ネパール評論

ネパール研究会

Archive for 11月 2011

青蔵鉄道のルンビニ延伸計画

青蔵鉄道をチベット・ラサからカトマンズ経由でルンビニまで延伸する計画については,ネパール国内よりもむしろインドで大きく報道されてきた。それを受けてであろうが(直接参照は29日付レパブリカ記事),朝日新聞がニューデリー武石特派員の関連記事を図解入りでかなり大きく掲載している。

青蔵鉄道ルンビニ延伸計画は,いうまでもなくプラチャンダ議長(ルンビニ開発国家指導委員会委員長)のルンビニ開発計画の一環であり,もしこれが実現すれば,ネパールは北方経由の物流網を確保し,インドの軛からの脱却に向け大きく一歩前進する。

中国にとっても,開発余地の大きいタライや,その先のインド巨大市場への橋頭堡となり,経済的,政治的,軍事的メリットは大きい。

ルンビニ開発は,ネパールと中国の双方にとって利益があり,しかもどうやらアメリカ,韓国,そして国連すらもそれぞれの思惑で加担しているようなので,実現の可能性は十分にある。

これに危機感を募らせるのが,インド。今後のネパール情勢にとっては,人民解放軍解体と没収土地返却で体制内化へ雪崩を打つマオイストよりも,むしろインドの出方の方が要注意であろう。インドはどう動くのか?

 朝日新聞2011.11.30

【参照】
2011/10/19 ルンビニ開発とプラチャンダと中印米権力政治
2011/10/26 プラチャンダのルンビニ開発とバブラムのBIPPA,または中印覇権競争
2011/10/27 プラチャンダのルンビニ開発,国連をも取り込む
2011/11/04 ルンビニを国際平和都市に,プラチャンダの野望
2011/11/05 ルンビニ開発に2百万ドル拠出,韓国
2011/11/06 ルンビニ開発と国連事務総長選挙
2011/11/09 ルンビニ開発も新国際空港も韓国
2011/11/11 国連に赤旗,プラチャンダの勝利

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/30 at 10:07

制憲議会半年延長と人民解放軍解体

第11次改憲案が可決され,制憲議会任期が6ヶ月延長された。賛成505,反対3。最高裁は,これを最後の延長と判決しているので,5月末までに新憲法を制定しなければならない。といっても,また延長の可能性がない訳ではないが。

一方,人民解放軍も雪崩を打ってグループ分けに参加,幹部たちはそろって軍統合を希望した。

希望状況(28日現在)
 国軍統合:8738人,除隊給付金希望:7031人,社会復帰プログラム希望:5人,計15774人

国軍統合希望が,予定人数6500人を超えたが,この程度であれば,調整可能だろう。人民解放軍は解体に向かっている。

これは,プラチャンダ議長,バブラム首相らマオイスト主流派の勝利といってよい。この調子では,没収土地の返却も進むかもしれない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/29 at 22:04

返却土地、バイダ派が再没収

バイダ派マオイストが、、主流派マオイストにより地主BD.チャンド氏(コングレス)に返却させられた土地を、再没収した。

各紙報道によると、11月25日、「全国農民組合-革命派」が没収された土地に立ち入り、再没収を宣言、党旗をたてた。

ところが、翌26日、直ちに警官隊が派遣され、党旗は撤去されたが、土地がどうなるかは、まだわからない。現地では緊張が高まっているという。

没収土地は、これ以外にも多く、10年以上経過しているものも少なくない、返せといわれても、耕作農民はそう簡単には返せないだろう。もしマオイストが分裂するとするなら、人民解放軍解体とともに、この土地返却がその大きな要因になるにちがいない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/27 at 10:23

カテゴリー: マオイスト, 社会, 経済

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土地返却とPLA解体,マオイスト反主流派劣勢

このところ,予想外に,バイダ副議長,タパ書記長らのマオイスト反主流派が劣勢だ。

1.土地返却
マオイストの大義中の大義「耕作者の土地」の地主への返却が始まった。ekantipur(Nov25)によると,バルデヤ郡の農民28人が土地30ヘクタールを地主のBD.チャンド氏に返却させられた。立ち会ったのは,マオイスト・NC・UML各代表,地方行政府代表ら。

地主のチャンド氏は,紛争中は,地代(年貢)を全く受け取れなかったが,和平成立後,ようやく収穫の1/3が受け取れるようになったという。バルデヤ郡では,600haが没収されており,244人が返還請求中。

それにしても,チャンド一族は30ヘクタールもの農地を持ち,28人に小作をさせている。現在はカトマンズ在住。マオイスト理論からすれば,封建地主の見本のような家族だ。その不在地主に,マオイストも立ち会い,土地を返却させた。和平成立後の年貢1/3も,おそらく元の1/2に戻されるだろう。

マオイストは本気だろうか? それとも,象徴的なセレモニーにすぎないのか?

