ネパール評論

ネパール研究会

Posts Tagged ‘原発

京都の米軍基地(39):二重の危険にさらされる住民

京都の住民は,米軍Xバンドレーダーの危険に加え,福井原発事故被曝の危険にもさらされている。

これを改めて思い知らされたのが,兵庫県発表(4月24日)の「放射性物質拡散シミュレーションの結果について」。福井原発事故による放射性物資の拡散がこれだけ遠くにまで及ぶとすれば,京丹後市(印)はむろんのこと京都市(印)ですら深刻な被曝の危険にさらされていることになる。

そこで不思議なのは,京丹後市や京都市・京都府が原発廃止に回らないばかりか,原発再稼働の場合の危険性を深刻に受け止め,地域住民避難の準備や訓練を十分にやっているようにも見えないこと。まぁ,さもありなん――京丹後市長や京都府知事には,はるか彼方の「国益」の方が大切なのだから。

140425c140425d
 ■兵庫県シミュレーション

140425b140425a
 ■舞鶴市避難計画/京都市対応計画
 
[参考資料]
・兵庫県「放射性物質拡散シミュレーションの結果について」2014年4月
・「京都市原子力発電所事故対応暫定計画」平成24年4月
・「舞鶴市原子力災害住民避難計画」平成25年3月
福井原発関連記事

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/04/25 at 20:37

必見! 放医研啓発ビデオ

放射線医学総合研究所(放医研)の啓発ビデオを観た。スゴイ! 全国民,いや全世界人民必見の傑作だ。
 ▼放射線の知識と教養
  放射線の知識と教養 一般向け(6分01秒)
  ぼくはほうしゃせん 児童向け(字幕なし)(2分51秒)
  ぼくはほうしゃせん 児童向け(字幕付き)(2分51秒)

朝日新聞「放医研の啓発ビデオ,内容スカスカ 2890万円返還」(2013年10月23日)によれば,放医研は1時間番組を業者に発注したが納入作品は12分。これを会計検査院に指摘され,放医研は2890万円を文科省に返金したという。もし会計検査院の指摘がなければ,「内容スカスカ」啓発ビデオで血税丸損となっていたであろう。業者丸儲けの方がどうなったかは,不明。

1.産総研「事故防止動画」批判
このトンデモ啓発ビデオのことを知ったのは,実は,今日の日経新聞(ネット版)記事によってである。
 ▼鶴野充茂「100本作って反応なし! お粗末 「子ども事故防止」サイト」日経ビジネス2014年1月10日

日経は,シビアな金儲けが専門だから,中立と良心の一般紙よりも分析が客観的で鋭いときが少なくない。この鶴野氏の記事もその一例。

記事によれば,産業技術総合研究所(産総研)が幼児事故防止動画100本を制作しネット公開したが,「あまりにもお粗末すぎて涙が出」たという。「1本目で唖然とし、2本目で落胆し、3本目でそれ以上見る意味を見いだせなくなったのです。」
 ▼キッズデザインの輪 
たしかに,これはヒドイ。あまりに出来が悪く,いかに子供が心配でも,観る気にはならない。

140110a 140110d
 ■産総研動画 家庭内事故事例

2.放医研「啓発ビデオ」批判
そして,これを受け,もう一つの事例として鶴野氏が紹介しているのが,上述の朝日記事「放医研の啓発ビデオ」だ。

「国内のIT現場ははるかに進んでいるのに、啓発する側の意識が遅れすぎていて、まったく活かせていない。・・・・記事のタイトル(放医研の啓発ビデオ,内容スカスカ)も刺激的ですが、中身を見れば、さらに衝撃的です。/ 確かに内容はスカスカ。この動画1つをとって見てみても、動画で言っていることは、「放射線は昔から身の回りにある」「医療などにも使われている」くらいのことしかありません。6分も使った動画にする意味も価値もないのです。」

140110c 140110b
 ■放医研ビデオ 一般向け/児童向け

3.日経リアリズム
要するに,放医研啓発ビデオは,あまりにもお粗末で毒にも薬にもならないということ,逆に言えば,国民啓発は多少危険でも薬効のあるものにせよ,ということだ。鶴野氏はこう主張されている。

「啓発で効果の期待できるものとは、興味のある人の理解を深めてもらうものではなくて、興味のない人にも興味を持ってもらい、さらに行動を促すことのできるものです。寝ている子も起こす力が必要なんです。」

これこそ,まさしく日経リアリズム。原発については,日経は反対ではあるまい。鶴野氏ご自身のお立場はよく分からないが,この文脈での発言から見る限り,おそらく原発についても反対ではあるまい。この文脈で「寝た子を起こす」ような魅力的な啓発を主張されるのは,国民を正しく啓蒙すれば,必ずや放射線について,ひいては原発推進への理解が得られるという趣旨であろう。(目的は何であれ,啓発の効果だけを問題にされている可能性もあるにはあるが。)

