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ネパール憲法AI探訪(8): ネパールは世俗国家?

1.難解な世俗国家規定
憲法第1編総則の第4条は,「国家(राज्य)」について規定している。(1)(2)の2項に分かれ,(1)はネパール国家の本性規定,(2)は領土の規定である。この第4条も難解。ここでは,まず第(1)項から見ていくことにする。

第4条 ネパール国家(राज्य)
(1)ネパールは,独立の,不可分の,主権的な,世俗的な(धर्मनिरपेक्ष),包摂的な(समावेशी),民主的な,および社会主義志向の(समाजवाद उन्मुख)連邦民主主義共和国である。
注釈(स्पष्टीकरण): 本条において,「世俗的な」は,古来の宗教および文化の保護(संरक्षण)を含む宗教的および文化的自由を意味する。[要旨]

このネパールの国家本性規定の中で最も難しく議論を呼びそうなのが,「世俗的な」の解釈。一般に,「世俗的(secular)」とは,政教分離の原則に立ち,国家ないし政府は宗教には関与しないことを意味する。ネパール語のधर्मनिरपेक्षも,宗教(धर्म)には関与しない(निरपेक्ष)という意味らしいから,secularと同義と見てよいであろう。

ところが,この第4条(1)には「注釈」が付いており,「世俗的」は古来の宗教や文化の保護を含む,と明記されている。この「注釈」は,ネパール国家は古来の宗教や文化を保護してもよい,あるいは保護すべきだ,という意味のように思われるが,この解釈でよいのであろうか? よいとすれば,第4条本文と注釈の関係は,どうなるのか? どのような意味で,ネパールは「世俗国家」なのか? 

2.ネパールは世俗国家か?
これは,単に難しいだけでなく人の内面をも探りかねない微妙な問題でもあり,面と向かって人に尋ねるのは躊躇される。こうしたとき頼りになるのは,やはりAI先生。人情とは無縁のメカニズムなので,そんな心配や遠慮は全く不要だ。さっそく質問してみた。回答は以下の通り。

Bing(日英),Bard(日英),ChatGPT3.5のいずれも,「ネパールは世俗国家です」との紋切り型回答。「注釈」には気づかなかったらしい。

これらに対し,唯一,Perplexityだけが,おそらく「注釈」をも読み込み,次のような一歩踏み込んだ回答を出してくれている。

Perplexity回答: ネパールは「世俗国家」だが,その「世俗的」には「古来の宗教や文化の保護も含まれている」。批判的な立場をとる人々によれば,「ネパールの世俗主義は限定的であり,少数派宗教への偏見や差別など,国際的な人権基準とは相容れないもの」である。

このPerplexity回答は,憲法解釈としてはやや踏み込み過ぎと見えなくもないが,唯一,「注釈」をも読み込んでいる点で,十分評価するに値する。ネパールの世俗主義は,後述の「改宗禁止規定」(第26条)とも考え合わせると,おそらくこのPerplexity回答のようなものであると解釈してよいであろう。

3.世俗国家:狭義か広義か?
ネパールが「世俗国家」か否かは,換言すれば,結局は「世俗国家」の定義如何による。そこで,AI先生に,改めて「世俗国家」の定義について質問してみた。回答は,一部上記と重複するが,以下の通り。

(1)狭義:国家と宗教の分離
①Bard(日英) 「世俗国家とは,国家の法律や公共政策において特定の宗教を基盤としない国家です。世俗国家においては,政府は宗教に干渉せず,特定の宗教を支援しません。世俗国家の基本原則は,宗教の自由と政教分離です。宗教の自由とは,,すべての人が自分の信仰を自由に選択し,信仰に基づいて自由に宗教活動を行うことが出来る権利です。政教分離とは,政府と宗教活動が別々に存在し,政府が宗教に干渉せず,宗教機関が政府に干渉しないことです。世俗国家は,宗教国家と対比されます。宗教国家とは,特定の宗教を基盤とする国家です。宗教国家においては,政府は宗教に干渉し,特定の宗教を支援します。」
②ChatGPT3.5 「世俗国家では,政治機関は宗教については中立である。世俗国家の政府は,特定の宗派や信仰の優遇や助成をすることはしない。」

(2)広義:政教分離の例外容認
①Bing(日英) 「世俗国家は、宗教に関わらずすべての市民を平等に扱い、市民が宗教的信念、所属、またはそれらの欠如に基づいて優遇されることを避けると主張します。しかし、国家が宗教を持たないということは、その国家が完全に世俗的または平等であることを意味するわけではありません。例えば、自身を世俗と称する一部の国家では、国歌や国旗に宗教的な言及があったり、ある宗教を利益する法律が存在したりします。」(英)
「ほとんどの場合に近代民主主義国家は世俗国家であるが、イタリアにおけるカトリックの特殊な地位など世俗化の程度には国家によって差がある。」(日)
②Perplexity 「世俗国家は国家宗教をもたないが,特定の国家宗教がないからといって,その国が完全に世俗的・平等主義的というわけでもない。たとえば,世俗国家と宣言している国の中にも,宗教的意味合いをもつ国旗や国歌,あるいは特定の宗教を優遇する法律を有する国がいくつかある。」