2.人民解放軍解体
人民解放軍(PLA)の解体も,予想外に順調に進んでいる。

先の「7項目合意」で,PLAの国軍統合人員は6500人以内と決められた。他は社会復帰。このPLA解体案に従い,現在,駐屯地収容戦闘員の組み分けが進められている。明日,27日に完了予定。

戦闘員の組み分け(11月25日現在)
国軍統合希望 5,254人; 給付金支給希望 3,777人; 計 9,031人

国連認定戦闘員は約1万9千人だから,あと1万人ほど残っているが,駐屯地にはそれほどはいないらしい。かなりの戦闘員が,駐屯地から抜け出し,どこかで何かをしている。マオイスト幹部が,早く戻れと命令しているが,さて,何人戻るか?

いずれにせよ,国軍統合枠6500人に対し,応募5254人だから,「脱走兵」が大挙原隊復帰しなければ,PLA解体は順調に進むことになる。

3.劣勢のマオイスト反主流派
このように,バイダ副議長,タパ書記長らのマオイスト反主流派は,いまのところ劣勢だ。これで,もし制憲議会が6ヶ月延長されれば,マオイスト体制派(既得権益享受派)は万々歳であり,「反革命」がさらに進行するであろう。

ひょっとして,王政復古となったりして。

【参照】没収地返却拒否,マオイスト反主流派
没収財産を返却せよ,プラチャンダ議長
和平7項目合意成立,プラチャンダの決断

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/26 at 11:32

国家再構築委員会,2ヶ月以内に答申

22日の閣議で「国家再構築委員会(SRC)」の委員8名が指名され,2ヶ月以内に国家再構築案(州区分など)を作成することになった。

■SRC委員
Krishna Hachhethhu, Surendra Mahato, Steila Tamang, Malla K Sundar, Dr. Bhogendra Jha, Sarbaraj Khadka, Dr.Ramesh Dhungel, Dr. Sabitra Gurung

これは,要するに州の線引き,作図であり,その気になれば,すぐ出来る。ニューデリーに原図があるなら,コピーするだけ。難しいのは,それを受け入れるかどうかということ。

あるいは,ひょっとすると,これは制憲議会任期の3ヶ月延長のための口実かもしれない。

Ps. いま見たら,制憲議会任期延長は,なんと6ヶ月だという。SRCは,それほど立派な口実だということ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/24 at 17:46

カテゴリー: 議会, 憲法

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没収地返却拒否,マオイスト反主流派

各紙報道によると,マオイストのタパ書記長は,没収分配土地は十分な補償なしには返却しない,と語った。「土地を耕作者に!」は,人民戦争のスローガンであった。プラチャンダ議長やバブラム首相は,この革命の大義に背いているというのだ。

その一方,バイダ派は,新たに地主土地の没収も始めたらしい。ヒマラヤン(22日)によると,コングレスのカリコット郡代表の土地をバイダ派が没収したが,警察は傍観しているだけだったという。

バイダ派地区代表によると,彼らは,人民が収穫した米の半分を持ち帰った地主から,それを人民に返させただけだという。そうかもしれないが,収穫米の全部を耕作者のものとするのであれば,土地没収と結果的には同じだ。

この説明が事実だとすると,収穫米の半分を年貢として取り上げる地主に対し,マオイストが小作人の側に立ち闘っていることになる。

収穫の半分が年貢! 日本の小地主の一人としては,何ともうらやましい話しだ。わが村では,からり以前からマイナス地代(礼金を払って耕作していただく)となっている。こんなことなら,政府肝いりの「研修労働者制度」によりネパールから農民を招き,わが田畑を耕作していただいた方がはるかにましだ。年貢は10%程度でよい。50%もとられるネパールに比べたら,はるかに有利だ。今度ネパールに行ったら,「日本で農業を!」と大々的に宣伝してみるつもりだ。

いずれにせよ,バイダ派は耕作農民のために,年貢50%を取っているらしいコングレス派地主と闘っている。10数年前と同様,その限りではバイダ派に正義がある。新人民戦争が始まるかもしれない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/23 at 12:00

没収財産を返却せよ,プラチャンダ議長

「7項目合意」に基づく没収財産の返却作業が始まった。これは人民解放軍解体以上の難問。うまくいくか? あるいは,そもそも,こんな反革命的なことをマオイストがやってよいのか?

