチャンダは,ヒンドゥー教最高位カーストのブラーマン(バラモン)であるにもかかわらず,仏教を賛美し,そうすることにより仏教を手玉に取り,政治的・経済的に仏教を利用し尽くそうとしている。

来年3月のルンビニ国際会議には,16仏教国元首と仏教高僧を招き,仏教を称え,キリスト教徒の国連事務総長さえも仏様に拝跪させようとたくらんでいるのだ。

もちろん,国連にも中印韓米にも,それぞれの思惑があるのだろう。中国は,反チベット派仏教高僧を送り込めば大成功。またラサ=加徳満都=ルンビニ鉄道利権もある。韓国には,パン事務総長と連携したルンビニ大開発利権がある。米印には,ルンビニ開発関与による中国牽制,等々。

プラチャンダは,それら全部を計算に入れた上で,目的合理的に動いている。いまや世界的政治家だ。

4.カヤの外の日本
この華やかなプラチャンダ外交・国連政治のカヤの外に置かれ,悲哀を託つのが,落日のわが日本国。

ルンビニ開発国家調整委員会は12月2日,関係諸国・諸機関と協議したが,報道によると,招かれたのはインド・中国・韓国の大使と,世界銀行・ユネスコの代表だけ。日本は,国家としては,完全に無視され,カヤの外。

来年3月のルンビニ国際会議に招かれる16仏教国の中にも,ひょっとしたら日本は入れてもらえないかもしれない。世界に冠たる仏教大国なのに。

もちろん,仏教の政治的利用に反対し,日本自ら毅然として参加拒否するのであれば,それは潔く立派な態度である。それであれば,私は,仏教徒として,日本国政府を断固支持する。

* ekantipur, Dec.6.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/12/07 at 11:34

和平7項目合意成立,プラチャンダの決断

1.プラチャンダの決断
最終的和平のための「7項目合意」が11月1日,マオイスト,コングレス,統一共産党,マデシ連合の間で成立し,和平交渉は大きく前進した。決断したのは,やはりわれらが英雄プラチャンダ議長であった。マオイスト内強硬派の反対を押し切り,大幅譲歩で,合意に達したのだ。

2.7項目合意
(1)人民解放軍(PLA)戦闘員の統合と社会復帰
 ・戦闘員の現況確認。
 ・国軍統合は,6500人以内。
 ・PLAを統合する部隊(Directrate)の兵員は,65%が国軍,35%がPLA。
 ・部隊は,開発建設,森林保全,産業保安,災害危機管理を担当。
 ・国軍統合PLA戦闘員は,治安要員資格基準を満たすこと。ただし,年齢(3歳以内),教育(1年以内),婚姻については柔軟に適用。
 ・国軍統合後の地位は,治安機関基準による。ただし,国軍将兵の昇進の不利とならないようにする。(ポストを増やすということか?)
 ・国軍統合期日は,UNMIN資格審査日とする。
 ・保管庫の武器は,政府所有となる。

(2)社会復帰
 ・社会復帰希望者には,1人当たり60-90万ルピー相当の復帰支援。教育,職業訓練など。
 ・復帰支援プログラムではなく現金希望者には,現金を支給。
   第1ランク:80万ルピー
   第2ランク:70万ルピー
   第3ランク:60万ルピー
   第4ランク:50万ルピー

(3)国軍統合と社会復帰への振り分け
 ・国軍統合組と社会復帰組への振り分けは,特別委員会の下で,11月23日までに完了。

(4)各種委員会
 ・真実和解委員会(TRC)と行方不明者調査委員会を1月以内に設立。
 ・紛争時の係争事件の審査。

(5)紛争被害者の救済
 ・被害者救済パッケージの提供。

(6)過去の諸協定の実行と信頼構築
 ・マオイストは没収財産を11月23日までに返却。損害は賠償。
 ・農民の権利保障。科学的土地改革の実行。
 ・YCLの軍事組織の解体。YCL没収財産は,11月23日までに返却。
 ・交通省登録のマオイスト使用車両は,11月23日までに再審査。無登録車は没収。
 ・地方行政機関が,没収財産返却を監視。政党はこれに協力する。

(7)憲法起草と挙国政府の組織
 ・平和プロセス完成のため,高レベル政治機構を設置。
 ・新憲法の早期起草。国家再構築のための専門家委員会を直ちに制憲議会内に設置。
 ・以上のプロセス開始後,直ちに挙国政府の組織に着手。

3.プラチャンダの譲歩とマオイスト分裂の危機
以上の「7項目合意」は,なかなか意欲的なものである。バイダ副議長らの強硬派の激しい反対を抑え,大幅譲歩をプラチャンダ議長が決断することによって,この合意は実現した。

むろん大幅譲歩といっても,宿営所収容の正規戦闘員は,まだよい。切り捨てられたのは,YCLや地方の活動家らである。YCLは組織の民主化(戦闘組織の解体)を迫られ,地方活動家らは没収財産返却と損害賠償を要求されている。こんなことが,本当にできるのであろうか?

バイダ副議長やRB・タパ書記長らの強硬派は,これに大反対である。バイダ副議長によれば,「この合意は,人民と国家への裏切りである」。

こうした革命の上前ハネは,歴史の常だし,ネパールでも何回も繰り返されてきたことだ。既視感をぬぐえない。

マオイストは,この合意が実行されれば,おそらく分裂する。バイダ派は,革命の成果を食い逃げされた大多数の貧困農民・労働者と共に,新人民戦争に向かうであろう。

* ekantipur, Nov2; Nepali Times, Nov2; Himalayan Times, Nov2; Republica, Nov2.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/02 at 17:51