ネパール評論

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生成AI問答(7): ネパールのジェンダー政策が,日本のそれよりも先行しているのは,なぜですか? また,日本は,ネパールのジェンダー政策から何を学ぶべきですか?

ネパールのジェンダー政策は,日本よりはるか先に始まり,いまやはるかに充実している。たしか1990年代末頃だったと記憶しているが,カトマンズの商業ビル内で「第三の性(広義)」の人々の集会が開かれていたらしく,様々ないでたちの大勢の参加者に取り囲まれ,進退窮まったことがあった。すでにその頃から,ジェンダーはマスコミでも街頭でも,盛んに議論されていた。また,いま日本で問題になり始めた「ジェンダーとトイレ」ですら,早くから議論され,あれこれ試行運用されてきた(ほぼ決着済みか?)。

このようにネパールはジェンダー問題で日本よりはるかに先行したが,その理由の一つは,ほんの数十年前までは女性差別がネパールでは耐え難いほど厳しかった,という歴史的事実にあるであろう。性差別の厳しさゆえに,かえって,より根源的に「性」を問い,ジェンダー平等へ向け,一気に前進したということ。

それともう一つ,後発国の兎跳び前進。ネパール,特に村では,従来型の電気や電話がなかったからこそ,一足飛びに,それらを飛び越え,ソーラーやケイタイが普及した。同じことが,ジェンダー問題でも起こっていると見てよいであろう。いまやネパールに飛び越えられ,後進国となったってしまった日本! これから,先進国となったネパールから,どう学ぶべきだろうか?

このように,今回の質問は,ネパールと日本の歴史や文化とも絡むうえに,「学ぶべきか」という「べき」問題も追加されている。また,代名詞「それ」がある上に,2問が一度に問われている。この難問を,AIは,どう処理するか?

Bing回答は,参照先として外務省・JICAの報告を明示しているが,読み比べてみた限りでは,直接引用ではない。回答は,論旨がきちんと展開されており,日本語文章も正確だ。

しかし,その一方,よくできた回答ではあるが,少々形式的・表面的すぎる気がする。主たる参照先が日本の外務省・JICAだからかもしれない。

ChatGPT回答は,グーグル自動翻訳にほんのわずか不自然なところがあるだけで,ほぼ完璧。面白くて深くて,考えさせられる。名回答。

自動翻訳でこんなことができるのなら,学校の実用第一の英語授業はもはや不要,廃止した方がよい。

また,内容的にも,こんな高度なレポートを一斉に出されたら,高校や大学の先生は採点に困る。いや,小学生にだって,これなら簡単に作成し提出できる。社会科・社会科学の授業も,今のままでは続けられないだろう。さぁ困った。どうすべきか?

*****<以下,生成AI回答>*****

[1] Bingの回答(質問&回答=日本語)
ネパールのジェンダー政策が日本よりも先行している理由については、ネパールが2006年に民主化されたことが大きな要因の一つです。その後、ネパールは、国連の女性の地位委員会(CSW)において、ジェンダー平等に関する国家報告書を提出し、ジェンダー平等に関する法律を制定しました。また、ネパールは、女性の政治参加を促進するために、選挙制度を改革し、女性の立候補者数を増やすなどの取り組みを行っています1。

一方で、日本は、2019年に「ジェンダー平等基本法」を制定しましたが、その前後には、「女性活躍推進法」や「男女共同参画社会基本法」などの法律が制定されています。しかし、日本では、女性が政治や経済の世界で活躍することがまだまだ少なく、ジェンダー平等に関する意識も低いとされています2。

ネパールのジェンダー政策から学ぶべきことは多くあります。例えば、ネパールでは、女性の政治参加を促進するために選挙制度を改革したり、女性の立候補者数を増やすなどの取り組みが行われています。また、ネパールでは、女性が自立して生きるための支援も行われており、日本でも同様の取り組みが必要だと考えられます1。

1: ネパール:ジェンダー平等政策  2: 日本とネパールのジェンダー政策比較 詳細情報: 1. mofa.go.jp 2. jica.go.jp 3. mofa.go.jp 

[2] ChatGPTの回答(質問&回答=Google翻訳使用)
ネパールと日本のジェンダー政策を明確に比較することは困難です。両国には、政策を形成する独自の文化的、歴史的、社会的背景があるからです。しかし、ネパールは近年、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントに向けて大きな進歩を遂げました。これは、政治的コミットメント、草の根活動、国際的な支援など、いくつかの要因に起因する可能性があります.