(3)広義の世俗国家としてのネパール
ネパールは,憲法で「世俗国家」と定めているので世俗国家であることはたしかだが,それは,結局,広義での世俗国家ということになる。

では,広義の世俗国家として,ネパールは宗教分野への国家介入をどこまで認めるのであろうか? これは,政教完全分離を原則とする狭義の世俗国家国にとってよりも,むしろ,より錯綜した難しい課題であると見てよいであろう。

なお,宗教については,「第26条 宗教的自由の権利」において詳細に規定されているので,改宗禁止など具体的な問題については,別に改めて検討することにする。

 ■インドラ祭臨席の大統領と首相(2009)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/09/16 at 17:25

生成AI問答(4): ネパールの人々は,彼ら自身の国家の世俗化について,どう考えていますか?

宗教は,国歌以上に難しい。取り扱いを誤れば,内乱,戦争で国家破滅となりかねない。要注意の最たるものだ。そんな難問中の難問について,生成AIは,どのような回答を示してくれるだろうか?

この問いを尋ねるのに最も適した国の一つが,ネパール。ネパールは,古来,ヒンドゥー教や仏教と密接な関係にあり,またイスラム教も一定の確たる勢力を――特に南部で――保持してきた。

そこに,1990年以降の自由化・資本主義化の進行とともに,とりわけヒンドゥー教を国教とする憲法規定の廃止以降,キリスト教がツナミの如くどっと押し寄せてきた。ネパールはいま,一方でのヒンドゥー教vs仏教vsイスラム教vsキリスト教という宗教競合に加え,他方での全般的な世俗化・脱宗教化の進行という,宗教政策的に見て非常に難しい状況にあると言わざるをえない。この難問に関する生成AIへの今回の具体的な質問文は,表題の通り。

Bing回答①は,情報不足の上に,マオイスト運動高揚を1990年とし,またヒンドゥー教を「国家宗教」としており,まったくの誤り。マオイスト運動開始は1996年だし,宗教については,ネパール憲法(2007年暫定憲法/2015年現行憲法)が「世俗国家」」と明確に規定している。文章作成が優先し,適正な情報の抽出・結合を誤ったのであろう。

Bing回答②は,①と全く同じ質問文を,数時間後に投稿してみて得られたもの。驚くなかれ,上記①とは全くの別物。情報不足は如何ともしがたいが,誤りではない。AIは同じ問でも異なった回答を出すことがある――要注意だ!

ChatGPT回答(質問&回答=Google翻訳使用)は,懇切丁寧で,見事。AIによる回答と自動翻訳のあまりのスゴさに,思わす寒気さえ感じるほどだ。

*****<以下,生成AI回答>*****
[1a] Bingの回答①(質問&回答=日本語)
ネパールの人々は、国家の世俗化について、様々な意見を持っています。1990年には、大規模な人民運動が起こり、王制の廃止と世俗国家の実現を目指すマオイストの活動が高まりを見せました。しかし、2015年には、ネパールは世界で最も多様な宗教を持つ国家の一つであり、国民の約80%がヒンドゥー教徒であるため、政府は国家宗教としてヒンドゥー教を認めることにしました。

[1b] Bingの回答②(上記①の数時間後の回答,質問&回答=日本語)
現在のウェブページによると、ネパールの憲法は、世俗的であることを明記しています。ネパールの憲法は、国家が宗教的に中立であることを保証するために、世俗主義を採用しています。

[2] ChatGPTの回答(質問&回答=Google翻訳使用)
ネパールの世俗化は国内で物議をかもしている問題であり、それについての意見はネパール人の間でさまざまです。

一部のネパール人は世俗主義を支持しており、世俗主義が異なる宗教や民族グループ間の平等と寛容を促進すると信じています。 彼らは、国が宗教に関して中立を保ち、個人が自由に宗教を実践する権利を有することを保証する必要があると主張している.

しかし、世俗主義に反対するネパール人、特にヒンズー教徒を自認する人々も多い。 彼らは、ネパールはヒンズー教の国であり、世俗主義が彼らの宗教的信念と伝統を弱体化させていると信じています。 彼らは、ネパールのアイデンティティと文化はヒンズー教と結びついており、世俗主義がこれらの価値観を侵食する恐れがあると主張している.