4.リアリストとの対決
反原発派にとって,最も手強い論敵は,日経のような本物の確信的リアリストである。反原発派は,このような論敵と真正面から対峙する一方,その論敵からすらも批判されている「放医研啓発ビデオ」のたぐいはツイッターやフェイスブックで広く拡散し,もって日本の政官財界の「文化レベル」「知的レベル」を世界に知らしめ,そのような国で原発多数を稼働させることの危険性を世界に訴えかけるべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/10 at 18:18

カテゴリー: 情報 IT

Tagged with , , , , ,

京都の米軍基地(18):Xバンドレーダー受け入れ表明

京都府知事と京丹後市長が,予定通り,すんなりと米軍Xバンドレーダーの経ヶ岬配備を受け入れた。抵抗らしい抵抗もなく,めぼしい補助事業もない。米軍=防衛省=米日軍事産業にとっては,赤子の手をひねるより簡単。楽勝。安上がりで済みそうだ。これが,かつての都,京都の現状なのだ。

1.お願いの倍返し
京丹後市広報や新聞各紙(9月10-11日)によれば,9月10日,山田・京都府知事と中山・京丹後市長が小野寺防衛相と面会し,京都府知事要請書「米軍TPY-2レーダー配備に係る確認・要請事項」と京丹後市長要請書「米軍のTPY-2レーダーの追加配備について」を手渡した。そして,これを受け取った防衛相は「政府として責任をもって対応する」と回答した。知事は,これを「安全確保など政府の責任で対応する約束をもらった」と評価し,記者会見で受け入れ方針を表明した(朝日9月11日)。正式表明は9月17日の定例府議会において。

しかし,日本政府が米軍に対し「お願い」はできても,重要な事案については規制らしい規制はできないことは,沖縄を見るまでもなく,周知の事実である。京都府と京丹後市は,日本政府に対し「米軍へのお願い」を「日本政府にお願い」したにすぎない。「お願い」の倍返しだ。

2.Xバンドレーダー体制と秘密保護法
ここで改めて思い起こすべきは,Xバンドレーダー配備は単なる武器と軍人・軍属の配備ではないということ。それは,より正確には,京丹後市を「Xバンドレーダー体制」のもとに置くということを意味する。

いま安倍内閣は「特定秘密保護法」の制定を急いでいる。朝日新聞によれば,その概要は次の通り。
 ————————
特定秘密保護法案
 (1)防衛(2)外交(3)外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止(4)テロ活動の防止――の4分野について、行政機関の長が指定した「特定秘密」を漏らした場合に、刑事罰が科される。最長は懲役10年。公務員だけでなく、特定秘密の提供を受けた国会議員、特定秘密を取り扱う業者、これを漏らすよう促した人など民間人も対象となる可能性がある。(朝日9月11日)
————————

これは,京丹後市「Xバンドレーダー体制」にとっては,まさに願ったり叶ったり,鬼に金棒。もし“経ヶ岬Xバンドレーダーの出力は○○KW”などという「特定秘密」を某国や某々国の人に,いやたとえ日本の友人・知人にであれ,知らせたなら,「特定秘密漏洩罪」により逮捕され,懲役10年にされてしまう恐れがある。

山田知事は,警官増員や派出所増設を国に要請したが,これも,本当は,公安関係機関と協力し,近隣住民を監視させるのが隠された真の目的。しかし,それもしばらくの間。「特定秘密保護法」が成立すれば,もはやそんな遠慮はいらない。政府は増派された警官を存分に動員し,公然と住民を監視することができる。

3.原発とXバンドレーダーとオスプレイ
さらに警戒を要するのが,オスプレイの饗庭野演習場(滋賀県高島市)での演習。米軍は目的合理的であり,たまたま饗庭野を選んだのではない。地図を見ると分かるように,饗場野は一群の福井原発のすぐ近く。そして,まもなく経ヶ岬にXバンドレーダーも配備される。いずれもテロ攻撃目標。オスプレイは,それらの防衛のため,饗庭野で訓練すると考えるべきだ。

原発防衛のためなら,原発の上や近辺を飛ぶ。落ちるかもしれないが,そんなことは米軍の知ったことではない。

そして,京丹後。Xバンドレーダーは,某国や某々国の情報活動の重要ターゲットとなり,またテロ攻撃の目標ともなる。所有主の米軍は,当然,これを守るため最善の努力をする。その一環としてオスプレイを飛ばすことは十分にあり得ることだ。丹後住民は,いずれ低空飛行のオスプレイに脅かされながら生活することを余儀なくされるであろう。