ネパールのジェンダー政策の枠組みには、ジェンダーに基づく暴力に対する法的保護、女性の政治的代表を増やすためのアファーマティブ アクション プログラム、教育、医療、経済的機会への女性のアクセスを改善する取り組みが含まれています。 特に、ネパールの 2015 年憲法は、女性の平等な権利を保証し、性別、民族、宗教に基づく差別を禁止しています。

一方、日本は、女性の政治参加率の低さ、根強い男女賃金格差、女性に偏って影響を与える長時間労働の文化など、男女平等への取り組みが比較的遅いという批判に直面しています。 日本は、育児へのアクセスの拡大や女性のリーダーシップの促進など、これらの問題に対処するためのいくつかの政策を実施してきましたが、批評家は、ジェンダーの平等を促進するためにさらに多くのことを行う必要があると主張しています.

ネパールのジェンダー政策から、日本はジェンダー平等を推進する上での政治的コミットメントと草の根活動の重要性について学ぶことができました。日本はまた、ジェンダーに基づく暴力に対する法的保護を実施するだけでなく、政治や指導的地位における女性の代表を増やすためのアファーマティブ アクション プログラムを採用することからも利益を得ることができます。さらに、日本は、ワーク・ライフ・バランスをサポートし、男女間の固定観念や職場での差別など、男女間の賃金格差の根本原因に対処する政策を検討することができます。

*****<以上,生成AI回答>*****

【参照】
「包摂トイレ,ネパール国連ビルに設置」ほか,ジェンダー関係投稿一覧
「第三の性パスポート,ネパール発行開始」ほか,第三の性関係投稿一覧

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/05/09 at 22:42

セピア色のネパール(2):エリート校の先進性

1993年撮影の秘書的事務職専門学校の授業風景。良家子女のための学校だが,当時としては最新で高度。

授業はもちろん英語。英語で教え,学ぶ。実務的な教科に加え,地歴や数学など関連分野の授業もやっていた。

実技は,機械式の英文タイプだけでなく,パソコンも教えていた。民族衣装でのタイプライターやパソコンの練習は,日本人にとっては異国情緒にあふれ,絵になる。

それにしても,1993年にはすでに最新のパソコン教育が行われていた。意欲的にして先駆的!

さらに女性対象の秘書的事務職専門学校だと思われるのに,少数ながら男性も一緒に学んでいた。その限りでは,当時の日本よりはるかに先進的!

■世界地図を使っての授業
■機械式英文タイプの練習
■パソコンの練習

■タイプ練習中の6人のうち3人は男性

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/08/28 at 10:24

性別「X」パスポート,英国発行せず

英国最高裁判所は12月15日,性別「X」パスポートの発行を求めて上訴したクリスティ・エラン‐ケインさんの訴えを棄却した。ネパールをはじめ,すでに十数か国が「X」パスポートの発行を始めたというのに,さすが保守本家,アダム/イブ以来の男女峻別の正統を断固堅持する覚悟らしい。

【参照】Xパスポート関係記事

1.英国パスポートの性別欄
英国では,パスポート取得には,「M(男)」か「F(女)」のいずれか一方の性を選択し,申請しなければならない。「M」または「F」以外の選択肢は,日本と同様,英国にもない。

といっても,外国人の場合は,所持しているのが「X」パスポートであっても,その有効性を英国政府は認めている。頑固と実益の巧妙な功利的使い分け,これこそ英国保守主義の神髄なのだ。