全体として、ネパールにおける世俗主義の問題は依然として論争の的で複雑なものであり、意見は宗教的、文化的、政治的信念の影響を受けることが多い.
*****<以上,生成AI回答>*****

230505 ■連日AI報道(朝日新聞2023/05/05)

【参照】
*  宗教関係投稿一覧
*1 キリスト教牧師に有罪判決(1)-(5)
*2 キリスト教攻撃激化と規制強化(1)-(6)
*3 キリスト教とネパール政治(1)-(10)
*4 改宗勧誘・宗教感情棄損を禁止する改正刑法,成立
*5 「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について
*6 キリスト教政党の台頭
*7 キリスト教会,連続攻撃される
*8 クリスマスを国民祭日に戻せ,キリスト者連盟
*9 キリスト教絵本配布事件,無罪判決
*10 改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ
*11 改宗勧誘は禁錮5年,刑法改正案
*12 世俗国家大統領の寺院「公式」参拝
*13 震災救援の複雑な利害関係(12):支援食品「牛肉マサラ」
*14 ヒンドゥー教王国復古運動,RPP-N
*15 宗教問題への「不介入」,独大使
*16 改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント
*17 国家元首のダサイン大祭参加
*18 世俗国家のダサイン
*19 国家世俗化とキリスト教墓地問題
*20 信仰の自由と強者の権利
*21 民族紛争、宗教紛争へ転化か?
*22 宗教と「表現の自由」:ヒンドゥー教冒涜事件
*23 民族州と「イスラム全国闘争同盟」結成
*24 世俗国家ネパールのクリスマス祭日
*25 仏教の政治的利用:ガルトゥング批判
*26 国家世俗化とネパール・ムスリムのジレンマ
*27 イスラム協会書記長,暗殺される
*28 ブッダ平和賞における政治と宗教
*29 毛沢東主義vsキリスト教vsヒンズー教
*30 コミュナリズムの予兆(1)-(7)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/05/05 at 13:42

キリスト教政党の台頭

ネパールでは,国家世俗化によりキリスト教会が勢力を拡大し,政治の世界にも進出し始めた。すでに政党もいくつか結成され,2013年制憲議会選挙では,「覚醒党(जनजागरण पार्टी [awareness] Party)」が1議席獲得した。党の本拠はラリトプルで,党シンボルは懐中電灯。

昨日(5月14日)の地方選挙(前期)では,この覚醒党を中心に,キリスト教会系4党が選挙協力に向け協議した。
 ・覚醒党(選管登録済,2017年3月10日現在)
 ・Rastriya Mukti Andolan Party(選管登録済,同上)
 ・People’s Party(選管登録申請中,同上)
 ・PA Christian Party(選管登録申請中,同上)

カトリック系「アジアニュース(www.asianews.it)」(2017年3月17日)によれば,この4党協議では,次のような意見が出された。
ロクマニ・ダカール(覚醒党党首)
「選挙を通してイエス・キリストのことを伝えたい。そうすれば,イエスの名で全有権者に訴えることができる。」
ジャヤワンタ・B・シャハ(Rastriya Mukti Andolan Party党首,4党協議代表)
「[選挙協力実現に向け残るのは]4党連合を誰が代表するかということと,選挙に出る政党の名称とシンボルを何にするかということだけだ。」(「アジアニュース」によれば,十字架とキリストの名を党名と党シンボルに配することを選管に打診中。)

この3月の4党協議は,結局,うまくいかなかったようだが,それにしてもキリスト教会系政党が,ここまで大っぴらにキリスト教を前面に出して選挙出馬を考えるとは,まったくもって隔世の感を禁じ得ない。

こうした宗教団体の政治活動について,現行2015年憲法は,微妙な規定を置いている。
第269条 政党の結成,登録および活動
(1)政党結成の自由  (2)選管への政党登録
(3)政党登録要件 (a)党則が民主的,(b)党役員の定期的選挙選出,(c)党役員の包摂性
(5)党名,党目標,党章および党旗がネパールの宗教的および社会的統一を損なわないこと,また国家の分裂を招かないこと

この憲法規定に,キリスト教会系諸政党は抵触しないのか? 前述のように,すでに2政党は選管登録されている。覚醒党は,懐中電灯で照らし,「目覚めよ!」と訴え,制憲議会に1議席を獲得した。しかし,前述の4党協議で出されたように,十字架を掲げキリストの教えを選挙で訴えるとなると,どうか?

ネパールには牛をシンボルとする有力なヒンドゥー教政党があり選挙でもヒンドゥー国家復帰を訴えているのだから,論理的にはキリスト教政党が選挙でキリスト教国家建設を説いてもよいことになる。矛盾はない。

しかし,こうした行き方には大きな問題がある。もし,これが認められるなら,政治は宗教対立の場と化し,ネパールは際限のない宗教紛争の泥沼に陥る。これまで,キリスト教が不当に抑圧されてきたことは事実だが,だからといって無原則に宗教を政治に持ち込むべきではない。それは,あまりにも危険である。ここはやはり,原理原則に立ち戻るべきであろう――政教分離の。

▼覚醒党FB

 ■FB表紙/2013年選挙用。政党シンボルにマンジ印をつけ投票(2017年4月2日付FB投稿)

▼地方選への覚醒党立候補(選管HPより)

 ■ラリトプル/バクタプル(赤印)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/15 at 16:48

京都の米軍基地(107):イースターで子供の米軍馴致

今年もまた,京丹後進駐米軍がイースターを利用して子供たちを洗脳し,その成果をあっけらかんと世界に向け宣伝している。米国国益のためなら,アジア辺境地の「無邪気な子供たち」のプライバシーなど,はなから問題にならない。