4.滅私奉公こそ「国益」
それもこれも,お国のため。滅私奉公こそ「国益」。「国益」とは,所詮,そんなものなのだ。

130911a
■右下赤塗り=饗庭野演習場,赤星=経ヶ岬Xバンドレーダー,海岸赤印=原発(Google)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/11 at 15:24

京都の米軍基地(12):早期受け入れ要請

7月11日,京丹後市議会議員が,市長に対し,米軍Xバンドレーダー基地受け入れ要請を提出した。議員総数22名のうちの,清風クラブ9名,丹政会4名,雄飛会2名,無会派2名の計17名。(米軍X バンド・レーダー配備受け入れについてpdf)

———————————————————————————————-

京丹後市長 中山泰 様 

平成25年7 月11日

(清風クラブ代表)吉岡和信,(丹政会代表)三崎政直
(雄飛会代表)吉岡豊和,(無会派) 足達昌久,松本聖司

米軍X バンド・レーダー配備受け入れについて

近年、北朝鮮の長距離弾道ミサイル実験や、周辺諸国による我が国固有の領土・領海への侵入行為などにより、我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。そのような中、ミサイル防衛の強化を目的に、日米両政府によって米軍Xバンド・レーダー追加配備計画が合意された。その後平成25年2 月26日には防衛事務次官が市役所を訪れ、経ヶ岬分屯基地を最優先候補地として検討・調整したい旨の申し入れがあった。

京丹後市民にとっては突然の出来事でもあり、市民の中に戸惑いや不安の声が広がったことについては理解できるものがある。

議会としては基地対策調査特別委員会を設置し、青森県つがる市への視察等を行うとともに、議員全員協議会を3回開催し、防衛省から説明を受け質疑を行ってきた。また、市としても市民説明会を市内各地域で行うとともに、防衛省へ質問状を送り、その都度回答を得てきたところである。

今般、市から各会派及び無会派議員に対し、Xバンド・レーダー配備計画について意向の問い掛けを受ける中で、我々は、市民の中にある不安や戸惑いの声に留意し、十分配慮しながらも、我が国を取り巻く国際情勢や日米両政府の合意の重み、過度な沖縄の基地負担などを考えた場合、市民の安心・安全の確保を前提に、京丹後市へのXバンド・レーダー配備はやむを得ないものと考えている。

我々は市に対し、下記の事項を付記し、いたずらに時間をかけることなく、Xバンド・レーダー配備受け入れに向けて総合判断して頂くことを求める。

1、国に対し、市民の安心・安全の確保について、万全の対策を講じるよう求めること。
2、国に対し、日米地位協定の運用の課題等について、日米両政府において引き続き見直しの検討を進めるよう求めること。
3、国に対し、民生安定事業等について、地元の不安の声に十分配慮するとともに、事業の拡大を求めること。

以上


—————————————————————————————–

多少の留保はあれ,これは事実上,地元からの積極的な米軍基地設置要請とみてよいだろう(下記市議会構成参照)。これで丹後の人びとは,福井原発からの安全に加え,米軍基地からの安全にも,細心の注意を払わざるをえなくなる。

原発は都市のため,Xバンドレーダーは米国のため。しかも,原発も米軍も核心部分は不明。その正体不明のものから身を守る!? --丹後の人びとは,抽象的な日本国家やはるかかなたの米国ではなく,自分と家族と近隣の人びとの身近で具体的で切実な安全を守るには,これから先,どうすればよいのだろうか? 

京丹後市議会(22名)の構成
清風クラブ(9)◎吉岡和信,金田琮仁,谷口雅昭,中村雅,芳賀裕治,藤田太,堀一郎,松本経一,由利敏雄
丹政会(4)◎三崎政直,池田惠一,谷津伸幸,和田正幸
日本共産党(4)◎森勝,田中邦生,橋本まり子,平林智江美
雄飛会(2)◎吉岡豊和,川村博茂
無会派(3)足達昌久,岡田修,松本聖司

参考資料(2013.7.19追加)】金田そうじんのフルスイングレポート
「・・・・20代、30代の若い人達から、「金田さん、レーダーいいですよねえ」と、切り出されたので、少し驚いて「どう思う?」 と返したところ、口ぐちに 「賛成です」 との意見でした。
日本の国防はアメリカとの日米安全保障条約のもとで衛られている、それがだめなら日本が自ら、防衛費を増やし軍備を整える、場合によっては核武装も視野に、、、以外なことばも出てきました。
「ただ(無料)で平和は得られない、 戦後の日本は日米安保条約によって国の防衛に〝お金と気〝 を使わなくてよかったから、世界が驚く程のスピードで経済発展をした」 
私もこの考えを持っている者の一人だ、との話をしたり、と、大いにしゃべり合いました。私は、若い人達も国の安全保障について、それぞれの思いを持っていることに、たくましさを感じました。・・・・」(地域のみなさんとの懇談からの 思い 『Xバンド・レーダー』より)