各紙報道によると,11月20日,プラチャンダ議長は,NCのシタウラ書記長,UMLのゴータム副議長とともに,バルデヤ郡に入った。ここは,没収財産が最多の郡だそうだ。没収農地は1190ビガー(809ha),返却要求している地主は242人(家族)。土地配分を受けた農民数は不明。(地主の代わりに地域マオイストが地代=税金を取っているのかもしれない。)

没収財産のうち,党機関や他の関係集団が占有使用している建物等については,返却は比較的容易であろう。難しいのは,やはり農民に配分され,使用されている農地の返却。「農地解放」を10年後に取り消し,元地主に返却させるようなものだから。

土地を返却した農民には補償金を払うというが,金額も,あるいはその約束が守られるかさえも,はっきりしない。バイダ副議長らマオイスト反主流派は,もちろん断固反対。

しかし,そこはプラチャンダ議長,配分土地の返却は強行しない,と微妙な含みをもたせている。また,補償金など,すぐお隣のルンビニ開発の巨大利権からすれば,雀の涙。偉大なる世界的政治家,プラチャンダ議長からすれば,ほんのささいな些事にすぎないのだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/21 at 11:02

カテゴリー: マオイスト, 社会, 経済

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赤い国のミスコン熱

共産党議員が国会の過半を占める赤色革命国ネパールは,また女大好きのミスコン大国でもある。2011年ミス・ワールド授賞式(11月6日)の映像も,さっそく大手メディアHPに掲載され,好評を博している(らしい)。

ミスコン本家イギリスは,遊び大国,何でも賭けのタネにし,紳士らしく上品に遊ぶ。女も大好きで,大切な遊びのタネ。競馬場で馬を品定めするように,女を裸にして品定め,紳士らしく上品に,まじめに遊ぶ。いかにも英国的で,ほほえましい。
 2011ミス・ワールド水着審査

しかし,そうした優雅な封建貴族や有閑紳士の遊びに,世界に冠たる共産党統治国ネパールが熱中することはあるまい。資本主義国であっても,紳士的遊び心のない拝金主義のアメリカや日本では,もはやミスコンなど見向きもされない。

しかも,品定めの結果が,意味深だ。(最近はほぼ同じ傾向)
  ■世界美女 第1位 ベネズエラ  第2位 フィリピン  第3位 プエルトリコ

これが何を意味するか? よ~く考えてみよう。

ここで,公平のため,わが日本国の状況についても,紹介しておこう。わが日本国では,外務省が「国際文化協会」を「外務省所管特例民法法人」として認可している。この「協会」は,「ミス・インターナショナル世界大会」を開催し,半裸女性をHPで世界に公開,日本文化の振興に貢献している。
 国際文化協会HPより

さすが外務省,紳士の国イギリス(のお遊び)と,ミスコンで競っているわけだ。で,ミス・ワールドとミス・インターナショナル,どっちがより美しいの?

[参考]
外務省所管特例民法法人一覧(外務省HP)
社団法人 国際文化協会
目的の概要: 世界の文化、芸術及び民族芸能の交流を図り、海外諸国との友好親善に寄与すること
事業:日本文化に関する展覧会の開催,ミス・インターナショナル世界大会開催
主管課: 広報文化交流部文化交流課

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/20 at 12:04

カテゴリー: 文化, 人権

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第11次改憲案撤回と人民解放軍解体開始

マオイスト,NC,UMLの主要3党とUDMFは,11月18日,第11次改憲案を撤回し,「連邦制特別委員会」を設置することに合意した。特別委員会は,2ヶ月以内に,連邦区画案を提出する。また,邦区画は,アイデンティティを基準とする。

これは,バイダ副議長らのマオイスト反主流派の勝利のように見えるが,一方,今日(19日土曜日)から人民解放軍の解体作業――国軍統合組と社会復帰組への仕分け――が開始されることを考え合わせると,一種の取引とも見える。