EASTER EGG HUNT」4月15日
(1)会場:京丹後文化会館 主催:米陸軍経ケ岬通信所 共催:京丹後市国際交流協会
(2)会場:道の駅てんきてんき丹後 主催:米陸軍経ケ岬通信所

招待されたのは,3歳から12歳までの子供たち。会場では,軍人,軍属ら米軍関係者が,おやつ付きで楽しく遊んでくれる。こんなことを繰り返せば,子供たちはごく自然に米軍に馴れ親しんでいく。そして,数年,おそくとも十数年もすれば,彼らは親米軍の日本国有権者となるわけだ。

一般に英米は,総合的な長期戦略に長けている。京丹後での米軍馴致作戦も,その典型だ。一見迂遠に見えるが,結局はそれが,米国防衛のための日本国土利用を,より安定的・効率的とし,そしてまた,より安上がりとするのだ。

さらにもう一つ注意すべきは,イースター(復活祭)は宗教儀式でもあるということ。もともとの起源は定かではないが,一般にイースターは「イエス・キリスト復活記念日」とされ,世界各地のキリスト教会で特別なイースター礼拝が執り行われている。

「EASTER EGG HUNT」は,そのキリスト教儀式としてのイースターを祝う祭事。それを米軍と京丹後市国際交流協会が共同で開催し,そこに地域の子供たちを招く。京丹後市国際交流協会には京丹後市から「運営補助金」や「事業補助金」が出されているから(今年度補助金額不明),「EASTER EGG HUNT」は直接的あるいは間接的に公金補助を受けていることになる。

このように,米軍と京丹後市は,基地運用開始からわずか2年余にして,はやズブズブの関係,市役所は米軍奉仕にこれ努めている。日本は,わざわざミサイルなどぶち込まなくても,こうして半植民地化できる。安上がり。感謝されさえする。もって範とすべし。


 ■ゲームとお菓子と英語と米軍(宣伝ポスター)/京丹後市国際交流協会FB(子供の顔消去)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/04/27 at 19:42

世俗国家大統領の寺院「公式」参拝

バンダリ大統領(ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派)が2015年12月28日,パシュパティ寺院を「公式」参拝し,僧の司式の下で,ネパールと世界の繁栄を神々に祈願した。

ネパールがヒンドゥー教国家であった頃はむろんのこと,それ以降であっても世俗国家宣言以前であれば,国王や首相がパシュパティ寺院を公式訪問することに何の問題もなかった。というよりもむしろ,それは彼らの当然の義務と見られていた。

しかし,2007年暫定憲法,そして現行2015年憲法により世俗国家が明文規定されて以後は,国家元首たる大統領がパシュパティ寺院を「公式」参拝することは,憲法上許されないとみるべきであろう。憲法はこう定めている(赤強調筆者)。

2007年暫定憲法
第4条(1) ネパールは,独立,不可分,主権的,世俗的および包摂的な連邦民主共和国である。
2015年憲法
第4条(1) ネパールは,独立,不可分,主権的,世俗的,包摂民主主義的および社会主義志向的な連邦民主共和国である。

バンダリ大統領は,大統領としての初の月給121,360ルピー(約13万円)をパシュパティ地区開発基金(PADT)に寄付した。(別に,寺院にも直接寄付したとされるが,詳細不明。)この寄付金は大統領月給だから公金ではないとされている。

たしかに,そうともいえるが,大統領の参拝は数日前から通知され,十分準備されたものだった。当日は,SB・バスネット内相が多くの市民や生徒らとともに寺院で大統領を出迎えたし,神々への礼拝も,サンスクリットでヒンドゥー教のしきたりに則り行われた。どうみても「公式」の宗教行為である。

バンダリ大統領は,つい半月ほど前(12月16日),強硬な反対を無視して強引にジャナキ寺院を「公式」参拝し,大混乱を引き起こした。28日のパシュパティ寺院参拝は,その失策の挽回を狙ったものかもしれない。(参照:大統領の政治利用と権威失墜

著名なマルクス・レーニン主義者・共産主義者のバンダリ大統領が,世俗国家大統領であるにもかかわらずヒンドゥー教寺院参拝に熱心なのは,なぜなのだろうか? 一つ考えられるのは,憲法第4条(1)の但し書きを根拠に,寺院参拝を強行し,ヒンドゥー保守層の支持を確保しようとしているのではないか,ということ。

2015年憲法第4条(1)[但し書き]
(原注)本条でいう「世俗的」は,古くから実践されてきた宗教と文化・・・・の保護を意味する。

9月20日公布施行の現行2015年憲法については,それに基づく州区画や選挙区割りをめぐり,いまタライで激しい反憲法闘争が繰り広げられている。この問題がどう決着するか,いまのところ見通しは全くたっていない。

それだけでも大変なのに,今度は,この世俗国家規定問題。これは,見方によれば,州や選挙区の決め方よりも,はるかに難しく深刻な問題である。現行憲法の最大のアキレス腱といってもよい。これからどうなるか,こちらも心配である。