参考資料(2013.7.19追加)】 米軍基地設置反対派のビラ
130719

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/17 at 14:55

京都の米軍基地(6):廃校と高速道路と基地

1.少子高齢化と米軍基地
京都・経ヶ岬への米軍Xバンドレーダー基地新設が,丹後の過疎化・少子高齢化を背景にしていることは,いうまでもない。村々では,子供や青年が減り,サルやシカやイノシシやクマやタヌキやイタチなどが激増した。田畑はすべて,周囲をぐるりと網や電気柵で囲っているが,それでも防ぎきれない。高齢農民にとって,たいへんな作業だし,経費もかさむ。また,沿岸の漁業も老齢化とともに継続が困難になってきている。丹後の農村・漁村は,崩壊の危機にある。

そこに米軍基地だ。当然,補助金がついてくる。京丹後市は2004年4月,広域合併し,豪華な庁舎や会館など様々な施設を造ってきた。首が回らないはずだ。そこに米軍基地。関係自治体は,はや何を,どれだけ分捕るか,条件闘争に入った感がある。

130610j 130610k ■丹後半島のバス停と時刻表: 冬期は1往復(5/31)

2.森本ICと大宮第三小学校
丹後半島の道路建設ラッシュについては,すでに紹介した。これと関係すると思われるのが,京都縦貫自動車道の建設。計画そのものは,かなり前からあり,京都市から府北部に延伸されてきてはいたが,その先端がいま,京丹後市森本まで達している。地理的には,丹後半島の真ん中の入口だ。

森本は,戸数わずかの小さな村。そこに「森本インターチェンジ」が造られている。しかも,そのほんの数キロ先には,「与謝IC」がある。あまりにも不自然。決して認めないだろうが,米軍基地を想定しているとしか思えない。

130610a ■森本IC工事(5/30)

この付近の少子高齢化がいかにすさまじいかは,建設中の「森本IC」から1,2キロ先の「大宮第三小学校」をみると,よくわかる。

この学校は,1980年,周辺のいくつかの小学校を統合し,新設された。何クラスあったのか分からないが,大きな校舎であり,広いグラウンドとプール,それにスキーゲレンデさえも備えていた。校舎はまだピカピカ。登校口には,生徒の「人権標語」ポスターが掲げられている。それなのに,今年3月,廃校にされてしまった。大きな美しい校舎を見ると,廃校の「哀愁」よりも,むしろ「無惨」の感を禁じ得ない。

たった33年。合併前の大宮町は,わずか1世代後の生徒数すら予測できなかったのか? すさまじい少子化。そして,それ故の,この莫大な無駄遣い。

130610f 130610b
 ■校門と校舎正面(5/30) / 閉校記念碑(5/30)

130610c ■校舎と校庭(5/30)

130610e 130610d
 ■プールとスキーゲレンデ(5/30) / 児童標語の掲示(5/30)

3.朝妻小学校
このようなことは,他にもある。たまたま目にしたのは,伊根の「朝妻小学校」。これも大きな立派な校舎だが,2005年3月に廃校。何年竣工か掲示は見あたらなかったが,まだ新しく,生徒さえいれば何十年後,いや百年後でも十分に使える。それなのに,廃校とされ,ほとんど使用されない状態で放置されている。無惨。廃校のロマンは,みじんもない。これも莫大な無駄づかい。

130610i ■校舎正面(5/31) 

130610h 130610g
 ■校庭と校舎(5/31) / 閉校記念碑(5/31)

4.地域エゴに徹する
米軍基地は,この少子高齢化,廃校,耕作放棄,動物天国の丹後に造られる。関連事業,補助金がゾロゾロついてくる。呼び水だけで,もう地元は浮き足立っている。関連自治体・議会が,早々と受け入れ条件闘争に入ったのは,その限りでは当然といえよう。

都市住民は,原発も公害企業も地方に押しつけ,ときたまファッションとして,豪華バスを仕立て,地方に反原発・反公害デモに繰り出すだけ。米軍基地反対も同じこと。気楽なもんだ。

私も都市住民の一人であり,こうした地域住民からの批判は免れない。どうしたらよいのか? 名案はない。が,おそらくは,可能な限り当事者自身の立場に立ってみること,それ以外にはあるまい。