■英国パスポート
■日本パスポート

2.クリスティさんの「X」パスポート訴訟
この英国のM/F択一選択パスポート制度に異議を唱え,男女いずれでもない性中立(gender-neutral)ないし性無区分(non-gendered)の人も選択しうる「X」欄の追加を求め,内務省を訴えたのが,クリスティ・エラン‐ケイン(Christie Elan-Cane)さん。

クリスティさんは,最高裁判決(12月15日)によれば,女性(female)として生れたが,思春期になると女性としての身体に違和感を抱き始め,1989年に乳房切除,1990年には子宮摘出を行った。

こうしてクリスティさんは,自分の性的アイデンティティ(性的自己認識)はnon-gendered,つまり男女いずれのジェンダー(性)にも属さない性無区分(X)にある,と確信するに至ったのである。

そのクリスティさんにとって,特に具体的な大きな障害となったのが,M(男)/F(女)いずれかの択一を要件とするパスポート制度。そこでクリスティさんは,パスポートの性別欄への「X(non-gendered)」の追加を求め,運動を繰り広げることになった。今回最高裁判決が出た裁判も,その一環である。

(注)最高裁判決によれば,クリスティさんは1995年以降,4回パスポートを取得しているようだ。いずれもM/Fの選択なしでの取得をパスポート局に拒否された後,取得。「M」か「F」のいずれかが当局か本人により選択されたのだろうが,詳細不明。

クリスティさんは,ノン・ジェンダー「X」の公認の必要性について,法廷の内外で,こう訴えてきた。

「私のアイデンティティは,男でも女でもない。自分は,ノン・ジェンダー(非ジェンダー)であり,そう訴えてきた。*2」

「本人のアイデンティティ(自己認知)の承認は基本的人権なのに,ノン・ジェンダーの人々は無権利であるかの如く扱われている。*5」

「男でも女でもない人は,パスポート取得の際,自分のものではないジェンダーでの申請を強制される。許せないことだ。*3」

「(M/F択一制パスポートは)侮辱的な,人の尊厳を傷つけるものだ。私は,はるか以前から全力を傾け,この差別的な政策の変更を政府に働きかけてきた。*2」

「12月15日に(最高裁判決で)正義が実現されることを期待しているが,もし英国内で正義が得られないなら,弁護団と私は,ストラスブールの欧州人権裁判所に訴えることを決意している。*5」

3.M/F択一制パスポート是認の最高裁判決
クリスティさんの「X」選択可能パスポート発行の訴えは2017年,行政裁判所(高等裁判所)に提出されたが,2018年6月,敗訴。さらに控訴院でも2020年,敗訴。そして最高裁への上訴も,2021年12月15日,棄却となった。最高裁判決は,判決文(*7,8)と解説記事によれば,おおよそ以下の通り。

・パスポートの性別は,申請者のアイデンティティ確認のためのもので,生物学的なもの。性別は,法的目的のために認定される。

・パスポートは,「M(男)」または「F(女)」のいずれかを選択したうえで発行される。性を変更したトランス・ジェンダーの人も,変更後のジェンダーにより「M」または「F」を選択する。本人の申告なき場合は,パスポート局が提出書類に基づき判定し「M」か「F」のいずれかとする。

・英国の法制度は,M/Fの2区分が大前提であり,ノン・ジェンダー(どの性でもない)は想定していない。「X」をパスポートに追加すると,他の法や制度との整合性が取れなくなり,混乱する。

・パスポートによる身分証明,治安維持に支障が生じる。

・パスポートへの「X」欄追加の利益よりも統治の整合性維持の利益の方が勝る。「X」欄追加には,行政コストだけでも2百万ポンドが必要。

・M/F択一制パスポートは,ノン・ジェンダーの人には不便かもしれないが,「X」欄追加を希望する人は,ごく少ない。

・EU諸国の間には,「X」欄追加への合意はない。欧州人権条約は,パスポートへの「X」欄追加は義務づけていない。

4.文化的「性」としてのジェンダーの難しさ
「性」には,生物学的な面と文化的な面,客観的な面と主観的な面など,さまざまな側面が複雑に絡んでおり,その判別は難しい。

たとえば,英語。男・女の代名詞は,he/his/him,she/her/her。では,クリスティさんは,どう呼ばれるべきか?