160105a■パシュパティ地区開発基金(PADT)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/05 at 11:50

京都の米軍基地(67):米軍イースター布教,大成功

経ケ岬米軍が,京丹後市の現地住民を招き,「イースターエッグハント――一緒にアメリカ文化体験」を催行した。京丹後市国際交流協会との共催。

イースター祭がキリスト教の宗教儀式であることは,前述のとおり明々白々(参照:米軍とキリスト教)。米軍は正直であり,宣撫すべき現地住民(「原住民」)を招き宗教活動をしていることを,隠しはしない。平然と,こう公言している。

Great Easter event with over 100 children for the Easter Egg Hunt. Very special service by COL Revell, 94th AAMDC Chaplin. Thank you to Central Hotel and the Kyotango International association for making it possible.
イースターイベント(復活祭)にて行われたイースターハントに、100名以上の子供たちが参加してくれました。参加者の皆様、そして開催にご協力いただきました京丹後市国際交流協会とセントラーレ・ホテルに大変感謝致します。第94米陸軍対空ミサイル防衛コマンド チャップリン、ラビル大佐による特別礼拝も受けました。
(経ケ岬米軍FB,赤強調=引用者; 原文中の「Chaplin=チャップリン」は喜劇王。和製英語ではChaplainと綴る。旧宗主国OEDで確認せよ!)

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 ■参加者(米軍FB,子供の顔削除)/京都新聞4月6日記事(子供の顔削除)

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 ■会場での礼拝(米軍FB)/礼拝案内(正面左に掲示?,同FB)

写真には,イエスや十字架は写ってはいないが,これはどう見ても礼拝(Service)。その宗教儀式,布教・宣教の場に,ほとんどが異教徒のはずの現地の子供と家族多数(約100人)が招待され,参加したのだ。

アメリカは,キリスト教を事実上「準国教」とする宗教国家であり,また米語(英語)を「世界共通語」と信じて疑わない英語帝国主義(English Imperialism)の国家でもある。対照的に,現代日本は,宗教と政治を峻別する世俗国家(憲法第20条)であり,米語(英語)は多くの外国語の一つにすぎない。日本は,国家の在り方も文化も,米国とは大きく異なる。

しかし,日本は,単に米国と異なるだけではない。困ったことに,日本は,幕末と太平洋戦争の二度の惨めな敗北がトラウマとなり,根深い対米劣等感に憑りつかれている。アメリカが後進国・日本の啓蒙を「天与の使命(Manifest Destiny)」と信じて疑わないのに対し,日本は,そのアメリカの顔色を常にうかがい,何か言われれば,すぐ恐れ入り,進んで迎合する。その典型が,キリスト教と米語(英語)だ。(参照:英語帝国主義安倍首相と英語

しかも,ここで見落としてならないのは,少なくとも米政府当局は,日本を冷静かつ冷酷に分析し,長期的戦略を立て,このような対日政策を目的合理的に遂行しているということ。

アメリカは世界有数の多文化社会。英語以外の言語,たとえばスペイン語を母語とするアメリカ人も多数いるはずなのに,米軍は,スペイン語での交流会を開き,日本の子供やその家族を招き交流しようとはしない。あるいは,キリスト教以外の宗教も,ユダヤ教,イスラム教,仏教など多数信仰されているはずなのに,たとえばイスラム教の宗教儀式を主催し日本人と交流することもない。米軍は,「アメリカ文化はキリスト教と英語」というプロパガンダが米国国益に最もかない,かつ日本に最も有効と見定め,そのフィクションにより日本人を啓蒙・教化しつつあるのだ。

子供たちは身ぶり手ぶりや片言の英語で軍人と話し,イベントを楽しんだ。」(京都新聞4月6日)

「身ぶり手ぶりや片言の英語で軍人と話し」たのは,子供だけではあるまい。大人もまた日本側は幼稚なことしか表現できず,米軍人・軍属やその家族は,たとえ2,3歳の子供であっても,会場では圧倒的に優越した上位者の側にあったにちがいなる。こうして,日本側は対米劣等感をインプットされ,ことあるごとに思い知らされ,対米従属に馴致されていく。米国ソフトパワー恐るべし。

米国は正直だ。自分たちが世界最強の武器を持ち,いつでも行使できる恐ろしいワシであることを誇りこそすれ,隠したりはしない。日本でも,イザとなれば治外法権,何でもできる。

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 ■経ケ岬米軍シンボルマーク(米軍FB)/霊峰富士を撃つ米兵(米軍FB)

それなのに,われらが同朋は,それを見て見ぬふりをし,子供をすら差し出す。「子供たちは身ぶり手ぶりや片言の英語で軍人と話し」たのだ!! 植民地根性が習い性となっているといわれても,いたしかたあるまい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/04/07 at 20:53

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(10)

8.ブリジット・バルドーの大統領宛公開書簡
仏女優ブリジット・バルドーが,ガディマイ祭禁止を求める公開書簡をネパール大統領に送った。祭り利用の金儲け批判はもっともだが,だからといって神々への敬虔な動物供犠までも十把一絡げに否定するのは,行き過ぎだ。