日本「国民」や日本「国家」の利益(国益)を引き合いに出し,ごまかすべきではない。米軍Xバンドレーダー基地が,そこに住む人々に何をもたらすのか,その損得計算を冷静かつ厳密に行い,結果を分かりやすく説明する努力をする以外に方法はない。

丹後の人々にとって,東京や大阪や京都,ましてやアメリカの安全など,とりあえずは無視してもよい。ミサイルが東京に落ちようがニューヨークに落ちようが,丹後が無事であれば,それでよい。半農半漁の丹後は,その気になれば,自分たちだけで自立して生きていくことが出来る。他人の身代わり,捨て石にならねばならぬ義理も道理もない

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/06/10 at 15:27

福井原発と京阪神と水上勉

京都新聞元旦特集の一つは,「原発にノー」。それによると,御用鈍足ソフト「SPEEDI」の予測でも,京都市の一部は放射性物質汚染区域に入る。が,これでもなお嘘くさい。放射性物質が,そんなに都合よく予測範囲内に収まるとは考えにくく,実際には風向きによっては京都市,大阪市,神戸市にも広く濃く降下すると考えるべきだろう。

というよりもむしろ,丹後生まれの私の実感からすると,京阪神が原発風下になる確率は,もっともっと高いように思う。低気圧や台風でも,風向きは大きく変わる。京都新聞元旦特集でも,まだなお「不都合な真実」は隠されているのではないか?

福井原発については,大飯出身の水上勉がその差別性を厳しく批判していた。若狭は,京阪神など都市により収奪され,貧困に陥れられ,蔑視され,あげくはその尻ぬぐいをさせられている。贅沢三昧,浪費都市の電力は誰がつくっているのか?

水上勉の地方差別批判は問題の本質を突いている。もし自民党,産業界,都市住民が原発をつくりたいなら,まずは東京湾岸,大阪湾岸につくるべきだ。地産地消。もしつくれないなら,それは若狭でも青森でも,危険なのだ。原発は,地方蔑視の最たるものである。

130101a
 ■高浜原発拡散予測:3月(京都新聞2013-1-1)

130101b
 ■高浜原発拡散予測:2月(京都新聞2013-1-1)

130101c
 ■関西道路図(NEXCO)。この位置関係からして,京都・大阪・神戸・奈良・大津が拡散範囲に入らないのは不自然。SPEEDIより庶民実感の方が予測能力ははるかに高いのではないか?

【参照】
構造的暴力としての原発:堀江邦夫『原発ジプシー』
風力発電も原発もイヤだな
原発報道,朝日とネパリタイムズ
青森沖セシウム汚染魚の報道姿勢
権力監視下のネット社会:原子力安全規制情報
早川教授訓告処分は大学自治の自殺行為
ネパール大使館,大阪に退避

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/01/01 at 15:38

カテゴリー: 経済, 人権

Tagged with , , , ,

青森沖セシウム汚染魚の報道姿勢

朝日新聞(8月29日)によれば,青森沖で8月9日に獲れたマダラ(真鱈)から133ベクレル/kgの放射性セシウムが検出された。6月にも116ベクレル汚染魚が獲れていた。このセシウム汚染魚について,朝日は例のごとく,もっぱら「風評被害」の観点から記事を構成し,報道している。

記事見出しが「基準超すセシウム 突然の検出」「広い遊泳 影響か」であり,記者の状況説明記事に続き,某国立大教授が「消費者は冷静に」の見出しで,次のようなコメントを寄せている。

遊泳力のある魚の場合、海の中を泳いでいるのを捕まえてたまたま高い値が出たからといって近海の魚がみんなダメとみなすのは合理的とは言えない。出荷自粛や停止の範囲は限定的にすることを考えないと漁業への影響が大きすぎる。現在の規制は年間で1ミリシーベルト以下に内部被曝を抑えることが目的で、実際の被曝量ははるかに低い調査結果が出ている。消費者には冷静に見てほしい。」(朝日2012.8.29)

この記事構成は変ではないか? 常識で考えれば,はるか離れた青森沖であるにもかかわらず,基準値を超えるセシウム汚染魚が獲れた,確率は低いが皆さん用心しましょう,となるはずだ。ところが,コメントは逆。「たまたま高い値が出たからといって近海の魚がみんなダメと見なすのは合理的とは言えない」という。しかし,某教授にいわれるまでもなく,国民は誰一人として,そんなバカなことは考えてもいない。

国民は、セシウム汚染魚が獲れた以上,確率は低いかもしれないが,いま箸をつけようとしているその魚が汚染されている可能性は否定できない,汚染の有無をどのようにして知ればよいのか,そう考え,心配するのだ。