連邦区画なんか実際にはどうでもよく,問題は人民解放軍の解体。飴玉の改憲案撤回でメンツを立ててやり,その代わり人民解放軍解体に着手する。

しかも,特別委員会答申を2ヶ月先としたことにより,11月末で任期満了となる制憲議会の任期をまたまた3ヶ月延長する大義名分も得られる。

1石3鳥。ネパール政治は,なかなか奥が深い。というか,法の支配による予見可能性が,極端に低い。やはり,ポストモダンではなく,モダンが先ではないかな? 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/19 at 11:04

キラン=バダルの「新人民戦争」警告

1.新人民戦争
マオイスト反主流派のキラン副議長とバダル書記長が,11月2日付声明において「7項目合意」を全面的に否定し,撤回しなければ,「次の歴史的人民運動の開始」は避けられない,と警告した。一種の最後通牒ともいえる。
  ■和平7項目合意成立,プラチャンダの決断

2.軍統合について
声明は「7項目合意」のほぼ全面否定だが,特に問題にしているのは,第1に,人民解放軍(PLA)の統合方法。

声明は,PLAを個人単位ではなく部隊単位で,また武装解除の丸腰ではなく武装した軍隊として国軍に統合せよと要求している。

統合比率は,国軍65%+PLA35%ではなく,国軍50%+PLA50%とする。

さらに,統合後の任務は,「建設開発,森林警備,産業保安,災害対応」といった建設作業員やガードマンのような仕事ではなく,ちゃんとした軍人としての名誉ある任務とする。

このPLA統合方法については,当初から意見が激しく対立していたが,プラチャンダ=バブラム主流派が国軍要求を呑んだことにより,「7項目合意」として成立した。キラン=バダル反主流派は,その根本のところを全面否定しているのだ。

3.没収財産の返却
第2の問題は,人民戦争中にマオイストが没収した財産の返却。

没収財産がどのくらいあるのか分からないが,人民戦争中,マオイストが地主や高利貸しや他の資産家を襲撃し,土地,建物や他の財産を没収,貧困人民に分配したことは周知の事実だ。(分配と称して,マオイストがピンハネ,横領しているものも多数あるにちがいない。)「7項目合意」では,それらの没収財産を元の所有者に返却し,損害賠償もすることになっている。

「7項目合意」のこの部分を見たとき,これは凄い,「反革命的!」と感動したが,同時に,そんな反革命的に凄いことはできないのではないか,と心配になった。案の定,キラン=バダル反主流派は猛反発し,土地配分を受けている農民らと共に立ち上がる,と警告している。

4.懐柔されるマオイスト主流派?
一方,「反国家的・反人民的合意」(声明)の締結にこぎつけたプラチャンダ=バブラム主流派政府は,帝国主義筋の美味しいご接待で陥落寸前。

PLA統合の重責を担う政府の「軍統合特別委員会(AISC)」の委員5人(過半数)は,米政府のご招待で訪米,「民軍関係訓練」を受けている。カリフォルニアの「陸海軍アカデミー」のプログラムだそうだ。さすがアメリカ,マオイスト統合後のネパール国軍も,ちゃんとリモートコントロールするための手当をしている。

しかも,この米陸海軍「民軍関係訓練」と併行して,プラチャンダ使節団が訪米し,バン国連事務総長と会談,ルンビニ開発支援の言質を取った。オバマ大統領,クリントン国務長官とは,会見したという報道はないので,会えなかったのだろう。しかし,いずれにせよ,大金と巨大利権の大プロジェクトに,マオイスト主流派が,国連=米韓中を引き込んだ,あるいは引き込まれた,ことは確かだ。

ネパールは小国だが,地政学的には,印中の台頭とともにますます重要性が高まってきている。その諸勢力入り乱れての権謀術数の渦中で,ネパール政治がどう動いているのかを見極めるのは至難の業だ。

プラチャンダ議長は,世界を手玉に取っているのか,それとも世界帝国主義勢力に懐柔されているのか? キラン=バダル反主流派とプラチャンダ=バブラム主流派との争いは,譲歩引き出しのための出来レースではないのか? どこまで本気で,どこまでやらせか?
 
いつもながら,摩訶不思議,よく分からない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/18 at 11:50