一国の元首に向かって,その国の伝統文化を「血に飢えた」「残虐な暴力行為」と罵倒し,止めさせよ,と高飛車に要求するのは,あまりにも非礼。ネパール大統領は,完全無視でよい。

菜食主義者の肉食反対や非暴力主義者の動物供犠反対は,むろん自由である。大いに議論し,新しい文化を創っていったらよい。が,だからといって,宗教や文化の根幹に関わる価値(価値観)の問題を,安易に政治の世界に持ち出すことは許されない。神々の争いを政治化すれば,世界は動物以前に人間が殺し合うことになる。

しかし,残念なことに,近代以降,欧米の政治技術が発達し,いまや世界世論は彼らにより操縦されている。欧米の常套手段は分割統治。ネパールの動物供犠についても,欧米が介入し,世論を分断し,問題を政治化し,結局はそれを政治的に廃止させてしまうだろう。

予定では,明日,明後日が動物供犠。SAARC会議よりもはるかに重要。注視していたい。

[書簡要旨]
2009年の書簡は無視されたが,私は諦めてはいない。

今年は,総数25万のヤギ,水牛,ブタ,ニワトリ,ハト,アヒル,ネズミが生贄にされる。しかし,ガディマイ女神が,そのような無実の生き物の生贄を喜び,その残虐な暴力と引き替えに繁栄をもたらしてくれるとは,到底信じられない。

古くさい血まみれの残虐な伝統は,ネパールの評判を大きく損なう。廃止すれば,評価は上がる。

ガディマイ祭は金儲けが目的となっており,ネパール政府はそのような祭りを認めるべきではない。この祭りが認められるのなら,「麻薬祭」や「酒祭」でさえ認められることになる。

インド内務省は,ネパールへの不法な動物輸送を禁止した。ヒマーチャルプラデーシュ州でも,動物供犠禁止の判決が出た。インドは,動物保護に向け大きく前進している。

大統領の国ネパールも,残虐な伝統を一掃すべきだ。そうすれば,平和と共生のために立ち上がった大統領として,あなたの名前は後々まで語り継がれるだろう。そして,あなたの国も長く繁栄するだろう

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/27 at 17:24

安倍首相の靖国参拝と天皇誕生日・クリスマス・毛沢東生誕記念日

1.天皇・キリスト・毛沢東・安倍首相
安倍首相が,政権誕生1周年の12月26日,靖国神社を参拝した。同じ26日,中国では,毛沢東生誕120周年が大々的に祝われた。3日前の23日は天皇誕生日であり,国民は天皇傘寿を心から祝った。そして,前日の24-25日はクリスマス,世界の何億という人々が,こぞってイエス・キリストの降誕を祝い祈りを捧げた。12月の23日,24-25日,26日は,世界中の多くの人々にとって,特別の日である。

その大切な日々の最中,安倍首相は靖国神社を参拝した。安倍氏の首相就任は,天皇(23日),イエス・キリスト(24-25日),毛沢東(26日)といった特別の人や神や偉人の生誕に相当する歴史上の出来事なのだ。

2.靖国参拝歓迎
日本国民の多くは,安倍首相の靖国参拝を歓迎した。街にもネットにも喜びの声が満ちあふれているが,ここではネパールと関係が深い野口健氏のツイッターを紹介しよう。氏の意見は,大多数の日本人の気持ちを代表しているし,またツイッターは公開されており,世界中への拡散が自明なものとされ期待されてもいるからである。

—-(以下引用)—————–
野口健 Twitter
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 11:33
総理の靖国参拝はあるべき姿でいちいち大騒ぎする話でもなく。日本のメディアもいちいち煽るからいけない。
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 11:39
特攻隊員もそうですが多くの兵士が「靖国で会おう」と言いながら出撃していった。僕もよく靖国参拝しますけれどその度に戦争を繰り返してはいけないと心底に感じるもの。戦争を美化したり正当化するものでもない。
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 11:41
本当にそう RT@8robinaru4:靖国神社は、戊辰戦争以後に日本のために命を懸けて戦ってくださった方々が祀られてる神社なのに、マスコミはまるでファシスト礼賛神社のように報じますよね。故人に対して大変失礼ですよね。
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 13:30
総理の靖国神社参拝の度に大騒ぎするこの状況に対し英霊たちは何を感じているのだろうか。国が始めた戦争であり多くの兵士は赤紙一枚で戦場に派兵され散っていった。僕が遺骨収集を続けているのも国の為に戦い亡くなった方々に対し冷たい国は、そんな国はいずれ滅びると感じているからだ。
—-(以上引用)—————–

3.毛沢東生誕120周年日の靖国参拝
しかし,26日の靖国参拝は,お隣の中国にとっては,衝撃であったにちがいない。あまりにも危険なので中国側は自制しているが,それでも新華社や中国日報の記事を見ると,その衝撃は十二分に察知できる。