この心配は極めて合理的であり,それが分かるまでは,三陸沖方面の魚を食べるのは控えよう,というのも極めて合理的な判断だ。この国民の合理的な態度を,朝日と某教授は,「消費者は冷静に」と呼びかけることによって,放棄させ,政府追従の不合理きわまりない態度をとらせようとしているのだ。

いま朝日は,政府=財界=土建業と手を組み,「南海トラフ震災死32万人」とセンセーショナルに危険を煽り立てているが,もし三陸沖セシウム汚染魚への心配が不合理なら,この「南海トラフ震災」への心配は,その何百・何千倍も不合理だ。福島原発事故は現在進行中であり,魚は毎日のように食べる。危険の切迫度,確率は,南海トラフの比ではない。

南海トラフ震災キャンペーンは,政府=財界=学界=マスコミの共同謀議による「福島原発事故かくし」あるいは「福島原発事故そらし」といってよいだろう。

29日付朝日記事は,3.11以後,繰り返された政府発表「直ちに危険はない」「直ちに影響はない」とうり二つだ。

そのときも指摘したが,国民はそんなことは百も承知だ。大多数の国民は,中・低度被曝の中・長期的影響を心配していたし,いまも心配している。当時の政府発表は,国民をバカにし,国民の合理的心配にまったく答えようとしなかった。だから,政府も政府系専門家も完全に信用を失ってしまった。もはや,政府や政府系専門家が何を言おうと,国民はまったく信じてはいない。そして,いまや,信じない方が合理的で賢明なのだ。

29日付朝日記事は,国民をバカにし,国民の合理的かつ賢明な心配にまったく答えようとはしていない。政府=財界はまだよい。わかった上でやっている確信犯だから。問題は朝日新聞。なぜ,こんな無反省,無批判な記事を垂れ流し続けるのだろう。まったくもって不可解だ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/30 at 20:52

カテゴリー: 社会, 情報 IT

Tagged with , , , ,

権力監視下のネット社会:原子力安全規制情報

ツイッターに教えられ,「平成23年度原子力安全規制情報広聴・広報事業報告書」を覗いてみた。経産省資源エネルギー庁の事業報告なのに,報告書表紙にはなぜか事業主の名はなく,「株式会社アサツーディ・ケイ」が前面に出ている。本文中にも,「経産省」や「資源エネルギー庁」はほとんど出てこない。これだけで,十分に怪しい。

事業目的は,要するに「風評被害」防止。

「(2) 事業の目的 インターネット上に掲載される原子力や放射線等に関する情報を調査し、そこから国民の不安や疑問がどのようなところにあるのかを分析して質問(以下Q)を作成した。そのQをもとに回答(以下A)を作成し、そのQ&Aを活用することで、風評被害を防止することを目的とした。」(1-2頁)

この報告書は,「科学的な根拠に基づく、客観的な視点でAを作成すること」(2頁)をさかんに強調しているが,人々はもはやその「(原発関連)科学」を信じていない。その基本事実を見ることなく,旧態依然たる「科学信仰」で「国民の不安や疑問」を取り除くことなど不可能なのだ。

いまでは,原発科学者の「科学」よりも庶民の原発「風評」の方が,基本的には従って安全であることを国民は知ってしまっている。したがって,税金によるこんな調査や広報が何の役にも立たないことは明白である。しかし,それはそれ,ここでいいたいのは,別のこと。

この「報告書」は,国家権力によるネット監視の具体例としては,なかなか面白い。全体のフロー図はこうなっている。

(3頁)

そして,ここでは「隠語」がキーワードとして有効とされている。身に覚えがある人も少なくなかろう。

(4頁)

収集先は,ツイッターが多いが,他にも掲示板や検索エンジンからも情報収集されている。

(9頁)

むろん,この程度のことは,ネット素人の私でも時間さえあれば可能だが,問題はこれはほんの序の口で,実際にはもっと高度なネット監視が権力によって行われているのではないかということ。たとえば,個人メール。企業が従業員のメールを監視していることは常識だが,同じことを国家も国民のメールについてやっているのではないか? これからは,メールも含め電子情報はすべて監視され,検閲されていると考えて,行動すべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/23 at 20:27

カテゴリー: 情報 IT, 人権

Tagged with , , ,

構造的暴力としての原発:堀江邦夫『原発ジプシー』

1.現場ルポ『原発ジプシー』
原子力発電所の保守作業は,想像を絶する過酷労働だ。私には,小中学生のころは農作業,16-18歳のころは工場労働の体験がある。田植えや収穫の農作業は苦しかったし,また工場では粉塵のなかで油と汗にまみれ,切り傷や火傷も絶えず,こちらも辛かった。しかし,堀江邦夫『原発ジプシー』(現代書館2011,初版1979)の描く原発保守作業は,そのような農作業や工場労働とは比較にならない,別次元の過酷さだ。