BBCは「she」を当てているが,クリスティさんは,そうは呼ばれたくないに違いない(*3)クリスティさん自身は,per/per/perselfを提案しているそうだが,一般にはこれらの語はまだ見かけない(*5)。

あるいはまた,ジェンダーを特定しないtheyを,she,heの代わりに使う試みもあるそうだが,theyには慣用的に定着した意味があり,ややこしくてこれは流通しそうにない。

神話にも「男/女」2区分が多い。キリスト教の神は,天地を創造し,男(アダム)と女(イブ)を創った。また日本神話でも,日本の島々は,男(イザナギ)と女(イザナミ)が交わり生み出された。いずれの神話でも,「男」と「女」であり,しかも男優位が当然のこととされている。

この神話的創世以来の伝統的男女2区分を改め,男女と「第3の性」の3区分,あるいは「第3の性」をさらに細分化し多くの性区分にしていくことは,容易なことではない。

そもそも性は,生物学的にも文化的にも,厳密に見るなら無限に多様なものであって,2つであれ,いくつであれ,明確に区別し都合よく仕分けできるようなものではないのであろう。

そこで,ちゃぶ台返し,いっそのこと性区分なんか一切なくしてしまい,すべての人を「人」のみとして平等に扱え,という極論も出てくることになるのである。

*1 Gender-neutral passports: Campaigner Christie Elan-Cane loses Supreme Court case, By Joseph Lee, BBC News 2021/12/15
*2 Christie Elan-Cane loses legal challenge over gender-neutral passports, BBC,2020/3/10
*3 Gender-neutral passport rules are ‘unlawful’, Court of Appeal hears, BBC,2019/12/3
*4 “Why I want gender-neutral UK passports,” BBC,2017/10/11
*5 UK’s highest court rejects appeal for gender-neutral passports after activist’s 30-year fight, Vic Parsons, PinkNews, 2021/12/15
*6 UK Supreme Court rejects gender-neutral ‘X’ passport, By Rachel Savage,Reuters, 2021/12/15
*7 Supreme Court,JUDGMENT R(on the application of Elan-Cane)(Appellant) v Secretary of State for the Home Department(Respondent)
*8 Supreme Court, Press Summary

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2021/12/22 at 16:57

米国「性別X」パスポート,ようやく発行

米国務省が10月27日,「性別X(エックス)」パスポートを初めて発行した,と発表した。「LGBTQI+の人を含め、全ての人の自由と尊厳、平等を推進する」ためとのこと。

米国パスポートでの「性」選択は,これまでもかなり自由であった。出生証明書,既取得パスポート,州身分証明書などに記載済みの「性」とは異なる別の「性」の選択が可能だったし,性別変更には医療機関発行診断書も不要。そこに今回,いずれの性でもない「X」選択の自由(権利)が追加されたのだ。

「X」は,要するに「性」を区別しないということ。区別し,区別されなければ,より自由で便利ともいえるので,「X」選択はおそらく増加するだろう。そして,そうなっていけば,性区別を大前提とする既存社会そのものも大きく変わっていかざるをえない。スポーツの男女別,学校・会社・議会における男女別,等々。

そして,「性」が多様化・自由化すれば,「」絡みの日本の「」も,もちろん自由化せざるをえないだろう。

【参照】
第三の性パスポート,ネパールなどに倣い米でも
第三の性パスポート,ネパール発行開始
性的少数者の権利,先進国ネパールから学べ
M・F・X:ネパール「第三の性」旅券発行へ
「第三の性」パスポート,最高裁作成命令
ツクツクの女性運転手さん
制憲議会選挙2013(37):指名議席争奪
セックス超先進国ネパールに未来はあるか?
第三の性,公認

*1 U.S. Department of State, “Selecting your Gender Marker.”
*2 「男性でも女性でもない「性別X」のパスポート、米国務省が初発行」CNN,2021.10.28
*3 「性別「X」の旅券、初発給 来年から本格運用―米」時事,2021年10月28日
*4「米、初のLGBTQ旅券「Xジェンダー」選択肢」日経,2021年10月28日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2021/10/29 at 17:56