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 ■「毛沢東氏の一生の印象深い微笑みの写真」/「日本の安倍晋三首相、第二次世界大戦のA級戦犯が祀られている靖国神社を参拝」(新華網日本語版12月26日,写真キャプション原文)

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 ■新華網表紙掲載写真(Xinhuanet, 26 Dec)

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 ■中国日報風刺画「歴史偽装(リ・フェン)」。アジア史の真実・安倍首相・クリスマスの組合せ (China Daily, 26 Dec)

この取り合わせの写真を見て,中国の人々は平静でいられるだろうか? 26日の靖国参拝が,隣国でこのように見られることを予期できないような人には,想像力のかけらもないといわざるをえない。

さらに憂慮すべきは,中国は情報戦略に長けていること。極東の島国で国内しか見ようとしない内弁慶日本とは,スケールが違う。

たとえば,ネパールでは,先述のように,中国日報はおまけとして配布されているし,新華社ニュースも広く参照され転載されている。事情は,アジアの他の地域でも同じであろう。安倍首相が国内向けに何を言おうが,アジアでは,中国発の情報の方が,ますます広く流通し,共感を得ていくことは明白である。

4.クリスマスと靖国参拝
26日の靖国参拝は,アメリカをはじめ西洋諸国にも深甚な衝撃を与えていることは間違いない。靖国神社は「神社(宗教施設)」であり,そこには第二次大戦のA級戦犯も合祀されている。その靖国神社への首相参拝は憲法の政教分離原則違反。それは,大東亜戦争の政治的正当化であるばかりか,さらには宗教的神聖化(聖戦化)でもある。

このような性格を持つ靖国参拝が,クリスマスを祝い祈りを捧げている人々に衝撃を与えないはずがない。宗教はあまりにも危険なので表には出さないであろうが,それがアメリカをはじめ西洋諸国の警戒心を一層高めることは間違いない。彼らは,日本国元首の靖国神社(Yasukuni Shrine)参拝を,政治的に,決して許容しないであろう。

5.天皇と安倍首相と靖国参拝
23日に天皇誕生日を祝っていた人々の中にも,安倍首相の直後の靖国参拝には衝撃を受けた人がいるにちがいない。

昭和天皇も今の天皇も,日本国憲法の遵守を幾度も明言されてきた。23日にも天皇は「おことば」で,こう語られた。

—-(以下引用)—————
戦後,連合国軍の占領下にあった日本は,平和と民主主義を,守るべき大切なものとして,日本国憲法を作り,様々な改革を行って,今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し,かつ,改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し,深い感謝の気持ちを抱いています。
After the war, Japan was occupied by the allied forces, and based on peace and democracy as values to be upheld, established the Constitution of Japan, undertook various reforms and built the foundation of Japan that we know today. I have profound gratitude for the efforts made by the Japanese people at the time who helped reconstruct and improve the country devastated by the war. (http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h25e.html)
ーーーー(以上引用)ーーーーーーーーーーーーーーーー

日本国憲法遵守のお立場から,昭和天皇は,A級戦犯合祀をきっかけとして,靖国神社参拝をやめられた。(一部異論については関係文献参照。)今の天皇も,靖国神社には決して参拝されない。

日本国の「象徴」の天皇が,憲法を遵守されるが故に靖国神社に参拝されないのに,日本国の「元首」であり他の誰よりも厳しい憲法遵守の法的義務を負う安倍首相が,靖国神社を参拝するのは,なぜか?

これは,近隣アジアの人々にも他の世界中の人々にも説明できない。いや,日本国民により選ばれ,日本国民を代表しているにもかかわらず,その日本国民自身にさえ,それは合理的には説明できないであろう。

谷川昌幸(C)

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【米政府声明】

Statement on Prime Minister Abe’s December 26 Visit to Yasukuni Shrine

December 26, 2013

Japan is a valued ally and friend. Nevertheless, the United States is disappointed that Japan’s leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan’s neighbors.
The United States hopes that both Japan and its neighbors will find constructive ways to deal with sensitive issues from the past, to improve their relations, and to promote cooperation in advancing our shared goals of regional peace and stability.
We take note of the Prime Minister’s expression of remorse for the past and his reaffirmation of Japan’s commitment to peace.

安倍首相の靖国神社参拝(12月26日)についての声明

2013年12月26日

 日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかしながら、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。
 米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。
 米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する。
(http://japan.usembassy.gov/e/p/tp-20131226-01.html) (http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20131226-01.html)
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【中国政府の抗議】