堀江氏は,孫請け,ひい孫請けの非正規労働者として原発保守作業に従事,そこで自ら体験したことを,本書において逐一詳細に記述している。その叙述は明快であり,自らをも対象化する冷静で客観的な,見事な現場体験ルポとなっている。

2.三原発で下請け労働
堀江氏は,1978-79年,原発下請け企業に雇用され,美浜(1978.9.28-12.2),福島第一(1978.12.19-1979.3.15),敦賀(1979.3.21-4.19)の三原発で,保守作業に従事した。

作業環境は極度に悪く,堀江氏もしばしば体調不良となり,福島第一ではマンホールに落下,肋骨骨折の重傷を負う。それでも,堀江氏はなおも作業員を継続,1979年3月には故障・事故続きの「悪名高き」敦賀原発に移り,劣悪な労働環境を身をもって体験した。

このようにして,堀江氏は体力の限界寸前まで現場労働者として働き,1979年4月中旬,実地調査を終了した。そして,その現場体験をまとめ,1979年9月出版したのが,本書である。

3.構造的暴力としての原発
本書は,30年以上前の出版であるが,2011年の福島原発事故以来,連日報道されるようになった原発の諸問題の多くについて,すでに具体的に詳しく説明し,その危険性を鋭く指摘している。たとえば,保守点検を考慮しない設計上の欠陥,劣悪な作業環境,電力会社-関連大企業-下請け-孫請け-ひい孫請けといった不健全な上下関係,原発への地元依存など。

本書の記述は,すべて著者自身が身を挺して収集した具体的な事例に基づいており,十分な説得力を持つ。しかも,ばらばらの個別事例の羅列ではなく,それらを通して根底にある原発問題の構造を浮き彫りにすることによって,問題の本質そのものを鋭く摘出している。著者自身の言葉ではないが,それは,いわば「構造的暴力としての原発」の告発である。本質を突いているという点で,本書は間違いなくジャーナリズムの古典である。

4.朝日「被爆線量偽装」報道の浅薄さ
これに対し,朝日新聞の被爆線量偽装報道は浅薄である。7月21日,朝日は,福島原発における被曝線量偽装を,1面,2面などで大々的に報道した。下請け企業が,作業員に命令し,線量計に鉛カバーをつけさせ,被曝線量を少なく見せかける偽装工作をしていたというのである。

しかし,堀江氏の『原発ジプシー』を読めば,この種の被爆線量偽装がどの原発でも日常的に行われてきたことは明白だ。

それは,原発関係者の身分差別構造に組み込まれている。被曝線量は,電力本社員が最小で,一次下請け,二次下請けと増加していき,末端はどうやら外国人労働者ということらしい。許容被曝線量は形式的には定められていても,作業現場に近づくほど,つまり「原発階層制」の下位に行くほど,実際にはそれを守ることは不可能であり,したがってそこでは線量偽装が行われる。

本書には,そのような被曝線量偽装の具体例が無数に出てくる。特権階級たる電力本社員がそれを知らないはずはない。制限線量内では作業はできないことを知りながら,作業を命令する。そして,現場作業員が,命令された作業をするためやむなく線量偽装をしても,それを見て見ぬふりをする。つまり,被曝線量偽装は,電力本社が暗黙のうちに命令しているのであり,真の責任は下請け企業や現場作業員ではなく,電力本社にある。

5.ジャーナリズム偽装の朝日
一方,朝日新聞をはじめとする大手ジャーナリズムは,被曝線量偽装が構造的であり,日常的に行われてきたことをよく知っていながら,巨大広告主たる電力会社を恐れ,報道してこなかった。

世間が騒ぎ始めた今頃になって,現場では常識となっていることを,あたかも新発見の特ダネであるかのように見せかけて報道し,小銭を稼ごうとする。なぜもっと早くから報道しなかったのか。報道しないよりはマシではあるが,こんなものは,到底,本物のジャーナリズムとはいえない。

6.プロとしてのジャーナリズム
原発は,日本の構造的暴力の一つである。都市-地方,電力本社-関連大企業-一次下請け-二次下請け-三次下請け・・・・。この上下階層構造において,収入は上方に行くほど大きくなり,被曝線量は下方に行くほど大きくなる。賃金の上前ハネは常識であり,被曝線量偽装も常識である。

その常識をいち早く,事実に基づき客観的に叙述し,原発ビジネスの構造的問題にまで切り込んだのが,堀江氏の本書。常識であるにもかかわらず,多くの人が知らないことにしていること,あるいは見れば見えるのに,見ようとしないこと,そうしたことを知らせ,見せるのが,本物のジャーナリズムだ。