比例は女性特待議席か?(1)

ネパールは,包摂民主主義の理念に基づき社会諸集団(アイデンティティ諸集団)の政治参加の公平を実現するため,選挙においても,精緻なクォータ制(議席割当制)を採用した。欧米を中心とする国際社会の全面的支援の下,当事者諸集団の様々な意見や要求を聞き,合理的に設計され法制化されたネパールの現行選挙制度は,世界最高水準のものといっても過言ではあるまい。

しかしながら,選挙制度は,社会諸集団のそれぞれの要求に応えようとすればするほど複雑化し,運用が難しくなり,コストも増大する。ネパールの選挙制度がまさにその典型。はたしてネパールは,そのあまりにも理想主義的な選挙制度を実際に運用し,世界に包摂民主主義の範を示すことができるのだろうか?

ネパールの議席クォータ制(議席割当制)は様々な社会諸集団について適用されるが,割当の相互関係をすべて説明することは変数が多すぎ極めて困難なので,以下では,最も基本的で明確な男女議席割当制について,2017年連邦議会選挙/州議会選挙を具体的事例として取り上げ,その運用がどうなっているのか見ていくことにする。

1.女性議席割当,三分の一
女性への割当議席は,連邦議会でも州議会でも,原則として三分の一である。現行2015年憲法は,次のように定めている。

(1)連邦議会の女性議席割当
憲法第8部 連邦議会[立法部](संघिय व्यवस्थापिका)
第83条 連邦議会は,代議院[下院](प्रतिनिधी सभा)と参議院[国家院,下院](राष्ट्रिय सभ)から構成される。
第84条 代議院[下院]
 ・議員定数は275。小選挙区制選出165,比例制選出110。
 ・比例制は全国1区で,政党に投票。
 ・政党は,下記社会諸集団ごとに比例代表を実現できるように候補者を選出。
  「女性」,「ダリット」,「アディバシ・ジャナジャーティ」,「カス・アーリア(チェトリ,ブラーマン,タクリ,サンヤシ[ダスナミ]」,「マデシ」,「タルー」,「ムスリム」,「後進地域」。
  *上記に加え,「障害者」へも議席割当(詳細法令規定か?)。
 ・ただし,「連邦議会の政党それぞれの全議員の少なくとも三分の一は,女性でなければならない。」
第86条 参議院[上院]
 ・議員定数は59。
 ・56議席は7州がそれぞれ8議席選出。選出方法は,州議会議員,町村長,副町村長,市長,副市長からなる選挙人団による選挙。各州の8議席のうち,少なくとも女性3,ダリット1,障害者または少数者集団所属1。
 ・他の3議席は政府推薦に基づき大統領が指名。1名以上女性。
 ・全議席のうち三分の一ずつ,2年ごとに改選。
 ・[(第84条)ただし,「連邦議会の政党それぞれの全議員の少なくとも三分の一は,女性でなければならない。」]

以上が,憲法の定める連邦議会(上院・下院)議員の選出方法である。きわめて複雑で,関係法令も見ないとはっきりしない部分が残るが,女性議席割当については,基本的な仕組みはこれで理解できる。

大原則は,女性議席割当は三分の一ということ。その憲法原則の理念に基づき解釈するなら,各政党は,女性議員三分の一以上を実現するため,次のように努力しなければならないことになる。
 1)まず,各政党は,下院小選挙区選出女性議員が三分の一以上となるように努力すること。
 2)次に,下院比例制では,各党は下院における女性の比例的代表実現に努力すること。
 3)そして,上院議員選挙では,各党は,下院議員を含め連邦議会議員の三分の一以上が女性となるようにしなければならない。これは,憲法84(8)条が規定する各党の義務である。

(2)州議会の女性議席割当
州立法部(प्रदेश व्यवस्थपिका)は 一院制の州議会(प्रदेश सभा)だが,女性への議席割当は基本的には連邦議会と同じ(憲法第14部参照)。