程永華大使,安倍晋三首相の靖国神社参拝に強く抗議

2013/12/262013年12月26日

 12月26日午後、程永華大使は日本の斎木昭隆外務事務次官と緊急に会い、安倍首相の靖国神社参拝について厳重な申し入れと強い抗議を行った。
 程大使は、きょう、安倍晋三首相が中国などアジアの隣国の激しい反対を顧みず、強硬に靖国神社を参拝したことに中国は極めて大きな憤りを感じ、強く抗議すると表明した。
 程大使は次のように述べた。靖国神社は戦前、日本軍国主義の対外侵略拡張の精神的道具であり、象徴だった。現在もアジアの被害国人民に対してこの上ない罪を犯した第二次世界大戦のA級戦犯を祀っている。彼らは日本軍国主義の対外侵略発動、実行の画策者、指揮者であり、近代史上、アジアと世界に非常に大きな災難をもたらした張本人である。安倍首相が国際社会やアジアの隣国、中国人民の強い関心と反対を無視し、あくまでも靖国神社を参拝したことは国際正義に対する挑戦であり、人類の良識を踏みにじるもので、日本の今後の進む方向に対するアジアの近隣国と国際社会の高度の警戒と強い懸念を引き起こさざるを得ない。
 程大使は次のように強調した。中国は日本軍国主義による対外侵略戦争の最大の被害国で、中国人民は日本の侵略戦争の中で深く重い災難を受けた。この歴史を正しく認識し、対処することが戦後の中日関係の回復と発展の政治基盤である。中日の四つの政治文書はこれについて明確に規定している。今回の安倍首相の参拝は中日の四つの政治文書の原則に重大に反し、日本側の約束に重大に反し、中日関係の政治基盤を重大に損ない、中国人民の感情を重大に傷つけた。
 程大使は次のように指摘した。現在、中日関係は依然として深刻な困難に直面しており、安倍首相の靖国神社参拝は歴史問題で再び重大なトラブルを引き起こし、両国関係の改善・発展に重大な政治的障害をもたらした。これによって引き起こされるすべての結果に日本は責任を負わなければならない。
 斎木次官は、日本は日中関係を重視しており、今回のことが両国関係に影響を与えることのないよう希望すると述べた。また斎木次官は安倍首相の靖国神社参拝について弁明した。程大使はこれに対し厳しく反論した。(http://www.china-embassy.or.jp/jpn/sgxw/t1112233.htm)

ギャネンドラ元国王もティカで祝福

10月14日,ギャネンドラ元国王は,例年通り,ナラヤンヒティ元王宮内のマヘンドラ・マンジールを訪れ,ラトナ・ラジャ・ラクシミ・デビ・シャハ元皇太后から祝福のティカ(टीका)を受けた。そのあと,「王室僧侶(राजगुरु)」からもティカを受けた。

元国王は,午後3時からは,マハラジガンジのニルマル・ニワス(元国王邸)において,一般人民数千人にティカを与えた。形式的には,王制時代とほとんど変わらない。

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■ニルマル・ニワス(USNepalOnline, Apr.20, 2008)

一方,ヤダブ大統領も,大統領公邸(राष्ट्रपति भवन)において,ハヌマンドカ・ダサイン・ガールなどのパンデット(पण्डित)からティカの祝福を受けた後,ジャー副大統領,レグミ暫定首相,政府高官,メディア関係者,そして一般人民にティカを与えた。こちらも,形の上では王制時代の国王とよく似ている。

ここで興味深いのは,世俗国家の大統領が,大統領公邸で,おそらく「公式行事」として,ヒンドゥー教儀式を行っていること。

131017c ■シタル・ニワス(大統領公邸,大統領府HP)

しかし,大統領には,元国王のような「威厳」はない。動画を見るとよく分かるが,元国王からティカを受ける人びとは敬虔そのもの,まるで現人神を前にしているようだ。これに対し,大統領の前では現世利益が隠しきれず,そのような敬虔さはほとんど見られない。

宗教が絡むとどこの国でもややこしいが,ネパールは国制の転換期ということもあって,何がどうなっているのやら,さっぱり分からない。

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 ■ティカで祝福する元国王と大統領(www.videosbisauni.com/ Oct.14)

谷川昌幸©

Written by Tanigawa

2013/10/17 at 21:40

国家元首のダサイン大祭参加

ネパールは世俗国家(धर्मनिरपेक्ष राज्य)になったが,大統領(राष्ट्रपति)は,依然として,国家元首(मुलुकको राष्ट्रध्यक्ष)としてダサイン大祭に参加している。

今年も,大統領はトゥンディケルでのプルパティ(फूलपाती)国軍パレード(11日)に副大統領,レグミ大臣会議議長(暫定首相),政府高官らを従え,参加した。そして,12日のマハアスタミ(महाअष्टमि)には,これまでと同様,ナクサルバガワティ,ショババガワティ,マイティデビ,バドラカリ,サンカタなどを参拝している。

このように大統領のヒンドゥー教儀式への参加は続いているが,それでも王制時代とは雰囲気が異なる。1990年憲法(第27条1)では,国王は「アーリヤ文化とヒンドゥー教の信奉者(an adherent of Aryan Culture and the Hindu Religion)」であり,ダサイン大祭は国家行事でもあったからである。。世俗国家の元首には,もはやそのような宗教的権威はない。

▼メディアのダサイン祝辞:ekantipur(10/13), Himalayan(10/13) गोरखापत्र(10/11)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/13 at 18:32

カテゴリー: 宗教, 憲法

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