世間の尻馬に乗り,わかりきったことを,大げさに,センセーショナルに,はした金のために報道するのは偽ジャーナリズムである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/23 at 00:00

カテゴリー: 社会, 文化,

Tagged with , , ,

風力発電も原発もイヤだな

原子力発電の代わりに風力発電を,という声が日増しに大きくなっているが,風力もイヤだな。私個人にとっては,原発以上に,風力は現実的な脅威だ。

長崎にいた頃,村や島に行くと,巨大風車が設置され,風を受け,大空を切り裂き,回転していた。絵のように美しい風景を無機質な巨大機械が破壊し,野鳥を殺し,そして,おそらく村人の生活を圧迫し精神的・肉体的に苦しめているにちがいない。

秀吉朝鮮出兵陣地,名護屋城の近くには,九電の玄海原発がある。対岸からの遠望でも威圧され,近くに住む村人たちの苦痛は想像にあまりある。事故や地震あるいはテロ攻撃などで原発が破壊されれば,交通の便の悪い周辺住民は,とても逃げ切れないのではないか。

この玄海原発の近くにも風力発電所がいくつかある。唐津側の絵のように美しい小さな村の裏山に巨大風車が数台設置れていた。涙なくして見られない光景。おそらく村人たちは,四六時中,頭上で回転する巨大風車に威圧され,低周波音圧波動に苦しめられながら,日々生活せざるをえないのだろう。
 玄海原発(九電HP)

丹後のわが村は,福井原発群から30キロ圏。原発事故が発生すれば避難せざるをえない。風向きが悪ければ,高濃度汚染され,住めなくなってしまうだろう。福井原発群は,たしかに現実の脅威だ。

一方,わが村は過疎であり,周囲を小高い山に囲まれている。丹後半島は風に恵まれ,山地の地価は限りなくゼロに近い。送電網も既設火力発電所のおかげで,申し分なく完備している。これだけ条件がそろっているので,そのうちわが村周辺にも風力発電所が設置されるのではないかと恐れている。

周辺の稜線沿いや山腹に巨大風車が林立し,四六時中,回転しているわが小村――グロテスクな世紀末風景だ。精神的圧迫,低周波振動による健康障害など,とてもじゃないが,こんな村には住めない。
 福井原発群(福井県原子力センターHP)

 高浜・大飯原発からの距離(朝日新聞2011.5.21)

福井原発群は,わが村にとって,確かに脅威だが,日常的には目にするわけではなく,直接的な被害を受けているわけでもない。いま生きている村人個人にとっての直接的リスクは,車やガス器具などよりもはるかに低い。

ところが,もし風力発電所が近くにできると,被害は四六時中,原発の比ではない。無人島ならいざ知らず,こんな非人間的なグロテスクなものは,つくってはならない。

それでも,どうしてもつくるというのなら,電力を必要としている大都市やその周辺に設置すべきだ。たとえば皇居周辺や大阪城公園など。あるいは,高速道沿いや,東京湾岸,大阪湾岸などもよい。近くにつくれば,風力発電は原発以上に耐えがたいものであることが,理解されるであろう。

保守主義の観点に立てば,原発は廃止すべきである。そして,近代人権主義の観点に立てば,風力発電は,無人島などを除き,設置すべきではない。(自然保護の観点からは,風力発電もすべて禁止すべきだが,この点については別に論ずる。)

【参考資料】
有象無象、「発電成金」を目指せ! 再生可能エネルギーバブルの経済効果 (日経ビジネス2012年7月4日)
 再生可能エネルギーで発電した電力を、一定期間、一定金額で電力会社が買い取る新制度の開始を受けて、エネルギービジネスに新規参入する企業は後を絶たない。7月1日の制度開始から当面は、かなりの好条件が設定されていることから、産業界は色めき立っている。
 実際、これまでエネルギービジネスなど眼中になかった人たちが、商機を見て参入を検討している。ある自治体担当者は、「毎日のように『空いている土地はないか』と問い合わせがあるんです」と明かす。その中には、「この会社は…」と首を傾げるようなところも少なくないという。
 再生可能エネルギーによる発電事業をプロジェクトファイナンスで実施する場合、エクイティ利回り(自己資金に対する利回り)は10%前後まで高まる可能性がある。この低金利のご時世に、これだけの利回りが期待できる金融商品はあまりない。新規参入が相次ぐのは当然のことだろう。
 この状況を、「再エネバブル」や「再エネ狂想曲」と表現するメディアは多い(ここには、もちろん弊誌も含まれている)。・・・・・・・・・・・・・・

【参照】節電・停電

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/09 at 11:43

カテゴリー: 経済, 人権

Tagged with ,