州議会の議員定数は,その州の連邦議会代議院(下院)小選挙区選出議席の2倍。60%を小選挙区から,残りの40%を比例制により選出する。各党は,小選挙区で女性議員が三分の一以上に達しない場合,比例制により女性議員の不足分を充足しなければならない。

2.議席の男性先取り,女性後回し
以上のように,ネパールの女性議席割当制は極めて精緻で先進的なものだが,これを現実政治に適用すると,制度を設計した理想主義者たちには思いもよらなかったような皮肉な結果をもたらすことになりつつある。女性議席割当制は現実には多段階選考となり,男性優先,女性は後回しにされているのだ。

そして,その結果,議席(議員)の重みについても,連邦議会においては下院小選挙区選出議席⇒下院比例区選出議席⇒上院議席,また州議会においても小選挙区選出議席⇒比例制選出議席といった序列が,候補者選考など現実政治の場では何となく感じられ始めたのだ。

■州議会第1州比例制UML当選者は全員女性(選管HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/06 at 15:37

ミス&ミセス・ネパール,日本開催

ネパールは,ミス・コンテストが大好きな国だ。人民戦争の残り火がくすぶっているころですら,華やかなミスコンが開催されていたほどだ。
 [参照]赤と桃色のネパールミスコンか被抑圧女性解放かミスコン

その世界に冠たるネパール・ミスコン文化が,いよいよ日本上陸となる。ネパール女性がきわめて有能で魅力的であることは,周知のとおり。そのネパール女性を「ミスコン」において,どう審査するか。西洋ミスコンや日本ミスコンと同じか? それとも,女性解放世界最先進国のひとつ,ネパール(少なくとも制度的には)にふさわしい新たな基準による審査となるのか?

まったくの門外漢ながら,興味津々。続報を待ちたい。

ミス&ミセス・ネパール 2018(Himalayan Times, 3 Jan 2018)
 ・開催日:2月18日
 ・会場:グリーンホール,板橋
 ・主催(共催):Pearl Entertainment[印イベント会社?]; Sinjau Co.[社名原文通り]
 ・目的:ネパールの芸術・文化の保存。ネパール女性の知性と隠された能力の発掘。
 ・応募資格:日本在住の既婚・未婚ネパール女性
 ・審査日:2月1日(第一次)~18日(最終)
 ・選考委員:ネパールから招聘の専門家,在日ネパール機関の代表者
 ・表彰等:優勝者と準優勝者には賞を授与し,音楽ビデオ等への出演機会を提供。

 2008年ミスコン激励,プラチャンダ首相

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/10 at 15:14

カテゴリー: 社会, 文化

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ネパールの選挙:女性の制度的優遇と運用上の冷遇

ネパールでは国会(連邦代議院)と州会(州議会)のダブル選挙が,11月26日(北部山地・丘陵地)と12月7日(中南部丘陵地・タライ)に行われるが,この選挙は女性代表の観点からも注目されている。

ネパールでは,選挙制度的にはアファーマティブ(ポジティブ)アクションにより,女性はかなり優遇されている。国会,州会とも,選挙においては比例制政党候補の1/2以上が女性に割り当てられ,議会では各党議席の1/3以上が女性に割り当てられている。

また立候補の際の供託金は,国会議員選挙1万ルピー,州会議員選挙5千ルピーだが,女性候補およびダリットなど周縁的諸集団所属候補は50%引きとなっている。制度上の女性優遇は明らかだ。

ところが11月27日投票の小選挙区立候補者802人のうち,女性はわずか41人(国会18人,州会23人)にすぎない(10月23日現在)。そのうち,主要3党の女性候補は次の通り。
 ▼小選挙区女性立候補者数
  NC連合:国会2,州会1
  UML:国会0,州会1
  マオイスト:国会1,州会3

主要3党は,女性候補が少ない理由として,先の地方選(5/14,6/28,9/18)で女性候補を多数出してしまったからだとか,女性は小選挙区よりも比例制の方を希望するからだとか説明しているが,どうみても苦しい言い訳に過ぎない。

2015年憲法は,国会,州会とも女性議員1/3以上を定めている。主要3党は,比例制に女性候補を多数立て,あとで数合わせをするつもりなのだろうか?

 
 ■ネパールの女性国会議員比率(世銀HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/28 at 16:02

包摂トイレ,ネパール国連ビルに設置

国連開発計画(UNDP)ツイッター(8月24日)によれば,ネパール国連ビル内に初の「全ジェンダー用トイレ(All Gender Restroom)」が設置され,にぎにぎしく開所式が執り行われた。「このトイレは,ジェンダーの意識や外見にかかわりなく,だれでも使用できます。」

すべてのジェンダーとは,全ジェンダー包摂的ということ。つまり「包摂トイレ」の開設なのだ。さすが包摂民主主義を国是とするネパール!!

国連が誇らしげに宣伝するだけに,包摂トイレは最新・最先端であり,まだ呼称も確定していない。ここでは,とりあえず「包摂トイレ(inclusive toilet)」としておく。
[包摂トイレの呼称例]
Inclusive toilet
Gender-inclusive toilet
Gender-neutral toilet
Gender-open toilet
Unisex toilet

160825a160825c160825b■UNDPツイッター8月24日

1.欧米の包摂トイレ
包摂トイレは,ジェンダー意識の高まりとともに要望が強くなり,大学,公共施設,飲食店などに広まり始めた。

トイレが「男用」「女用」だけでは,LGBTなど男女以外の様々な性(ジェンダー)の人が安心して用を足すことが出来ない場合が少なくない。これは身近な切実な問題である。

そこで,英国では,トイレを「女」,「男」,「gender-neutral」「disabled」などと,いくつかに区別して設置し始めている(*2)。

アメリカでは,自分のジェンダーのトイレを使う権利が法的に認められ始めた。たとえば,「ニューヨーク市人権法(New York City Human Rights Law)によれば,人々は自分のアイデンティティに適合する単一性別トイレ(single-sex toilet)を使うことが出来る。」(*1)

大学では設置がかなり進んでいる。バーナード・カレッジは,「ジェンダー包摂トイレ」と表示し,「皆さんが誰でも安心して(in peace)おしっこできるようにしています」と広報した。(*1)

イリノイ州立大学では,「全ジェンダー・トイレ」と表示し,「誰でも,ジェンダー,ジェンダーのアイデンティティ,ジェンダーの外見にかかわりなく,このトイレを使用できます」と説明している。(*1)

街ではスターバックスが「全ジェンダー・トイレ」の設置を進めているし,ワシントンDCのあるレストランはトイレを「男用」「女用」「その他全員用」に区別しているという。(*1)

2.ネパールの包摂トイレ
ネパールでは,2007年に「第三の性」が公認され,そして2012年3月,ブルーダイヤモンド・ソサエティがネパールガンジに「gender-neutral toilet」を設置した。これがネパール初の包摂トイレとされている(*3)。

以後,バルディアなど何カ所かに包摂トイレが設置されたというが,私はまだ実物は見ていない(*4)。おそらく,いまのところそれほど普及はしておらず,だからこそUNDPが国連ビル内包摂トイレ設置をツイッターで宣伝することにもなったのだろう。

こうした動きに対しては,ネパールではトイレそのものさえまだ普及していないのに,といった批判の声が上がりそうだ。近代以前の無トイレ社会と,近代以後の包摂トイレ社会――この両極端の共存が,いかにもネパールらしい。

3.性の近代以前・近代・近代以後
欧米やネパールの「性とトイレ」論争を見ていると,近代以後が近代以前に先祖返りしているような気がしてならない。

現代のジェンダー闘争は,性アイデンティティの覚醒・強化,ジェンダーごとの権利獲得へと展開してきた。ジェンダー・アイデンティティ政治である。

ところが,ジェンダーは,LGBTなどというものの,実際には無数にある。そのそれぞれのジェンダーが,ジェンダー・アイデンティティをたてに権利要求を突き付ければ,社会は実際には維持できなくなってしまう。

トイレのような簡単な構造物ですら,ジェンダーごとの設置は困難。そのため,gender-neutral, gender-open, all-gender, unisexなどといったトイレを設置せざるを得なくなった。要するに,どのジェンダーであれ,このトイレでおしっこしてもよいですよ,ということ。これはトイレにおけるジェンダー識別の放棄に他ならない。

これは,近代化以前の日本の湯屋や温泉と,性の扱いにおいて,よく似ている。湯屋のことはよく知らないが,温泉は,つい最近まで東北や山陰には混浴がたくさんあった。いまでも山間部には残っているはずだ。私自身,そうした混浴温泉にいくつか入ったことがあるが,そこでは老若男女の差異にかかわりなく,皆ごく自然に温泉を楽しんでいた。

Gender-inclusive Onsen! これは,まちがいなく近代以前だが,少なくとも外見的には,近代以後が向かいつつあるところでもあるような気がしてならない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/08/26 at 16:23

最高裁長官も女性に

カトマンズポスト(3月14日)によれば,司法委員会(憲法第153条設置)は3月13日,スシラ・カルキ最高裁判事を次期最高裁長官に推薦することを決めた。推薦通り任命されれば,4月中旬就任予定。

スシラ・カルキ最高裁判事は,1952年ビラトナガル生まれ。バナラス・ヒンドゥー大学大学院修了(政治学),トリブバン大学法学士。弁護士会推薦で最高裁判事就任。

カルキさんは,初の女性最高裁長官。これで大統領(BD・バンダリさん),連邦議会議長(O・ガルティさん)に加え,司法トップも女性となる。男性は首相(オリ氏)だけ。スゴイ!!

160314

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/14 at 18:15

カテゴリー: 司法

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第三の性パスポート,ネパール発行開始

性解放,ジェンダーフリーの世界最先進国ネパールで,ついに「第三の性」パスポートの発行が始まった。最初の取得者は,カイラリのトランスジェンダーの人となるらしい(Himalayan, 8 Aug)。

手続きは,まず「第三の性」市民登録をし,それを示して「第三の性」パスポートを取得する。

ネパールでは,すでに2007年,最高裁が「第三の性」市民登録の受理を命令する判決を下し,2013年の第2次制憲議会選挙でも「第三の性」有権者登録が実施された。この流れからして,「第三の性」パスポート発行は当然の結果といえよう。すでに何回か紹介したように,ネパールの出入国関係文書は「男」「女」「その他」の3カテゴリーとなっている。

ジェンダーフリー最先進国ネパールでは,これから先,「第三の性」のための制度や設備がどんどん整備されていくだろう。そして,「第三の性」といっても,LGBT(レスビアン,ゲイ,バイセクシャル,トランスジェンダー)など多様だから,「第三の性」がさらに個々人の固有の性的アイデンティティごとに細分化され,そのそれぞれについて自由と権利を保障するための制度と設備が整備されて行くにちがいない。人をその固有のアイデンティティにおいて尊重するとは,そういうことだから。

さて,そこで問題は,性的後進国・日本の対応。ネパール政府がパスポートで「第三の性」としての身分を保証し,旅行の安全を公式に要請しているとき,日本政府がそれを頭から無視することは難しかろう。日本の出入国に「第三の性」カテゴリーを追加せざるを得ないのではないだろうか?

そして,そうなれば論理的には日本国内でも,とりあえずは人々を「男」「女」「第三の性」の3カテゴリーに大別し,それぞれの人々に対応しうるよう制度や設備を整えて行かざるをえなくなる。たとえば,スポーツ種目の「男」「女」「第三の性」への組み替え,あるいは温泉施設における「男湯」「女湯」「第三の性湯」設置など。

これは悩ましい。超先進国ネパール以上に,後進国・日本にとっては。

▼ブルーダイアモンド協会
150807

▼「第三の性」出入国カード
150806a

[参照]
性的少数者の権利,先進国ネパールから学べ
M・F・X:ネパール「第三の性」旅券発行へ
「第三の性」パスポート,最高裁作成命令

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/08/07 at 16:51

カテゴリー: 文化, 人権

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